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特集 Feature Vol.22-3 情報理論とデータサイエンス(全3回配信)

情報理論研究者
松嶋 敏泰(まつしま としやす)/理工学術院教授、データ科学総合研究教育センター所長
情報理論研究者
小林 学(こばやし まなぶ)/データ科学総合研究教育センター教授

未来の構築をデータ科学総合研究教育センターとともに

第3回は、松嶋教授が2017年より所長に就任した「早稲田大学データ科学総合研究教育センター」にフォーカスします。対談者として、同センターで専任センター員を務める小林学教授に加わってもらいました。小林教授は、通信分野における数学的理論の一つ「符号理論」を学生時代から研究してきた情報理論の専門家。センターでは学内外からのデータサイエンスに関する相談や共同研究のオファーを受けてファシリテートするとともに、所長である松嶋教授のリーダーシップを支えています。二人が、同センターの活動の特徴や、教育に対する思いなどを語り合います。

あらゆる分野の学生・研究者が利用できる場

松嶋 小林先生は、データ科学の研究のプロフェッショナルです。私はかつて先生とおなじ研究室にいたので知っていますが、先生はさまざまな分野の研究者や学生からの質問や要望に応えられる広い知識をもっておられます。まず、小林先生が専任センター員として、どのようなことを考えながらデータ科学総合研究教育センターの業務に当たっているか、お聞きします。

小林 私たちセンターのリソースを必要とする研究者や学生に対して、常に近くに寄りそいながら協力していきたいと思っています。センターを利用していただくときは、申請フォームに研究内容や解決したい課題を記入していただきますが、それをもとに面談し、相談内容をさらに詳しく伺い、膝と膝を突きあわせておたがいなにをすべきか考える、といった進め方をしています。また、学部や研究分野に関係なく、どんな研究をしている学生でも先生でも、全学的に利用してもらえることも心がけています。松嶋先生もよく言われているように、いまやあらゆる分野でデータを用いた研究がされている時代ですからね。

小林教授(右)は、早稲田大学大学院生時代、理工学研究科機械工学専攻経営システム工学専門分野に所属。符号理論を研究し、2000年「BCH符号のBCH限界を超える復号法とその軟判定復号法への応用に関する研究」という論文で博士号を取得した。「符号理論は1970年代からありましたが、1990年代に後半に“再発見”され、人工知能や機械学習の理論と融合し、情報通信分野に多大なインパクトをもたらしました」と小林教授。自身の研究も、符号理論から発展し、人工知能や機械学習までを対象としている。

企業とともにウィンウィン

松嶋 実際の利用状況について言うと、いま本当にさまざまなニーズが起きていて、期待の大きさを実感しています。早稲田大学内の研究者や学生からの相談はもちろんですが、企業の方も「早稲田と組んで研究したい」「課題を解決したい」と言っていただいていますよね。意外と多いのは、ただ単にセンターのデータサイエンスの資源を活用しようというだけでなく、「心理学の先生にも加わってほしい」といったように、早稲田大学の各分野の研究者の力も得て、総合的に取り組みたいという要望です。

小林 そうですね。実際ただひとつの課題解決をめざすのでなく、より総合的にセンター、そして早稲田大学の知を広く活用したいという利用者の考え方は私も感じますね。たとえば2018年7月に、早稲田大学とみずほ銀行は、データサイエンス活用の裾野拡大に向けた研究・教育に関わる学術交流協定書を締結しました。データサイエンスにおける共同研究やデータサイエンス教育プログラムの共同開発をはじめとする包括的な交流といえます。みずほ銀行には、センターも研究者の知も使って、日々のビジネス上の課題解決や新規ビジネスにつながる刺激を得ていただければと思いますし、一方、私どもからしても、みずほ銀行がもっているデータを使って教育や研究を進めることができます。

松嶋 銀行のように、人の一生のすべてに携わるような企業では、データを扱う業務がとても多くあることと思います。今回のみずほ銀行の場合もそうですが、包括的に交流や連携をはかれる相手先が増えていけばと思っています。センターに約50人いる兼任センター員の先生たちは、それぞれ専門分野をもっています。小林先生のようなデータ科学の専門家と、兼任センター員の先生の専攻分野とが参加して、研究課題に当たれるという体制をつくることができ、心強く感じているところです。

データ科学総合研究教育センターが主催した「メガバンクにおけるデータビジネスの未来」シンポジウム。みずほ銀行から講演者を迎えた。多数の早稲田大学生が駆けつけた。交流協定では、学生の教育にも力を入れる。専門性をもつ学部学生にセンターのプログラムを履修させた後、みずほ銀行で実践を経験させるといったデータサイエンス実践教育プログラムも実施している。

データサイエンスの考え方を身につけてほしい

松嶋 センターでは教育にも力を入れています。未来の社会を築く人材像はどういったものか。そうした人材をどう育てていきたいか。小林先生のお考えを聞かせてもらえますか。

小林 はい。その人がもっている自分の専門性とデータサイエンスの力を効果的に統合できる人物こそが、これからの社会でより重要になると考えています。また、そうした人物を育てていければと思っています。ただ単にデータをコンピュータに入れて、「あ、結果が出てきたな」と受けとるだけでは、専門性は活かされていません。どんなデータを入れるべきか。出てきたデータは自分の専門からするとどんな意味を見いだせるのか。合理的な結果といえるのか、意外な結果といえるのか、そしてなぜそういえるのか。そうしたことを専門的立場からきちんと説明できる人材が必要であり、そうした人材を育てていきたいと思っています。そのために、学ぶ人がデータサイエンスにどう取り組んだらよいのかの考えを、私たちが惜しみなく注いでいければと思っています。

松嶋 同感です。学生たちには、データサイエンスの考え方を身につけてほしい。大学は、知のプロセスを学ぶ場ですから。日々変わりゆくコンピュータやアプリの使い方を教えてもしょうがない。「一生もの」であるデータサイエンスの考え方を学んで、社会に出ていってほしいと思っています。

学生たちに対する期待を語る松嶋教授

人間だからこその「考える」という営み

松嶋 最後に、早稲田大学にこれから入ってくるかもしれない若い人たちにメッセージを贈りたいと思います。小林先生からお願いできますか。

小林 はい。いまや人工知能やビッグデータが社会で華々しく使われている時代になりました。これからは、それらをより積極的に活用していく社会になっていきます。いま人工知能やビッグデータ、そしてそれらの利用に興味をもっている人たちは、大きなチャンスを握っていると思います。単純な作業はコンピュータがやってくれるようになる。でも、ものごとの本質を捉えるといったことをコンピュータがするのはむずかしい。だからこそ、人間として本質を捉えたり、考えたりする力がより重要になってきます。ぜひ、コンピュータにはできないことをできる人間になってほしいですね。松嶋先生からはいかがですか。

松嶋 しっかり事実を見て、考えることのできる人間になることが大事だと思っています。「事実を見る」という部分は、データを得て分析するということ。一方、「考える」という部分は、自分の専門知識を使ってどうあるべきか、なにが必要かを見抜くということです。早稲田大学に入れば、どんな学部学科、研究科で学んでも、そうした人物になることができます。自分の専攻に加えて、データサイエンスを学ぶことができるからです。なかには大学受験で数学を受けずに入学する学生もいます。私どものセンターは、そうした人でもデータサイエンスの考え方を身につけてもらえるような教育を考えています。事実を見て、考える。この大切だを感じた人は、ぜひ早稲田大学に入ってきてください。私たちとともにやっていきましょう!

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プロフィール

  • 松嶋 敏泰(まつしま としやす)
    1991年、早稲田大学大学院理工学研究科経営システム工学分野博士課程修了。博士(工学)。日本電気株式会社勤務、横浜商科大学専任講師、早稲田大学工学部工業経営学科助教授、経営システム工学科教授を経て、2007年より基幹理工学部応用数理学科教授。2017年12月に設置された早稲田大学データ科学総合研究教育センターの所長を兼任。研究分野は情報理論とその応用。研究テーマは各種エントロピー、情報量を用いた機械学習、統計処理、通信、情報セキュリティ、制御などにおける最適性、性能限界などの理論研究と最適なアルゴリズムの設計とその性能評価。ハワイ大学・電気工学科客員研究員。カリフォルニア州立大学・バークレイ校・統計学科客員教員。電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ会長。電子情報通信学会 情報理論研究専門委員会委員長。情報理論とその応用学会副会長。品質管理学会理事。人工知能学会、電子情報通信学会、品質管理学会論文誌編集委員等を歴任。早稲田大学ラグビー蹴球部の部長もつとめる。詳しくは松嶋研究室
  • 小林 学(こばやし まなぶ)
    2000年、早稲田大学大学院博士後期課程修了。博士(工学)。1998年より早稲田大学理工学部助手、その後、理工学総合研究センター研究員、湘南工科大学工学部講師、准教授、教授を経て、2018年4月より早稲田大学データ科学総合研究教育センター教授(専任センター員)。専門分野は統計的学習理論、機械学習理論、符号理論。おもな研究テーマは、潜在クラスモデルおよび協調フィルタリングの研究、統計的学習理論と最適化アルゴリズムに基づく自動分類の研究、機械学習によるラーニングアナリティクスの研究など。

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