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培養細胞、生存率を大幅に向上 新たな三次元細胞培養技術の開発──理工・武田准教授

培養細胞、生存率を大幅に向上
新たな三次元細胞培養技術の開発──理工・武田准教授

2011/02/14

図1. 開発した三次元細胞培養容器。チューブを通じて培養液を流しながら培養する。

図2. 細胞培養システム全体の模式図。

図3. 三次元細胞培養容器における培養液の送液あり(+)となし(-)での細胞生存率の比較。棒グラフ上の数値はn = 3の平均値、エラーバーは標準偏差を示す。

早稲田大学理工学術院の武田直也准教授の研究グループは、三次元培養系における細胞の生存率を大幅に向上させる培養技術を開発しました。コラーゲンでできたゲルの中に細胞を包埋して、ここに培養液を流しながら細胞を育てることができる培養器材を開発し、培養液を流さない場合では12%だった細胞の生存率が71%と約6倍に増大しました。神経細胞に特徴的な細長い突起を伸ばす細胞を用いた場合には、培養液を流して培養することで、突起の伸びが一定方向に揃えられることも見出しました。本成果は、第20回インテリジェント材料/システムシンポジウム(第5回バイオ・ナノテクフォーラムシンポジウムとの合同開催)で発表されました。

研究の背景

生物の体を構成している細胞は、シャーレの底面に接着させたりゲル1の中に埋め込んだりして、ここに栄養分を含んだ培養液を与えることで体の外でも培養が可能です。シャーレの二次元的な底面に対して、ゲルに包埋する場合では細胞の全周囲がゲルの繊維で取り囲まれるため三次元細胞培養2と呼ばれます。生物の体も三次元の構造であるため、三次元細胞培養は生体内部により近い状況で細胞を培養できるとして、細胞活動の基礎研究や再生医療への応用を目指した細胞の構造体を作製する研究などが精力的に行なわれています。しかし、ゲルを培養液に浸すだけのこれまでの培養方法ではゲル内部に含まれる培養液を十分に交換することができず、培養細胞への栄養分や酸素の供給が不足したり細胞が排出した老廃物が蓄積したりなどで、長期的に細胞を培養することは難しいとされてきました。

研究の成果

武田准教授らは、ゲルの全体の培養液が定常的に交換するように、小型の流路にゲルを充填して培養液を連続的に送液できる培養容器を開発しました。本体はシリコーンゴムとガラスの組み合わせで、ここに幅と高さが各2 mmで長さが20 mmの流路が作り込まれています。流路の両端にはシリコーンゴムのチューブがつけられ、このチューブからマイクロシリンジポンプ3を使って微少量の培養液を連続的に流します(図1)。シリコーンゴムは気体の透過性に優れるため、酸素を培養液に供給できます。また、培養容器は小型なため、37℃に保った市販の培養機器の庫内へ設置して細胞を培養することが可能です(図2)。

この培養容器の機能を、神経モデル細胞であるラットの副腎髄質褐色腫由来のPC12細胞4を培養して検討しました。I型コラーゲンの培養用ゲルにPC12細胞4を包埋して培養容器に充填し、神経成長因子を含む培養液を流量0.01 L/minでゲルに流し入れながら培養したところ、1週間後の細胞の生存率は培養液が流れ込む入口部位のゲル内部で71%に達しました。一方、培養液を流さずに培養すると生存率はわずか12%だったため、細胞の長期間の培養において、ゲル全体の培養液を交換できる培養容器の著しい効果が確かめられました(図3)。この生存率の向上は、栄養分や酸素が豊富な新鮮な培養液が常に供給され、また培養細胞からの老廃物や一部の死細胞が産出する他の生細胞に悪影響を与える物質などがゲルの外へ排出された効果によるものと考えられます。

培養液の流れが細胞に与える影響も調べたところ、興味深い現象が見出されました。通常PC12細胞は突起を四方に不規則に伸ばしますが、流れを与えた培養容器のゲル内部では、突起が伸び出す細胞体の位置や突起の先端が伸長する向きが培養液の流れる方向に集中することが分かりました。すなわち、微小な流れの刺激を与えることで、神経突起の伸長を流れに沿った一定方向に揃えられることが示唆されました。

今後の展開、研究の社会的意義

本研究は、さらに長期間の三次元細胞培養を可能にする培養システムへの発展を目指しています。また、神経突起が一方向に揃った状態に多数の神経細胞をまとめて培養して、生体に見られるような神経の束とし、移植に使えるような組織の作製へと展開することも期待されます。

用語解説

1) ゲル:一般には食品のゼリーやゼラチンなどで馴染みが深い。高分子の鎖や繊維が複雑に絡みあったり互いに架橋されたりして主な骨格を形成し、これら高分子の間を液体が満たす構造をしている。含まれる液体の量により、ゲルの軟らかさが変化する。

2) 三次元細胞培養:ゲルに細胞を埋め込んで培養する場合は、細胞の前後・左右・上下の三次元がゲルの繊維で取り囲まれるため三次元細胞培養と呼ばれる。ゲルに含ませる液体には培養液を用いる。これまではゲルを培養液に浸すだけの培養方法が一般的であったが、培養液に含まれる栄養分および酸素の消費や老廃物の排出などが細胞により行われても、ゲル内部では新しい培養液への交換が容易に起こらず、長期的に細胞を培養する上で問題とされてきた。

3) マイクロシリンジポンプ:液体を満たした注射器(シリンジ)を非常にゆっくりと押し出すことで、1分間にpL(ピコリットル = 10-12 L)~ L(マイクロリットル = 10-6 L)の微量な送液を連続的に行うことができるポンプ。

4) PC12細胞:ラットの副腎髄質褐色腫由来の細胞で、神経成長因子を与えることで細長い突起を伸長させ神経細胞のような形態に変化する。神経モデルの細胞として用いられる。

報道情報

日経産業新聞(2011年1月18日)
先端技術欄「培養細胞、生存率6倍 -早大 ゲル流せる容器開発-」

研究グループ

本研究は、早稲田大学・武田直也准教授の研究グループにより行われました。

研究サポート

本研究は、私立大学学術研究高度化推進事業(ハイテク・リサーチ・センター整備事業「病態解明・診断・治療に向けた医・理・工学の融合研究」)の研究課題の一環として行われました。

研究に関するお問い合わせ先

武田 直也(たけだ なおや)
早稲田大学理工学術院 准教授(先進理工学部 生命医科学科)
TEL: 03-5369-7323
E-mail: ntakeda (at) waseda.jp

 

 

以 上

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