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がん抑制タンパク質複合体の機能を世界で初めて解明 理工・胡桃坂研など、遺伝病や発がんの原因解明に重要な一歩

文部科学省記者会見室で研究成果を発表する胡桃坂教授

文部科学省記者会見室で研究成果を発表する胡桃坂教授

今回の研究成果は「The EMBO Journal(欧州分子生物学機構誌)」の電子版にて論文 「Histone chaperone activity of Fanconi anemia proteins, FANCD2 and FANCI, is required for DNA crosslink repair」 として掲載されました。

概要

生物の遺伝情報であるゲノムDNAは、ヒトにおいては2メートルにも及び、それが約直径5マイクロメートルの細胞核に収納されています(図1)。遺伝情報はできるだけ正確に受け継がれなければなりませんが、DNAは常に損傷を受けています。このDNA損傷は、紫外線や放射線、更には飲食や呼吸が原因で引き起こされます。もしDNA損傷がそのままにされてしまうと、細胞はがん化してしまいます。このため、ヒトをはじめ、あらゆる生物はDNA損傷に対処するために、DNA修復反応を進化させてきました。

近年になり、多くの遺伝子疾患の原因がDNA修復の異常に起因することが明らかになってきました。その中に、ファンコニ貧血という非常に重篤な遺伝子疾患があります。先天的に再生不良性貧血を発症し、更に高い頻度でがんを発症するこの疾患は、DNAの酸化やアルコールの摂取などで生じる「DNA鎖間架橋」というDNA損傷の修復異常によって引き起こされます。この疾患の保因者は300人に1人と見積もられ、潜在的な患者も多いとされています。ファンコニ貧血の原因遺伝子は15個見つかっており、これらの遺伝子産物が恊働してDNA鎖間架橋修復を行い、細胞をがん化から防いでいると考えられている一方で、そのメカニズムは不明なままでした。これはDNA鎖間架橋修復で中心的な役割を担っている、ファンコニ貧血原因遺伝子産物FANCI-FANCD2複合体の機能が明らかになっていないことが大きく影響しています。そのため世界中でこのタンパク質複合体の機能の探索が行われてきました。

今回我々は、世界で初めてこのFANCI-FANCD2複合体の機能を明らかにすることに成功しました。通常、DNA修復を行うためには、修復タンパク質がDNA損傷に集積し、修復反応を触媒する必要がありますが、このことは細胞の中では容易ではありません。長大なゲノムDNAを小さな核に収納するために、我々ヒトをはじめとした真核生物ではゲノムDNAがヒストンタンパク質に巻き付きコンパクトに折り畳まれているのですが、このヒストンタンパク質が修復タンパク質の集積や修復反応を妨げるためです。我々の研究の結果、FANCI-FANCD2複合体は修復の際邪魔となるヒストンタンパク質をDNAから出し入れする活性を有していることが明らかになりました(図2)。したがって、FANCI-FANCD2複合体によってDNA損傷周辺のヒストンが取り除かれることで、DNA修復が容易になり、がん化が抑制されていると考えられます。これらの成果は、ファンコニ貧血の発症メカニズム、更には発がんメカニズムの解明に対し重要な知見を与えることに留まらず、新規の抗癌剤開発、そして将来的な遺伝子診断に対しても重要な手がかりを与えるものであります。

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リンク

早稲田大学理工学術院 胡桃坂研究室

以 上

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