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リスクへの合理的な対策のため「かもしれない」を定量化する 商学学術院・大塚忠義教授

研究最前線

社会に貢献する最新の研究についてお話を聞きました。

商学学術院・大塚忠義教授


1981年、早稲田大学理工学部卒業。生命保険会社および再保険会社でプライシング、リスク管理を担当し、外資系生命保険会社で商品開発担当の執行役員を務めたのち2010年退職。2013年武蔵大学大学院博士(経済学)取得、2014年早稲田大学大学院商学研究科助教を経て、2018年より現職。日本アクチュアリー会正会員。

リスクへの合理的な対策のため「かもしれない」を定量化する

保険会社や信託銀行において、保険や年金の商品を作るとき、例えば「死亡時に1,000万円を受け取れる生命保険に、35才の男性が毎月支払う額はいくらが適切か」といった価格を設定することを、プライシングといいます。プライシングには確率や統計といった数学の知識が必要で、集めたデータを数理モデルに当てはめることで、合理的な掛け金や支払い率を算出します。
また、保険商品を作ったのち、例えば「35才の男性が将来脳卒中を発症したら1,000万円支払うという契約を交わした。現時点でいくら準備していたら過不足がないか」というようにリスクを評価することをバリュエーションといいます。プライシングとバリュエーションに使う計算や理論は、保険数理と呼ばれており、私はこの保険数理を専門としています。

バリュエーションは近年、保険や年金そのものだけでなく、企業の経営管理やリスクマネジメントにおいても需要が高まっています。脳卒中を発症する確率を計算して将来の支払額を評価することと、一企業が今年度赤字を出す確率を計算して対策することは、考え方の根本が同じだからです。企業にとって、自社の事業活動によってどれくらい利益を得られるか算出することはできても、国内外の情勢に鑑みて損失の可能性を予測するのは容易ではありません。保険数理によって、どの程度のリスクがあるかを計量化し、利益の予測値と併せれば、より合理的な経営判断につながります。つまり、経営陣に利益獲得と同じくらいリスクマネジメントが重要だと納得してもらうためには、リスクも金額で表示し利益予測と比較してもらうことが近道です。
私は研究職になる前、理工学部数学科を卒業後生命保険会社に勤務し、保険商品のプライシングを担当していました。2000年代前半までの金融・保険商品は、顧客が高い収益を得られるように設計することが主流でした。しかし、収益性が高いということは、リスクが高いということでもあります。2008年のリーマン・ショックで多くの投資家や企業が損失を出してからは、風向きが変わり、重大なリスクを回避することが重要な観点になりました。私は、会社の中でリーマン・ショック前後の動向を見るうちに「保険数理を扱うには、数学の知識だけでなく、社会科学の知識も必要だ」と考えるようになり、大学院で勉強し、そのまま研究の道へ進むことにしました。

授業の風景


目下の課題は、日本国民の健康寿命と平均要介護期間の将来推計です。日本人の平均寿命の推計データは出ていますが、健康寿命の公式な推計データはありません。健康寿命の将来推計によって、医療や介護などの社会保障コストの正確な予測につながり、将来へ向けた介護保険制度などの改定にも役立つと考えています。

新設するアクチュアリー専門コース。資格だけでない、強みを持つアクチュアリーを育成します


研究とともに、教育においても保険数理は重要な分野になりつつあります。保険会社や年金関係団体でプライシングやバリュエーションに携わるには、国際的な専門職「アクチュアリー」になる必要があります。我が国では日本アクチュアリー会の試験7科目全てに合格した正会員でなければならず、しかも試験は合格するまでに7 〜10年かかる難関です。従来は企業に就職してから試験勉強を始めるのが一般的でしたが、近年は学生のうちから勉強を始め、1科目でも合格しているような人材が求められる傾向にあります。そこで早稲田大学は、2019年4月から大学院会計研究科にアクチュアリー専門コースを設置します。ここではアクチュアリーの試験に必要な知識はもちろん、業務に必要な会計、経済、税務、英語、データサイエンスなど幅広い学びを得られるカリキュラムを組んでいます。アクチュアリーになるだけではなく、自分ならではの強みを持つ“アクチュアリー+1”の人材輩出を目指して、学生の指導にも一層力を入れていきます。

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