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ありうるかもしれないモノ・コトを具現化する 理工学術院・橋田朋子准教授

研究最前線

社会に貢献する最新の研究についてお話を聞きました。

理工学術院・橋田朋子准教授

「植物が持つシステマティクな英知を工学システムに実装することに関心がある」と語る橋田准教授


もともと音楽大学に進学した私は、人によって、同じ物理量を聴いても心理量(知覚される音)が異なることに興味を持ち、人の潜在的な音楽能力について調べたい・その能力を生かした道具を作りたいと考えるようになりました。それが私の研究の原点です。大学院は、心理学と工学の二つの研究室に入り、心理物理実験と新しい音楽インタフェース制作に取り組みました。さらに、研究対象を人の能力だけでなく、人工物や自然物がもつ機能や物理特性にも広げ、ありうるかもしれないモノ・コトの具現化、すなわち、潜在的な可能性を見せるための道具を作ってきました。

Floatio:アニマシー知覚に基づく浮遊タンジブルユーザインターフェース


私の代表作に「Hand-rewriting」があります。コンピューターのように、紙の上で情報を書き換えることはできないか?という発想をもとに具現化しました。紙面上で、人の手描きとコンピューターによる描画を融合する技術で、手描きの自動消去や発色による加筆を可能とするシステムです。紫外線に反応して発色する機能性材料を紙に塗布し、紫外線を局所的に照射できるプロジェクターを作り、形にしました。この道具は、紙という道具や手描きという行為の新たな可能性を開く未来のツールと言えるかもしれません。

Hand-rewritingのシステム概要


ありうるかもしれないモノ・コトを具現化する方法は4つあると考えています。1つ目は、モノの優れた機能や特性を従来とは別の文脈で生かす方法です。例えばiPhoneの3Dタッチ機能は、本来は人の手による押し込み量を計測しますが、見方を変えれば重量の計測に使うこともできます。2つ目は、モノの機能や特性に新たな制御を加えることで、別の用途に活用する方法です。例えば、松ぼっくりが湿度によって鱗片を開閉させる機能に着目して湿度の提示・制御を工夫することで、「関節」や「バネ」といった機械要素を自然素材で実現するツールを検討しています。3つ目は、人が何かを別のものに見立ててしまうという習性に着目し、見立てたものの機能を技術で実現する方法です。例えば、ハンドヘルドプリンターの使用風景は、ペンで書いている動作に見立ててしまうことがあります。そこで、手描きが文字を太くしたり、大きくしたりできるように、ハンドヘルドプリンターを持つ手の動きを反映し、印刷文字の太さや種類を変化させる機能を実現しました。4つ目は既存の関係性、例えばモノと人の関係を変える方法です。2016年には研究室作品展として、人と機械の関係性を変えることをテーマに、東京デザインウイーク2016で、「HELLO HUMAN, GOOD-BYE HUMAN—機械から始まるインタラクション」展を開催しました。

http://hellohuman.strikingly.com/


理工学部であっても作品を作り展示を目指す理由は、技術を魅力的な形に具現化し、見て楽しいものにすることで、広く社会に問題提起するためです。一方、私たちは学会や論文に代表されるように、技術の仕組みを文章化して他人に説明し、再現を可能にするという活動も両立して行うように意識しています。
私たちが作る道具たちは、ありうるかもしれないモノ・コトを具現化するために材料を探すというトップダウンと、新しい材料の特性から何かできないかを探すボトムアップの両方の発想から生み出します。いずれにしても膨大なインプット、実際に手を動かすことなくして生まれません。学生たちは論文作成と展示作品の制作を通して、技術力と表現力を両方とも持ち合わせた人材として成長しています。これからも柔軟な発想で、楽しみながら探求を続けていきたいですね。未来をもっと面白くするために。

イチリーーーーーンシャ


※ハンドヘルドプリンター:インクの噴射口を直接物体にあて、文字などを印刷できる手持ちのプリンター

橋田朋子 理工学術院准教授

2003年東京藝術大学音楽学部楽理科卒。2009年東京大学大学院博士(学際情報学)取得、日本学術振興会特別研究員DC1、東京大学(IML 2008-2011、情報理工学系研究科 2011-2013)特任研究員を経て、2013年に早稲田大学理工学術院(基幹理工学部表現工学科)専任講師。2015年より現職。
 

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