南極12mテラヘルツ望遠鏡計画が切り拓く新たな銀河研究
宇宙では多くの星が銀河の中で誕生しますが、塵に覆われていると、その様子を可視光で観測できません。筑波大学を中心に計画が進む南極12mテラヘルツ望遠鏡「ATT12」を活用すると、宇宙初期から銀河形成最盛期の塵に覆われた銀河を100万〜1000万個規模で発見できる可能性が示されました。
ポイント
宇宙では多くの星が銀河の中で誕生しますが、それらの銀河の一部は大量の塵(ちり)に覆われているため、可視光では観測できません。塵には星などが放つ光を吸収したり散乱したりする性質があるためです。このような「隠れた星形成」を理解することは、銀河がどのように成長してきたかを明らかにする上で重要な課題です。
本研究では、筑波大学を中心として計画が進められている「南極12mテラヘルツ望遠鏡(ATT12)」について、どのような観測が可能になるかを詳細に評価しました。南極内陸部は地球上で最も大気中の水蒸気量が少なく、通常は大気中の水蒸気に吸収されてしまう遠赤外線やテラヘルツ波について、地上で最も天体観測に適した場所です。
シミュレーションの結果、ATT12に搭載予定の広視野な多色撮像カメラは、宇宙誕生から10億年未満の時代に存在する遠方銀河を発見できることが分かりました。また、南天の広い空を観測することで、塵に覆われているため可視光では観測が難しい銀河を100万〜1000万個規模で発見できる可能性が示されました。さらに、ATT12に搭載が予定されているもう一つの装置である分光器は、銀河内部のガスの密度や元素組成を調べる観測が可能となることが明らかになりました。これにより、宇宙初期の銀河進化を詳しく理解できることが期待されます。
本研究は、ATT12が宇宙の星形成史や銀河進化の解明に重要な役割を果たすことを示すものです。
研究代表者
筑波大学 数理物質系/高等研究院 自発研究ユニット 橋本 拓也 助教(自発研究ユニットフェロー)
筑波大学大学院 若杉 航希 物理学学位プログラム2年次 (研究当時)
関西学院大学理学部物理・宇宙学科 瀬田 益道 教授
国立天文台先端技術センター 松尾 宏 准教授
早稲田大学理工学術院 馬渡 健 講師
東北大学大学院理学研究科天文学専攻 Dragan Salak 准教授
研究の背景
宇宙では、多くの星形成活動が、銀河中の塵注1)に覆われた環境で起こっています。しかし、このような塵に隠された星形成は可視光では観測できず、その実態の解明には、より波長の長い遠赤外線やテラヘルツ波注2)による観測が不可欠です。これまで、アルマ望遠鏡(ALMA)注3)やジェームズウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)注4)などの大型望遠鏡によって宇宙初期の銀河研究は大きく進展しましたが、ALMAは一度に観測できる視野が比較的小さく、JWSTは主に中間赤外線までを観測対象としているため、広い天域に存在する塵に覆われた銀河を大量に発見し、その統計的な性質を調べることは依然として困難でした。
南極内陸部は極めて低温で標高も高いため、地球上で最も乾燥した地域の一つです。そのため、通常は大気中の水蒸気によって吸収されてしまう遠赤外線やテラヘルツ波を観測するのに適した環境です。筑波大学を中心とする南極天文コンソーシアム注5)は、この環境を活用した次世代観測施設「南極12mテラヘルツ望遠鏡(ATT12)」の建設を目指して研究開発を進めています。その実現に向けた第一段階として、南極地域観測第Ⅹ期6か年計画のもとで30 cmサブミリ波望遠鏡による観測実証が進められています。本研究では、ATT12によってどのような銀河をどの程度観測できるのか検証を行いました。
研究内容と成果
本研究では、ATT12に搭載を計画している広視野多色撮像カメラおよび分光器(図1)について、南極内陸部の大気環境や装置性能を考慮した詳細なシミュレーションを行い、観測可能な銀河の性質や検出数を評価しました。
その結果、広視野多色撮像カメラによる大規模サーベイ観測によって、宇宙誕生から10億年未満の時代に存在する塵に覆われた遠方銀河を大量に発見できることが分かりました(図1)。特に、南天約1万平方度に及ぶ広域観測によって、宇宙初期から銀河形成最盛期にかけて存在する塵に覆われた銀河を、合計で100万〜1000万個規模検出できる可能性が示されました。
さらに、分光器を用いた観測では、銀河の星間媒質中に含まれる酸素イオンや炭素イオンから放射される遠赤外線輝線を測定することで、銀河内部のガス密度や元素組成などの物理状態を調べられることが分かりました。これにより、宇宙初期の銀河において、どのように星形成や元素合成が進んだのかを詳しく理解できると期待されます。
本研究によって、ATT12が宇宙の星形成史や銀河進化の解明に向けて重要な役割を果たし、ALMAやJWSTと連携しながら、新たな観測領域を切り拓けることが示されました。
今後の展開
本研究により、南極12mテラヘルツ望遠鏡(ATT12)が、宇宙初期に存在する塵に覆われた銀河を大規模に発見し、その内部の物理状態を調べる能力を持つことが示されました。今後は、望遠鏡や観測装置の具体的な設計・開発を進めるとともに、観測戦略のさらなる高度化を進めます。
ATT12による広域サーベイ観測によって発見された銀河は、ALMAによる高空間分解能観測やJWSTによる恒星・元素組成の解析、さらに将来計画されている宇宙望遠鏡PRIMAによる高感度遠赤外線観測と組み合わせることで、多角的に研究できるようになります。
これにより、宇宙初期から銀河形成最盛期にかけて、銀河がどのように星を形成し、重元素や塵を蓄積しながら成長したのかを統計的に解明できると考えられます。また、ATT12は南極という世界最高水準の観測環境を活用した日本国内独自の大型観測計画として、宇宙初期から銀河形成の最盛期にかけての銀河進化を遠赤外線・テラヘルツ波で解明する新しい天文学の発展にも大きく貢献することが期待されます。
参考図

図1:本研究で評価した南極12mテラヘルツ望遠鏡(ATT12)の科学目標と観測の概要図 (ChatGPTを補助的に用いて作成)
南極内陸部の高地は、大気中の水蒸気が極めて少ないため、地上で最もテラヘルツ波による天体観測に適した場所の一つである(左)。本研究では、この環境に建設を計画している南極12mテラヘルツ望遠鏡(ATT12)の観測性能を評価した。ATT12は、宇宙初期から銀河形成最盛期にかけて存在する、塵に覆われた遠方銀河(サブミリ波銀河)を主な観測対象とする(上中央)。また、宇宙の歴史の中で、宇宙初期(赤方偏移6程度)から銀河形成最盛期(赤方偏移2〜3程度)に至るまでの銀河進化を研究する(上右)。ATT12には、広視野多色撮像カメラと分光器の二つの主要観測装置が搭載される予定である(下中央)。広視野多色撮像カメラは約1平方度(満月約4個分)の広い視野を一度に観測でき、大規模サーベイによって塵に覆われた銀河を100万〜1000万個規模で発見できる可能性が示された。一方、分光器による観測では、酸素イオンが放射する [OIII] 88 μm線や炭素イオンが放射する [CII] 158 μm線などの遠赤外線輝線を測定することで、銀河内部のガス密度や元素組成などの物理状態を調べることができる。これにより、宇宙初期から銀河形成最盛期にかけて、銀河の星形成史や進化、重元素や塵の形成過程の解明が期待される(下右)。
用語解説
注1)塵(ダスト)
大きさが約0.001 mm(1 μm)程度の非常に小さな固体粒子のこと。星などが放つ光を吸収したり散乱したりする性質がある。主に銀河内の星間空間に存在しており、そのため塵に覆われた銀河は可視光では見えにくくなる。ダストの熱的な放射は遠赤外線で観測され、遠方宇宙の場合は宇宙膨張の効果のために波長が伸びて、遠赤外線からテラヘルツ波帯で観測される。
注2)テラヘルツ波
周波数約1 THz(波長約300 μm)付近の電磁波であり、遠赤外線の波長帯に含まれる。塵に覆われた銀河や星形成領域は、この波長帯で強く光ることが知られている。一方で、大気中の水蒸気によって強く吸収されるため、地上からの観測は容易ではない。南極内陸部は、地上でテラヘルツ波観測が可能な数少ない観測地である。
注3)アルマ望遠鏡(ALMA)
アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉系(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)。南米チリのアタカマ砂漠、標高約5000 m の高原に建設された電波干渉計。日本を含む東アジア、北米、欧州が共同で運用している。極めて高い感度と角度分解能を有し、個々の天体を詳細に観測することに優れる一方、一度に観測できる視野は比較的小さい。
注4)ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)
NASA、欧州宇宙機関、カナダ宇宙庁が共同で運用する宇宙望遠鏡。可視光から中間赤外線までを観測し、遠方銀河、星形成領域、太陽系外惑星などを高い感度で調べることができる。宇宙初期の銀河を詳細に観測することに優れる一方、広い天域を一度に観測することは得意ではない。
注5)南極天文コンソーシアム
筑波大学を中心とした大学連合を軸とした共同研究チーム。関西学院大学、北海道大学、電気通信大学、埼玉大学、公立小松大学、福島工業高等専門学校、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、新潟工科大学、国立天文台、情報通信研究機構(NICT)などが参加し、日本初となる南極大陸での本格的な天文学の開拓を目指している。
研究資金
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(JP23K22529、JP25K00020、JP25H00661、JP20K14516、JP21H04489、JP23K13140)、国立天文台ALMA共同科学研究事業(2025-28A)、およびJST FOREST(JP-MJFR202Z)の支援を受けて実施されました。
掲載論文
【題 名】ATT12: The Antarctic 12-m Terahertz Telescope for Studies of Dusty Galaxies. I. Instrument Sensitivity and Science Forecasts
(ATT12:塵に覆われた銀河を探るための南極12メートルテラヘルツ望遠鏡 I. 装置感度と期待される科学成果)
【著者名】 K. Wakasugi, T. Hashimoto, N. Kuno, Y. Nagai, N. Nakai, K. Mawatari, M. Seta, S. Ishii, S. Honda, M. Ito, H. Matsuo, M. Nagai, Y. Nishimura, D. Salak, K. Sorai, and H. Yajima
【掲載誌】 Publications of the Astronomical Society of Japan (PASJ)
【掲載日】 2026年6月号に掲載
【DOI】 https://www.doi.org/10.1093/pasj/psag048







