「自分のモノ」という感覚の形成メカニズム
■ 我動かす、ゆえに我所有する ■
関西大学総合情報学部の佐々木恭志郎准教授、早稲田大学理工学術院の渡邊克巳教授、九州大学基幹教育院の山田祐樹准教授の研究グループは、人が「モノを所有する感覚」の形成メカニズムの一端を明らかにしました。研究グループは、あるモノをコントロールしている感覚がそのモノへの所有感の生起に関わることを明らかにしました。本研究成果は、2025年1月10日、米国心理学会が発行する『Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance』に掲載されました。
発表のポイント
- モノへの所有感は、そのモノをコントロールしている感覚に大きく依存。
- 特に自分の思い通りにコントロールしていることが重要。
- マーケティングやインターフェイス・デザイン設計への応用に期待。
研究背景
私たちは多くのモノに囲まれて生活をしていますが、その中でも自分の所有物については独特な感情を抱いているかと思います。お気に入りのマグカップ、貯金をはたいて買ったバッグ、四六時中扱っているスマホなど、いろいろなモノを所有しているかと思います。これらに対して、私たちは当然のように「自分のものだ!」と感じていると思うのですが、この感覚 (所有感) が生まれる仕組みの多くは謎に包まれていました。
実験心理学や消費者行動の研究から、「モノをコントロールしている感覚」がモノへの所有感の形成に関与している可能性が示唆されていましたが、それを直接的に支持する手がかりは乏しい状況でした。そこで、本研究ではモノへの所有感とモノをコントロールしている感覚の関連性について直接的に検証をする研究を行うことにしました。
研究手法
9つの実験を通じ、参加者がマウスを利用してコンピュータ上のボールを操作するタスクを実施しました。その際、マウスとボールの動きの間の遅延やマウスとボールの動きの一致性を操作しました。具体的には、遅延についてはマウスを動かすとすぐにボールが動く場合と、マウスとボールの動きの間に一定の遅延が生じる場合がありました。一致性については、マウスを動かす方向にボールが動く場合と、マウスとボールの運動方向の間に乖離がある場合がありました。このようなボール操作タスク後に、「ボールをコントロールしている感覚」や「ボールを所有している感覚」を測定しました。
研究成果
まず、これまでの研究で報告されていた通り、ボールとマウスの動きの間に遅延がない場合や動きが一致している場合は、ボールをコントロールしている感覚が強かったことがわかりました。そして重要なことに、このときボールに対して強い所有感を抱くことが示されました。つまり、ボールをコントロールしている感覚とボールを所有している感覚の間に関連があることが実証されました。さらなる実験で、自分の思い通りに動かせることが重要であることも明らかになりました。これらをまとめると、モノを所有している感覚は、そのモノを自分の思い通りにコントロールできることに大きく依存することが判明しました。
本研究の意義および実社会への応用(今後への期待)
自分の所有物は身近なものですが、所有物をいわば「所有物たらしめる感覚」である所有感が生まれる過程はほとんどわかっていませんでした。本研究は、モノへの所有感の生起に「モノをコントロールする感覚」が関与していることを実証し、モノの所有感の仕組みの一端を明らかにしている点で基礎科学的な意義があります。
また本研究は、あるモノに対して容易に所有感を付与できることを示しています。この知見を応用することで、所有感を意図的に強化するためのデザインやインターフェイスの開発に利用できる可能性があります。加えて、心理的な所有感が消費行動に関与していることを考慮すると、マーケティングなどへの応用も期待できます。
論文情報
論文情報:Sasaki, K., Watanabe, K., & Yamada, Y. (2024). Sense of object ownership changes with sense of agency. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 51(1), 50–69.
https://doi.org/10.1037/xhp0001253
※本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金 (JP17J05236,JP22K13881,JP22H00090,JP22K18263,JP24K21501,24K21505)、NTTコミュニケーション科学基礎研究所共同研究費およびJSTムーンショット型研究開発事業 (JPMJMS2012) の支援を受けました。