Comprehensive Research Organization早稲田大学 総合研究機構

その他

構造生物・創薬研究所
Institute for Medical-oriented Structural Biology

研究テーマ

疾病の原因となりうる生体超分子の高次構造を解析することで、疾病の原因を解析しつつ、新たな創薬ターゲット情報を取得し、実際の薬剤の開発を行う。

分野:科学

研究概要

本プロジェクト研究所では、Medical-oriented Structural Biologyと称して創薬を志向した新たな構造生物学研究の展開を目指す。
 疾病に関わる生理機能の根幹となるのは、多数の生体高分子(蛋白質やDNA, RNA)から構成される、巨大で複雑な生体超分子複合体である。生体高分子の立体構造をもとに薬剤候補化合物をデザインするという近年の創薬研究の世界的な潮流の中で、これまでに有用な薬剤がいくつも開発されてきた。ところが、構造解析の技術的な限界から、これまでは比較的小さな単独の生体高分子が主なターゲットとされてきた。しかし、より機能的な薬剤を開発するためには、生理機能の鍵を握る生体超分子複合体の立体構造を解明して複合体の機能メカニズムを明らかにし、薬剤の作用点を見つけ出すことが重要である。本プロジェクト研究所では、このように薬剤開発に不可欠であるものの一般に難度の高いと思われる生体超分子複合体を構造解析のターゲットとし、機能的な薬剤を開発することを目指す。
 本プロジェクト研究所は、佐藤政充(遺伝学・細胞生物学)、仙波憲太郎(分子生物学・がん研究)、浜田道昭(バイオインフォマティクス)、柳谷隆彦(医療用デバイスの開発)、の四人体制(早稲田大学先進理工学部、生命医科学科および電気・情報生命工学科)で開始する。なお、前所長の胡桃坂仁志(専門はクロマチンの構造生物学、現・東京大学)に発端する研究も継続していくため、胡桃坂を当研究所の顧問に嘱任することで、研究所レベルでの共同研究を展開していく予定である。
構造解析のターゲットとしては、胡桃坂の専門であるクロマチンの形成する生体超分子複合体、また、佐藤の専門である細胞骨格複合体に焦点を当てる。クロマチンは、生物の遺伝情報を格納するDNAが蛋白質とともに構築する構造体であり、細胞内の多様な因子群がクロマチンに結合して機能的な超分子複合体を形成し、遺伝情報の発現を多様に制御している。細胞骨格の微小管は神経伝達や細胞分裂に必須の役割を担い、その異常は細胞死・がん化・先天性染色体異常をはじめとする多様な疾病および症状の原因となることが分かりつつある。このように、クロマチンや微小管細胞骨格の破綻は多くの重篤な疾病に繋がることが知られており、創薬研究のターゲットとして極めて重要である。佐藤は、酵母を用いた微小管研究の実績が優れており、顕微鏡を用いた細胞観察の材料開発などでの実績がありこの分野を世界的にリードしている。胡桃坂は、クロマチンの構造単位であるヌクレオソームの構造研究において世界の最先端に位置しており、作製する試料は世界最高水準である。構造解析法としては、X線結晶解析に加えて、近年目覚ましく分解能が向上しているクライオ電子顕微鏡による単粒子解析を行う。浜田は、立体構造をもとにin-silico screeningで薬剤候補化合物をデザインすると同時に、クロマチンに相互作用する長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)などを情報科学を用いて明らかにし、創薬ターゲットとなる新たな超分子複合体の探索も行う。薬剤候補化合物の薬効解析を、柳谷の技術を用いて行う。具体的には、柳谷が持つ超音波振動を用いたQCMセンサ技術を用いて薬剤候補化合物と生体高分子間の解離・結合係数を明らかにする。佐藤および仙波は、薬剤候補化合物のターゲットである超分子複合体の機能解析を、細胞を用いて評価する実験をおこなう。さらに、薬剤候補化合物が細胞に与える影響・効能を酵母・ヒト細胞を用いて評価する。すなわち、佐藤は遺伝学的および細胞生物学的手法を駆使して、さらに仙波はがん細胞を用いて、候補化合物ががん細胞に与える薬効を評価する。これらの手法と浜田の情報学的手法とを共同でおこなうことで、薬剤デザインの最適化を目指す。佐藤は染色体・クロマチン関連因子の機能を遺伝学的・細胞生物学的に解析してきた実績がある。また遺伝子改変操作が簡単迅速に達成できる酵母の薬剤感受性株の開発にも参画してきた実績があり、酵母遺伝子に突然変異を導入することで特定薬剤の薬効を増強させた業績を有する。このように本研究所では、各研究者が独立して研究を進めるのではなく、各自がもつこれらの先端技術を結集して互いに有機的に連携させることにより、新世代の創薬研究を推進する。

研究報告

【2018年度】
当研究所は疾病の原因となり得る生体高分子の高次構造を解析することで、疾病の原因を解明しつつ、新たな創薬ターゲット情報を取得すること、ならびに薬剤の開発研究をおこなうことを趣旨としている。
 細胞致死率を上昇させる新規薬剤の開発を狙い、特定のタンパク質をターゲットした化合物スクリーニングを展開している。当該スクリーニングからは、がんなどの細胞を標的として致死率向上を狙う化合物などが得られる可能性がある。ここで、単純に既知のタンパク質に対する化合物を探索するのではなく、ターゲットとするタンパク質に対して人工的改変を施したうえで化合物を探索することで、新規の化合物が得られる可能性がある。ヒトは個人によってタンパク質に微妙な個体差をもつため、個体差を考慮して個人に合う創薬を目指すテイラーメイド型創薬スクリーニングのひとつの例として期待がかかる。

【2017年度】
当研究所は疾病の原因となり得る生体高分子の高次構造を解析することで、疾病の原因を解明しつつ、新たな創薬ターゲット情報を取得すること、ならびに薬剤の開発研究をおこなうことを趣旨としている。2017年度は所長およびメンバーの交代があり、新体制での研究活動となった。
 2017年度のひとつの活動例としては、細胞致死率を上昇させる新規薬剤の開発を狙い、特定のタンパク質とターゲットした化合物スクリーニングを開始したことが挙げられる。当該スクリーニングからは、がんなどの細胞を標的として致死率向上を狙う化合物などが得られる可能性がある。ここで,単純に既知のタンパク質に対する化合物を探索するのではなく、ターゲットとするタンパク質に対して人工的改変を施したうえで化合物を探索することで新規の化合物あるいはより薬効性が高い化合物が得られる可能性がある。ヒトは個人によりタンパク質に個体差があるため、それを反映したテイラーメイド型創薬スクリーニングのひとつの例として期待がかかる。

【2016年度】
 構造生物・創薬研究所では、生体超分子構造の立体構造を解明し、その構造に立脚した薬剤の開発を目指している。特に、構造解析のターゲットは遺伝子発現などのDNA機能発現の中核を担うクロマチンである。クロマチンの基本単位は、4種類のヒストンH2A、H2B、H3、H4を2分子ずつ含むヒストン8量体にDNAが巻き付いたヌクレオソームと呼ばれる円盤状の構造体である。ヒストンは多様な翻訳後修飾を受けることで、クロマチンの高次の構造を変化させ、DNA機能発現制御に機能することが知られており、ヒストン修飾をターゲットとした創薬研究が世界的に注目されている。そこで、2016年度は、特定の修飾を有するヒストンの試験管内合成系を確立し、修飾ヒストンを含むヌクレオソームの立体構造解析を行った。具体的には、遺伝子発現を正に制御するユビキチン化ヒストンの作製に成功し、ユビキチン化ヒストンを含むヌクレオソームの立体構造をX線結晶構造解析により明らかにした。それらの研究を通して、ユビキチン化ヒストンによるクロマチン高次構造の制御メカニズムに関する重要な知見を得た。また、クロトニル化ヒストンの調製にも成功し、その結晶構造を決定した。さらに、クロマチン高次構造形成因子とクロマチンとの複合体の立体構造を明らかにするために、クライオ電子顕微鏡による解析を行った。

【2015年度】
 本プロジェクト研究所では、クロマチンが形成する生体超分子複合体の立体構造解析を行い、複合体の機能原理を明らかにすることにより薬剤の作用点を見つけ出し、機能的な薬剤を開発することを目指している。2015年度は、重要な生理機能をもつ高次クロマチン構造の構造解析に着手した。特定のヒストンバリアントを含むヌクレオソームを任意の位置に取り込むヌクレオソームアレイ(複数個のヌクレオソームが連結したもの)を試験管内で再構成する技術を確立した。また、クロマチン高次構造形成因子がクロマチンに安定に結合するためには、特定の修飾をヒストンに導入するなどのさまざまな工夫が必要であるが、このようなヌクレオソームを作製し、高次構造形成因子とヌクレオソームアレイから成る複合体を作製することに成功した。これらについては現在、クライオ電子顕微鏡による構造解析を行っている。さらに、いくつかの転写因子を精製し、標的となるヌクレオソームとの複合体を精製することにも成功した。これらについても、X線結晶解析を進めるとともに、クライオ電子顕微鏡による構造解析に着手する予定である。
 2016年2月28日には、早稲田大学先端生命医科学センターにて、第3回ヒストンバリアントミーティングを開催した。

所長

佐藤 政充[さとう まさみつ](理工学術院)

メンバー

【研究所員】
佐藤 政充(理工学術院教授)
仙波 憲太郎(理工学術院教授)
浜田 道昭(理工学術院教授)
柳谷 隆彦(理工学術院准教授)

連絡先

E-mail:[email protected]

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