企業内データ、HRサービス事業者データを用いた組織経済学、人事経済学、行動経済学分野における実証研究
分野:科学
企業内データ、HRサービス事業者データを用いた組織経済学、人事経済学、行動経済学分野における実証研究
分野:科学
企業の生産性には大きな格差があり、その原因として、経営施策の違い、労働の質の違い、組織構造の違い、経営者の資質の違いなどが挙げられてきた。こうした企業内に見られる異質性がなぜ存在するか明らかにするために、企業内データを活用した実証研究の重要性は近年高まっている。ただし、先行研究は、企業内施策の効果を事後的に評価するというものが多く、研究者が経営陣と共にアクティブに介入していくケースは少なかった。それでは、企業が新しい施策を導入するまでその企業の効率性を判断する機会は現れないし、施策を導入する企業としない企業の異質性がある限り、一つの企業で明らかになったことがどの程度他企業にも一般化出来る普遍性を持つものなのかという外的妥当性欠如の批判を免れることは出来なかった。
現在企業の中に蓄積されているデータは、10年前と比べて大きく変わってきている。従業員や経営者の意思決定プロセス、コミュニケーション、非認知能力の評価などの情報が蓄積される中、個人レベルで人間の行動原理や選別過程を観測する機会が生まれつつある。事後的に施策の効果を見るのではなく、現時点でどのような非効率あるいは改善機会が生じているかを推察し、必要な施策を提案することで、より正しく施策の効果を計測する機会を研究者自身が作っていくことを一つの研究のスタイルとして提示することを目指して、本研究所を設立する。こうした活動を通じて、生産性格差の源泉についての解明も進むであろう。
上記を目的として、本研究所の中に、企業にデータ活用の方法を教示し、改善機会を共に議論する探索的な機能と、実際に企業内データの提供を受け学術的な研究を行う分析遂行機能を併せて備える。研究代表者が東京大学社会科学研究所在籍中に開始した人事情報活用研究会では、数年前からデータ活用に関心のある企業との関係構築に取り組んできた。こうした企業の中に入り込んで、研究課題を共に発掘し、そのテーマに即したデータの取得と利用を目指すのが本研究所の特徴である。そのテーマの範囲は、採用、男女格差、人材育成、評価、働き方改革、メンタルヘルス、健康増進施策、中間管理職の役割と生産性、組織内イノベーション、など人事と組織の経済学の範囲を超えて多岐にわたる。
また理論の構築も重要な課題であると考えており、理論家と実証研究の接点となるような発表機会も積極的に作って行きたい。企業との交流、理論構築、実証研究を一つの研究所の中に包含することにより、これまでデータの制約から明らかに出来なかったメカニズムの解明や、因果関係の特定に困難が伴った施策の効果測定を可能にする新しい手法を開発することを目指していきたい。
【2019年度】
大手企業17社を参加企業とする人事情報活用研究会を全10回(定例会5回、R講習会5回)開催し、2月7日に参加企業による最終報告会を行った。
学術研究としては、(株)みずほ総合研究所と共同で「働き方改革の実態調査」を行い、過去の働き方改革が日本企業の生産性にどのような影響を与えたか評価するための企業レベルのデータを収集した。また、総合化学メーカーから受け入れた人事データ、知的財産データを用いて、職場横断的なコーチング研修が、特許出願件数や引用数を高めていることを発見した。これは、日本企業のイノベーション力を高める上で、チーム力の向上や縦割り組織の打破が有効であることを示唆している。
主な成果は、査読付き専門学術誌掲載が2本(Social Science & Medicine, Journal of the Japanese and International Economies)、経済産業研究所ディスカッションペーパー公表が1本である。
社会奉仕活動としては、所長が、一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会に協力して、人事データやAIを活用する上での9つの原則を提示した「人事データ利活用原則第一版」の策定に携わった。また、株式会社リクルートのデータ利活用に関する諮問委員会の諮問委員として、同社のパーソナルデータ指針の作成とガバナンス体制の確立に係わった。社会啓蒙活動として、日経電子版ビジネスフォーラム戦略人事最前線、HRサミット2019、HRリーダーズフォーラムなどで基調講演を行った。
【2018年度】
2018年度に現代政治経済研究所人事経済学実証研究部会として活動を開始し、2019年3月にプロジェクト研究所として正式発足した。2018年度は、大手企業18社を参加企業とする人事情報活用研究会を全10回(定例会5回、R講習会5回)開催し、2月6日に参加企業17社による最終報告会を開催した。また、学術研究用の人事データ新規受入れは、既に人事データの提供を受けていた総合化学メーカーH社から知的財産データの提供を受けた。社内コミュニケーションの特許生産性への影響をテーマに分析を開始した。また、働き方改革の影響を計測するため、業務の可視化を行った輸送機器メーカーY社からのデータ提供について契約締結を行い、高齢者継続雇用制度の本人および同僚の満足度、ストレス、生産性への影響を計測するため、化学メーカーT社との協議を経て合意を得た。「中間管理職の管理スタイルと生産性効果」、「360度評価の有用性」、「対人スキル研修の生産性効果」「残業、深夜休日出勤、11時間未満のインターバルがメンタルヘルスに与えた影響」など4テーマでのワーキングペーパーをまとめた。主な成果は、査読付き専門学術誌掲載が2本(Industrial and Labor Relations Review, Journal of the Japanese and International Economies)、査読付き専門学術誌投稿中が1本(Social Science and Medicine)、経済産業研究所ディスカッションペーパー公表が2本である。
大湾 秀雄[おおわん ひでお](政治経済学術院)
【研究所員】
大湾 秀雄(政治経済学術院教授)
白木 三秀(政治経済学術院教授)
村上 由紀子(政治経済学術院教授)
黒田 祥子(教育・総合科学学術院教授)
伊藤 秀史(商学学術院教授)
エドマン ジェスパー カール ヨーラン(商学学術院准教授)
相澤 俊明(高等研究所講師(任期付))
【招聘研究員】
朝井 友紀子(シカゴ大学ハリス公共政策大学院ポストドクトラルフェロー)
明日山 陽子(本学術振興会特別研究員(PD))
内田 彬浩(スターツリー株式会社アナリティクス事業部部長)
恩田 正行
佐藤 香織(国士舘大学経営学部経営学科准教授)
Shangguan Ruo
角谷 和彦((独)経済産業研究所研究員(政策エコノミスト))
山田 隆史(スターツリー株式会社代表取締役、一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会副代表理事)