第二・第三言語音声習得のメカニズムと外国語音声教育への貢献
分野:教育
第二・第三言語音声習得のメカニズムと外国語音声教育への貢献
分野:教育
これまでプロジェクト研究所が主軸の研究としてきた、アジア言語話者の英語音声発話コーパスは、今年度中にJ-AESOPコーパスとして、世界の研究者を対象に無償で公開するめどがついたので、新たに、以下の(1)-(3)を新たに進める予定である。
(1)第二言語から第三言語習得のメカニズム
多様化している日本の言語環境・外国語学習環境と、世界共通語となった英語の多様化を踏まえ、様々な英語の発音への対応と、英語から第三言語(L3)への音声習得のメカニズムを考察し、効率的な外国語(Ln)の音声教育を調査・研究することである。アメリカ英語だけでなく、他の英語方言や、第一言語の異なる学習者の外国語訛に対応した英語音声習得と、英語以外のその他の外国語の音声習得のメカニズムの解明。
(2)日本語話者を対象とした、英語とフランス語の音声習得のソフトの開発
日本語話者を対象に、授業及び個人学習で使える発音矯正に使えるソフトを、フランスのArchean Technologiesの研究者と共同開発することになり、既に研究を始めている。
(3)様々な言語の母音の無声化現象の比較研究
母音の無声化現象は、さまざまな言語に起こることはよく知られているが、母音の無声化単なる声帯の状態の変化だけでなく、音節構造や知覚など、音声・音韻分野の様々な現象や理論と関連している。今回は日本語、パンジャーブ語、ベルベル語を軸に、諸語の母音の無声化現象を比較し、これらの言語話者間相互の母音や音声の知覚認識を理論的に検証する、仏パリ大学(Rachid Ridouane博士、篠原茂子博士)、米ノースカロライナ州立大学(Quandeel Hussain博士)、愛知淑徳大(天野成昭教授)と計画している国際共同研究。
ことばの科学プロジェクト研究所の大きな役割の一つに、学内の言語・音声・心理言語学の研究施設の維持管理がある。日本で一番言語学の研究者が在籍しているにもかかわらず、早稲田大学には言語学科がなく、研究施設が皆無であったため、音声・心理言語学実験室を外部資金で作り、それをことばの科学研究所で維持管理し、研究者だけでなく、学生たちが研究を遂行できるよう学内の環境を整え、学外からの言語学共同研究の窓口の役割を果たしている。また、実験室で学生を対象とした講習会等を毎学期開催している。
【2018年度】
2018年度はことばの科学プロジェクト研究所第四期の一年目として、これまで進めてきたアジア言語話者の英語音声発話コーパスのプロジェクトを発展させ、日本語アクセントの英語発話の理解度を、英語母語話者だけでなく、非英語母語話者による評価と、英語教師や音声の非専門家による評価に広げ、世界共通語・音声コミュニケーションツールとしての英語音声の在り方また、そのための英語音声教育法へと研究の方向を変化させている。またアジア以外の英語学習者の音声発話も研究に取り入れるべく、同様の研究を行っているヨーロッパの研究機関との交流を始めている。
一般向けの研究活動としては、11月にイタリアのTrento大学のManuela C. Moroni先生をお招きしての公開講演会、また1月に国際シンポジウムBLIT International Symposium on Neurobiology of Languageを理工学部のCELESEと共催で開催した。
教育への還元としては、研究室在籍の学生たちを対象とした、音声やプログラミングなど、学位論文の研究に必要な知識・技術を習得するための講習会を夏休みを利用して開催した。
また一昨年諸事情により開催できなかった研究発表会を時期を春に変えて復活させ、研究所所員はもとより、研究所員以外の方々も多く参加し、ことばに関する広い分野の研究発表会として開催した。
【2017年度】
2017年度はこれまで国際共同研究として構築してきたアジア言語話者の英語音声発話コーパス(AESOPコーパス)の公開に向けて、例年Oriental COCOSDAと連動して学会前日に開催しているAESOPの研究会で、コーパス公開のプロトコールの確認を行った。
またAESOPプロジェクトがまとまりつつあるので、新しいプロジェクトとして、学習者の言語が多様化している中での英語教育や、他の言語教育の実情を踏まえ、母語話者を基準とした音声教育ではなく、コミュニケーションに必要な音声教育の基準点を探る新規の研究計画を進めている。手始めとして、大学等で英語以外の語学を担当する教員の方々に、発音教育の問題点等を聞く機会を設けており、並行して、既に音声発話コーパスで共同研究を行っている他大学や研究機関、研究グループとの連携や共同研究の可能性を働きかけている。
他、毎年研究室在籍の学生たちを対象とした、音声やプログラミングの講習会を夏休みを利用して開催した。また、国際学会の招致活動と、2019年に早稲田大学で開催が決まっている国際学会New Soundsの準備委員会を発足させ、準備を始めている。
【2016年度】
2016年度はJ-AESOPコーパスの公開に向けて、アノテーションの見直し、修正と、話者のlevel判定の見直しを行い、韓国のグループとデータの交換を行った。AESOPコーパスの構築とコーパスを使った第二言語習得研究に関しては、研究員及び研究室所属の学生たちが、積極的に国内外の学会や研究会で研究成果を発表してきていることもあり、国内外にも広く知られるようになってきている。ここ何年かアジア以外の特にヨーロッパの同様の研究グループからの問い合わせや、学会等に招待されることが増えてきているが、2016年度はフランスのIPFC(L2仏語)やICEPAC(L2英語),ドイツのTriar大学(L2英語)等、第二言語の音声発話コーパス研究を行っている大学や研究機関、研究グループとの連携や共同研究へ具体的に動き出し、すでに相互の研究機関へ相互に訪問する等、交流が始まっている。
すでに動いている研究の成果は、毎年行われている研究所の研究発表会に加え、2016年9月には日本音声学会の90周年記念大会を共同主催し、AESOPプロジェクトを中心に研究所員とその研究室の学生の多くが成果発表をする機会を設けた。
【2015年度】
2015年度は、これまで国際共同研究として進めてきた第二言語としての英語音声発話コーパス(AESOP)の日本語話者のコーパス(J-AESOP)の収録を終え、データの公開に向けて、アノテーション法も統一し、順次進めることができた。それを受けて2015年10月にプロジェクト参加各国の代表が参加して上海で開催されたAESOP SeminarでJ-AESOPの進捗状況の発表を行い、各国で収録した音声データの公開に向けてのアノテーション法の統一、及びプロトコールの合意が得られた。
AESOPプロジェクトの進展に伴い、AESOPのデータを使った研究成果を対外的に開示する機会と多く持つことができた。特に研究室所属の学生が、データを使った研究を様々な国際学会で発表し、プロジェクト参加機関の研究者と研究内容について具体的に交流する機会を数多く持てたことは大きな収穫であった。特に2015 COCOSDA/CASLREでは、学生が筆頭著者の論文一本が優秀学生論文賞を受賞した。
2015年度はAESOPプロジェクトに加え、外部研究費を受けて、日本語学習者発話コーパス、フランスと学習者発話コーパス等、他の言語学習者の音声発話コーパスのプロジェクトも始まり、様々な第一言語、第二言語の音声習得を中心とした研究プロジェクトが走り出している。
【2014年度】
2014年度は、第三期のプロジェクト研の活動の軸としている学生のプロジェクト研研究活動への参加への促進として、毎年秋の研究発表会は、学生の研究発表の枠を広げ、各研究室の大学院生とポスドク、また学部生に研究発表をしてもらい、じっくり質疑応答ができる機会を設けた。これまでよりも、研究室を横断した、研究環境を整えるよう努力した。具体的には、所属している研究室以外の研究プロジェクトに学生が参加・協力し、異なる分野の知識や技術を学ぶ機会を積極的に設けた。また前年度に引き続き、学生が中心となり、プログラミングの講習会を夏休みを利用して、複数回行った。
2014年度は、これまで英語をプロジェクト研の軸となる研究として続けてきた第二言語音声発話コーパスを一般公開できる形に整えることを活動目的の一つとし、各研究室及び、研究室所属の多くの学生、研究者の協力を得、2015年度中に公開できる予定である。
海外との共同研究の準備も開始し、フランスのボルドー大学との感情コミュニケーションの研究や、大学院生を含めた双方の研究者の相互訪問の立案を行った。来年度の活動に向けて、外部研究費などを取得していく予定である。
【2013年度】
2013年度から、また五年間新たにことばの科学研究所としての活動を開始した。これまでの研究所としての活動のほとんどをそのまま発展・継続させることに加え、研究所所属の個々の教員の研究室で進めている研究を関連付けられるよう、研究室間の横のつながりを強化できるよう、様々な催しを行った。特に、これまで教員同士の研究会などが中心であった研究所の活動を、学生が中心となって企画・運営できる組織を立ち上げ、学生が研究を進めていくにあたり必要な知識、能力が身に着くよう、教員、学生が講師となりソフトの使い方や、プログラミングの講習会等を、学期に2〜3回の頻度で開催した。
プロジェクト研究所全体としての大きな活動は、毎年秋に開催する研究発表会に加え、2014年7月29〜31日に国際ワークショップ ”Perception-Production Studies and Corpus-based Approaches in Second Language Phonetics and Phonlogy”の開催しがあった。このワークショップは、研究所で進めている英語とフランス語の第二言語習得・教育に関する国際共同研究Asian English Speech Corpus ProjectとInterPhonologie du francais contemporainの共同国際ワークショップで、プロジェクト研究所員並びに、各研究室の学生、また共同研究に参加している各国の研究者が40人ほど参加し、開催された。
近藤 眞理子[こんどう まりこ](国際学術院)
【研究所員】
生駒 美喜(政治経済学術院教授)
菊池 英明(人間科学学術院教授)
小林 哲則(理工学術院教授)
近藤 眞理子(国際学術院教授)
酒井 弘(理工学術院教授)
篠原 靖明(商学学術院准教授)
ドゥテ シルヴァン マッチュウ ジュリアン(国際学術院教授)
原田 哲男(教育・総合科学学術院教授)
室井 禎之(政治経済学術院教授)
【招聘研究員】
喜古 正士(早稲田大学理工学術院総合研究所嘱託研究員)
SHORT Greg(Data Meister自然言語処理リードエンジニア)
PEREZ RAMON, Ruben(早稲田大学国際コミュニケーション研究科外国人特別研究員)
矢澤 翔(筑波大学 助教)
※2021年10月1日更新
waseda-iLaSS @ list.waseda.jp