Comprehensive Research Organization早稲田大学 総合研究機構

News

ニュース

プロジェクト研究所ちょっとお邪魔します! ヒューマンパフォーマンス研究所

科学×工学で拡張する身体能力とウェルネス

人間の身体に秘められた運動ポテンシャルを限界まで引き出し、最高レベルのパフォーマンスへと到達させるには──。スポーツ科学をはじめ、理工学、医・歯学などの知見を結集させた研究者グループの活動は、「科学でメダルを獲る」を旗印にコラボレーションを重ねながら、子どもや高齢者のための体づくり・健康づくりへと場を広げています。社会に役立つ研究を標榜する川上泰雄所長にお話を聞きました。

◆科学・工学の英知を結集して「身体能力」の仕組みを解明

川上泰雄(所長/スポーツ科学学術院教授)

──ヒューマンパフォーマンス研究所にはとても大勢の研究員がおられますね。専門分野も多岐にわたっています。

スポーツ科学、理工学を中心に、医・歯学、素材・機器開発など、他の大学や研究機関、民間企業の方々も含めて多種多様な分野のエキスパートが名を連ねています。総勢で約40名。本学のスポーツ科学学術院からは、身体機能に関する生体計測や生化学的解析、栄養摂取法、体育教育法、安全対策などの専門家が集まっていますし、理工学学術院の面々も、ヒューマノイドロボット開発、マルチモーダルインタフェース開発、センサ開発、画像解析、バイオインフォマティクスなどと多彩です。

他大学については、芝浦工業大学、東京科学大学、東京大学、愛知医科大学、明海大学などからの研究員が十数名に上り、なかにはスポーツ歯学、女性スポーツ選手のサポート、子どもの運動に関する研究といったユニークな分野を専門とする方もいます。さらに加えて、計測や解析で協力いただく産業技術総合研究所と、企業数社からのメンバーも交えて、多分野横断型のコラボレーションを進めています。一種のコンソーシアムといってもいいでしょう。

──それだけ研究テーマの幅が広いということでしょうか。

追究するテーマ自体は明確で、「人間の潜在的な身体能力を開発する科学の探究」に的を絞り、そのための具体的な方法論の構築を目指しています。同じ一つの目標に向かって、さまざまな分野のメンバーが、最先端の科学・工学の知見と技術を結集しているわけですね。その先には、スポーツ選手の競技力の向上や、子どもの健全な発育、中高齢者の健康増進に貢献するという目的があり、ひいてはそれらの研究活動を通じて得られた成果を、社会一般に広く役立つものにできたらと考えています。

──具体的にはどのような研究をなさっているのですか。

研究の柱となるテーマは次の4つです。①よい動作の体感・実践、②身体能力の徹底解析とタレント発掘、③最適なコンディショニング方法、そして④身体能力向上モダリティの開発。どういうことかというと、まず、走る、跳ぶ、漕ぐといった人間の基本的な運動能力のメカニズムを明らかにするのが①の研究。さまざまなセンサやツールを用いて、理想的な身体の動かし方を身をもって体験しながら追究します。人間の体の動きには、心理的な側面や技能レベル、生理的な特質などが関係してきますので、それらに応じた身体能力についても研究します。これが②で、例えば、アスリートの運動能力を調べて、ロボットで再現して競技力の秘密を探ったりします。③は、ストレッチングやメンタルトレーニングを取り入れたコンディショニング方法に関して追究し、④では、運動パフォーマンスを高めるための装具や指導法の開発に取り組んでいます。

競技力向上から、子どもの発育支援、高齢者の健康づくりへ

──そうした研究活動の成果としては、例えば、身体への負担を軽くするパワーアシストスーツのような装身具の開発も含まれるのでしょうか。

無関係ではありませんが、方向性は少し違います。私たちの目的は、身体能力を物理的にアシストする技術の開発ではなくて、人間の身体に本来的に備わっているポテンシャルを引き出し、より高いレベルの能力を発揮できるようにすることです。身体能力を拡張するための科学と工学、と言ったらいいでしょうか。例えば、子どもがより速く走れるようになるために、走るという動作のメカニズムを調べ、それを体現するある種のデバイスを創作し、実際にそれを使って速く走る感覚を体感してもらう。その練習を重ねることで、身体の使い方を知り、運動のセンスが引き出され、デバイスがなくても速く走れるようになる。そのような成果に結びつけることを意図しています。

ヒューマノイドロボットの開発もそうですね。人間とそっくりのロボットをつくること自体が目的ではありません。人間の身体特性や運動制御の仕組みをロボットで再現し、その研究成果を人間へと還元し、応用することを目指しています。最近ではヒト型ロボットの開発が国内外で進んでいますが、ありがちなのは、見た目は人間らしい動きをしていても、実は動作のメカニズムはまったく違い、モーターなどで擬人化しているだけというものです。我々の研究はそうではなく、人間の運動の仕組みを再現したものをつくり、例えば走りに関連するパーツの機能を改良することで動作がどう変わるかを調べ、それを人間の筋肉の動かし方や練習に応用する、というようなアプローチです。

──それがスポーツ選手のパフォーマンス向上だけでなく、高齢者の健康づくりや子どもの発育支援などにも応用できるということですね。

そうですね。2017年にこの研究所の前身が発足したときは、東京オリンピック・パラリンピックの開催が控えていたこともあり、アスリートの競技成績を上げることが大きな目標でした。「科学でメダルを獲る」をスローガンに日本人メダリストの増大を目指し、スポーツパフォーマンスの把握や改善のためのシステム構築に向けた基礎研究を続けてきました。もちろん、その目標は今も変わりませんが、競技への応用をステップに、高齢者や子どもを含む一般への展開へと歩みを進めつつあるのが今の段階です。

中高齢者の健康増進に関する活動でいえば、西東京市との協働プロジェクトがあります。中高齢者向けの効果的な体操プログラムを我々がデザインし、まず市の職員や一部の市民の方に実践していただき、地域の牽引役となるリーダーさんを養成します。その方々がご自分の住まいの近くで市民を集めて実践することで、徐々に市内全域に健康体操を広めていくというものです。そのようにして長く活動を続けていくと、市民みんなの健康度が上がり、医療費低減にもつながるのではないかと期待しています。

走る・投げるなどの基本的な運動メカニズムの究明から、パフォーマンスをより高めるための知見を導き出す。

研究成果を広く社会へ還元するためのアウトリーチ活動を

──この研究所では「科学コミュニケーション活動」にも力を入れているとお聞きしています。どのようなお取り組みでしょうか。

上手な体の動かし方を知る体験イベントなど、さまざまな科学コミュニケーション活動を展開。

研究活動やその成果を研究室の中に閉じ込めるのではなく、広く社会との接点を求めて発信していく活動です。例えば、日本科学未来館との協働で進めている「運動能力開発・拡張」プロジェクトでは、身体能力に関する体験イベントを不定期に開催し、子どもたちを含む一般の方々に参加してもらっています。身体能力の測定体験や実験デモ見学、トークショーなどと企画にも工夫を凝らしていて、元フィギュアスケーターの町田樹さんをお招きして、身体能力を引き出す「コツ」をプロの技術に学んだり、「カラダがうまく動いたり動かなかったりするのはなぜ?」をテーマにセミナーを開いたりしています。
4年間続けていた日本科学未来館での活動は2025年度で一段落しますが、今後は展開の場をさらに拡げていきたいと思っています。

こうした活動は、研究者同士の交流や成果発表の場づくりはもとより、子どもたちに研究活動に興味を持ってもらい、科学の未来を担う人材に育ってほしいという願いの表れでもあります。研究室の学生もスタッフとして参加していますが、子どもたちに教えながら自分たちが得る学びも大きいようです。やはり、研究活動はどのような形であれ社会と関わり、社会に役立つものでなければなりません。そのためのアウトリーチ活動も、プロジェクト研究所の大切な役割の一つだと考えています。

──国内外の研究者と連携するシンポジウムをよく開催されているのもそのためですね。そうした活動を、早稲田がハブとなって進める意義についてはいかがでしょう。

プロジェクト研究所すべてにいえることですが、異なる専門を持ち、違う領域で活動する教員や研究者、そして学生たちが縦横に交わることで、新たな発見や展開が触発されること。活動の意義はこれに尽きるのではないかと思います。一つの分野に閉じてタコツボ化することなく、どんどん視野を開き、活動を広げることができる。早稲田というのは元来、そういう志向性を持つ人が集まる場所であり、また大学もそれに適した環境づくりに努めてきました。この研究所も、それを体現する場所の一つであり続けたいと思っています。

──これからの目標をお聞かせください。

研究成果の社会実装を進めること。温めているテーマはいろいろありますが、一つ例を挙げると、中高齢者のための健康スマホアプリの開発です。10年近く前になりますが、身体計測データや生活習慣に関する情報を入力して、自分の健康状態を管理する「メタボウォッチ」というアプリを開発しました。今度は、身体能力の向上に役立つ効果的な歩き方などの運動パターンに基づいて、アドバイス・フィードバックを提供しつつ無理なく健康づくりができるようなアプリを考えています。自分を「知る」ためのアプリから、「変える」こともできるアプリへの進化です。完成したら、私自身もぜひ使いたいですね。

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/inst/cro/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる