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プロジェクト研究所ちょっとお邪魔します! データサイエンス研究所

産学コラボで無限に広がる ビジネスアナリティクスの世界 

「この上着、カジュアルすぎない?」「そうですね、こちらのジャケットでどうでしょう」──AI店員とのそんな会話も可能になるほど、テクノロジーは日々進化を遂げています。背後で支えているのは、データサイエンスという学問。データ分析にまつわる多種多様な学問領域を横断し、産業界との連携も力に変えて、ビジネスアナリティクスの可能性を拓きます。後藤所長と助手の山極さん、阪井さんに話を聞きました。 

データ分析のために、あらゆる学問の知見を総動員

後藤正幸(所長/理工学術院教授)

──データサイエンスという言葉はすでに社会に浸透し、一般によく耳にするようになりましたが、学問的にはどのような研究なのでしょうか。

後藤:世の中には異なる構造や内容を持つ多種多様なデータがあり、企業活動や消費者の生活などを通じて日々蓄積されています。街のお店のPOSシステムや、ECサイトでの消費行動によって積み上げられる購買履歴データなどもその一つですね。それらの膨大なデータを分析して、有用な知見を得るための科学的手法について研究する学問が、データサイエンスです。 

 データを科学的に取り扱う、すなわち分析するということは、以前からさまざまな学問分野で行われてきました。数学、統計学、情報工学、パターン認識、機械学習、人工知能、マーケティング、経営工学などというように。ただ、多くの場合は、先にデータ分析の目的があって、その目的のためにデータを取りに行く、というアプローチがなされてきました。つまり、知りたいことことが先にあり、そのためにデータを集めて分析する。例えば、薬品の効果を明らかにするという目的のために、実際に投薬をする被験者としない被験者にグループを分けて治験を行うようなことです。 

 ですが、データサイエンスではデータが先に存在していて、そのデータを分析するために多様な学問分野の手法を統合的に活用して、そこから新しい知見を導き出そうとするわけです。いわば、データが主役に躍り出た。なぜ、そのようなことが必要かといえば、社会のあらゆる場所にビッグデータが蓄積される時代を迎えたからです。そのデータは本来、分析以外の何らかの目的のために記録されたログデータであることが多いのですが、肥大化するにつれて何か別の価値を生む可能性が高まってきました。会計利便性のために開発されたPOSにより、購買履歴データの分析に基づくマーケティング活動の可能性が拡大したように。では、どのように分析すれば有用な結果が得られるか。今度はデータ分析の側から、多様な学問分野を束ねる必要性が出てきました。それらを活用したアプローチを学問的に体系化することが、データサイエンスの役割です。 

──データサイエンス研究所の研究員が、幅広い分野から集まっているのもそのためですね。  

後藤:はい、極めて学際的です。本学では先ほど申し上げたような専門分野の教員が、理工学術院や商学学術院、人間科学学術院、社会科学総合学術院、データ科学センターなどから参加しています。また、横浜市立大学、東海大学、城西国際大学、東京都市大学、上智大学、慶應義塾大学、東洋大学などと、他大学からの招聘研究員も多彩です。さらに、企業からも多くの方に研究員として、また共同研究のパートナーとして加わっていただいています。この研究には企業が持つ実データの活用が欠かせませんし、研究から得られたビジネスアナリティクスの手法を現実の企業経営や事業活動に組み込む方法についても、研究対象としているからです。 

データサイエンスが拓く新しいビジネスの可能性

──本日は後藤研究室に学ぶ博士課程の学生であり、助手として研究所の活動にも参加されている山極綾子さん、阪井優太さんにもお越しいただきました。どのような研究をなさっていますか。 

山極綾子さん

山極:私自身の研究としては、何かを見たり聞いたりしたときに人が感じる主観的なイメージを、機械学習やAIを使って定量化する方法を主なテーマとしています。例えば、花や動物の画像を見て「きれいだな、可愛いな」と感じるとき、その基準はとても曖昧で、人によっても感じ方はまちまちですよね。でも、ビジネスにとってそれはとても重要な情報で、もしある層の人たちが持ちやすい主観的イメージを特定することができるなら、より効果的なマーケティングなり販売戦略なりを打つことができると思うのです。

後藤:高度に発達した人工知能のおかげで、画像の認識技術は飛躍的に高まりました。例えば、画像による顔認証はほぼ100%の確度といっていいでしょう。反面、山極さんが言ったような、人によって感じ方の異なる画像の識別はAIにはまだ難しい。100人のうち20人が可愛いと言い、残り80人が可愛くない、またはどちらでもないと言うような商品があるとして、その20人のマーケットをAIが割り出し、確実に売り込むことができたなら。この基礎研究には、ある生花販売のEC企業が大きな関心を示しています。 

阪井:私は、機械学習モデルの信頼性についての研究をしています。例えば、猫とトラを識別するとき、機械学習モデルの中ではどのような分類が行われているのか。私たち人間なら顔かたちに対する経験的な印象からわかることですが、モデルが人間と同じ判断をしているとは限りません。逆に、猫とトラの区別を機械が間違えたとき、どの部分の判断にミスの原因があっ

阪井優太さん

たのか。それを突き詰められたなら、間違える可能性を認識したうえでモデルを使うことができる。つまり、より安心安全な運用が可能になります。

後藤:これは、説明可能AIと呼ばれる技術に関する基礎研究です。「それは猫です」とAIが答えたとき、その背後には膨大な量の学習データがあるわけですが、なぜそう判断したかについては実はわからないのです。ビジネスとしてはこれは大問題で、例えば、コンビニの監視カメラに組み込まれたAIが挙動不審な客を捉えて「万引き」と警告したとき、その確かな根拠がわからないことには咎めにくい。あるいは、AIの判断により、ある層の人たちに有効とされる販促クーポンを発行するとして、当てが外れたら損失が出てしまいます。なぜ有効なのかを説明してくれないと、意思決定ができません。そんな説明可能AIに対するニーズは、これからどんどん増大していくでしょう。 

産学共同研究が生み出す成果と社会実装への期待 

──データサイエンスの進展が、ビジネスの可能性を大きく拓くことになりますね。企業との共同研究も精力的に進めておられますが、どんなテーマがありますか。 

後藤:枚挙にいとまがないほどですが、例えば、山極さんが金融系企業と進めている共同研究では、お客様からの苦情対応の記録データを分析しています。苦情の内容は顧客によって千差万別ですし、そもそも分析のために蓄積したものではないのですが、もしかしたら苦情を減らすためのヒントが得られるかもしれません。また、子育て中の新米ママが使うQ&Aサイトのログ情報を分析するといった研究もあります。これも個別のケースに応じた膨大な質問と回答がありますが、これらのデータがどんなことに役立つかは未知数です。新しいビジネスか、サイト設計の改善か、回答精度の向上か。わからないところが面白さでもあります。 

 ──共同研究の成果をプレス発表されているものもありますね。 

 後藤:最近の例でいうと、ZOZO研究所と共同で、ファッションに対する曖昧な表現をAIが自動で解釈する技術を開発しました。「カジュアルな服装で来てください」などとよく言いますが、何がカジュアルで、どこからがフォーマルなのか、実はよくわからないという人は少なくありません。その不確かなイメージをAIが学習し、ユーザーからの質問に対して回答することができる「Fashion Intelligence System」です。「この服装の上半身をもう少しフォーマルにしたい」と言えば、「これでどうでしょう」とAIが提案してくれたりする。便利ですよね。この研究には、本学OBでZOZO研究所の一員である清水良太郎さんが参画してくれています。 

 ──お二人は、企業との共同研究でどのようなところに面白みを感じていますか。 

 山極:初めからこういうテーマで研究を進めたいと決まっているケースは少なくて、企業の方といろいろとお話をする中で、「こんなことが実現したら面白いね」「ビジネスに結びつくかもしれませんね」などと発想が膨らんでいくことが楽しいですね。 

後藤ゼミの学生たちも企業との共同研究に参加、ビジネスアナリティクスの可能性を体感する。

 阪井:不動産情報を調査している企業との研究で、過去に売買が行われた物件の特徴をもとに、これから売買が発生しそうな物件を予測するプロジェクトがあります。ZOZOとの研究もそうですが、どんな層にどういうアプローチで施策を打つと、どんなインパクトが得られるかというのは非常に興味深いテーマです。そういったグルーピングに役立つ研究ができたら面白いですね。

生成AIの活用で大きく変わるデータサイエンスの未来 

──生成AIが目覚ましい勢いで進展しています。データサイエンスへの影響はやはり大きなものがありますか。 

 後藤:甚大ですね。データという素材をいかに美味しく料理するか、というのがこの学問です。そのためには鍋や包丁などの料理器具に当たる分析ツールを、日頃から研いでおかなくてはなりません。それが基礎研究の役割ですが、その一つに生成AIという超強力なツールが加わったというイメージです。例えるなら、「玉ねぎ100個を美しくスライスしたい!」と発想したとき、そのアイディアを瞬時に実現してくれる道具が現れたような。これをどう生かして価値を生むか。今はその使い方、いわばレシピに関する研究が学会を賑わしている状況です。 

 ──データサイエンス研究所は2025年9月で2期10年を終え、3期目に入りました。これからの目標に生成AIの活用も入りますか。 

 後藤:生成AIの活用が、データサイエンスの分野でどう体系化されるのか。この研究所でもノウハウを溜めつつ、貢献していきたいと思います。生成AIは有能でフットワークのいい同僚になり得るかもしれませんが、仕事の質はその頼み方で大きくばらついてしまうのが現状です。生成AIを使い、データサイエンスのスペシャリストと同じ水準の分析結果を効率的に生み出すにはどうすればよいのか。これからの5年をかけて突き詰めていきたいですね。 

 阪井:私自身は、AIに馴染めない人たちにも使いやすい技術をつくること、社会の成長に役立つさまざまなデータが収集できる環境をつくること。そうしたことに貢献できたらいいなと思っています。 

 山極:そのためにも、企業をはじめとする実務者の方々とのコラボレーションに期待しています。実業界でのデータ活用が進み、私たち学術界の人間では思いつかないような発想が生まれ、両者の相乗効果がもっと多くの場面で見られるようになればと思います。 

 後藤:そうですね。若い世代のみなさんの活躍に期待しています。 

 

 

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