2024年度開講科目早稲田大学ティーチングアワード
総長賞受賞
対象科目:微分方程式と数理モデル
受賞者:久藤 衡介
本授業は、力学・電磁気学・生態学など幅広い分野で現れる 線形偏微分方程式を対象に、数学的解法と数理モデルの両面から理解を深めることを目的として構成されている。特に、微分積分やベクトル解析を道具として用いながら、ラプラス方程式,ポアソン方程式,熱方程式、波動方程式などの基本的な偏微分方程式の解法を丁寧に学び、数理モデルが記述しようとする現象が偏微分方程式の解として再現される仕組みを体感する内容となっている。
前半ではベクトル解析を活用し、ポアソン方程式や熱方程式の基本解の導出といった数学的側面に重点を置き、最大値原理などの重要な性質を学ぶ。また、波動方程式の解表示なども扱い、解析学の基本技法を実際の例に即して理解する。こうした数学的側面の学習と並行して、「数理モデルが記述しようとする現象」を解として再現する応用数理的な側面にも踏み込み、理論とモデルの往還的理解を促す構成となっている。
学習の到達目標としては、線形偏微分方程式の基本解法を習得し、それを理工系のさまざまな領域で応用できるようにすることが掲げられている。授業では毎回のレポート課題で学習内容の定着を図り、中間試験・期末試験を通じて理解度を確認する形式が採られている。
学習につまずきやすい視点を念頭に置いた講義形式の授業
久藤先生の授業設計の根底にあるのは、理解が早い学生を前提にしないという姿勢である。久藤先生は自身の学生時代を振り返り、「理解が速いタイプではなかったと思うんですよ」と語る。その経験から、「できない学生の思考回路はなんとなくわかるんです」と述べ、学習につまずく側の感覚を大切にしている。
授業では、教科書の内容をそのまま説明するのではなく、「ここが多分わかんないだろうな」と感じる箇所を起点に話を組み立てている。久藤先生は、「多分こういうふうに考えちゃうんですよ」と、学生が陥りやすい思考の流れをあえて言葉にしながら説明を進めるという。こうした説明の背景には、教える側と学ぶ側の前提のずれへの意識がある。久藤先生は、「教員にとっては当たり前に思えるところほど、学生には分かりにくい」と述べ、理解の出発点の違いに常に注意を払っているという。
このように、久藤先生の授業は、学生がどこで立ち止まりやすいのかを丁寧にすくい上げながら構成されている。理解に時間がかかる過程を前提にした説明が、学生にとって安心して学びに向き合える授業環境を支えている点が、この実践の大きな特徴である。
毎週のレポート課題を通して学習の定着を支える
レポートの取り組み方についても、久藤先生は柔軟な姿勢を示している。「独力で解けることが理想ですが、状況によっては友人と相談して提出してもよい」と述べ、レポートは試験のように出来不出来を評価するためのものではなく、各自の理解度や学習の進捗を確認することを目的としているという。評価においても細かな正誤にこだわるのではなく、「概ね理解できているか」を重視し、学習を継続させるための位置づけとしている。
こうした考え方のもと、レポートの締切は次回授業までに設定されている。「分からなければ友人に相談してほしいという意図がある」と久藤先生は語り、実際に授業前には、レポートをきっかけに学生同士が内容を確認し合う姿も見られるという。「そうしたやり取りが自然に生まれているのは、とても良い傾向だと思います」と話し、毎週レポートが理解度確認にとどまらず、学生同士の学び合いを促す仕組みとして機能していることを強調する。
また、生成AIの利用についても、現実を踏まえた姿勢を示している。毎週レポートを課しているものの、「昨今の状況を考えると、生成AIの利用を完全に防ぐことは現実的に難しい」と久藤先生は語る。その一方で、「だからこそ、最終的にはテストが重要になる」とも述べ、課題と試験を役割分担させることで、学生自身の理解度は対面での試験によって確認する方針を明確にしている。
学生の成果物を共有し、学生に気づきを与える
久藤先生の授業では、学生が作成した成果物を学習資源として位置づけ、授業に還元している。印象的な例として、受講生が授業内容を整理したポスターを作成した経験を挙げ、「私の授業を聞いて、その授業の内容をポスターにしてくれた人がいて」と振り返る。そのポスターについて久藤先生は、「これを見れば全体の内容が把握できる」「レクチャーノートの全部の内容がここに詰まってるって感じだった」と高く評価している。
この成果物は教員が作成したものではなく、学生が自主的にまとめたものであり、「これは私が作ったわけじゃないけど、自身のレクチャーノートより視認性が優れているので、実は授業準備でも活用させてもらっている」と述べている。現在では、そのポスターを授業開始時に配布し、「予習復習に使ってください」と伝えたうえで、学習全体を支える教材として活用している。
また、ポスターに限らず、「学生の優秀なレポートは(本人の許可をとって個人情報には注意して)紹介することもあります」と述べ、学生の成果を共有すること自体に意義を見出している。久藤先生は、「教員が書いているのではなくて、同じクラスの人がやってるんだとなると、自分も頑張ろうかなと思いますよね」と語り、成果物の共有が学生の学習意欲を刺激する点を重視している。



