2024年度開講科目早稲田大学ティーチングアワード
総長賞受賞
対象科目:生命科学B (1)
受賞者:坂内 博子
本授業は、先進理工学部電気・情報生命工学科に所属する学生の多くが履修する選択科目「生命科学」である。必修ではないものの、3年次の配属条件の一つに含まれており、結果として学年の大半、9割以上の学生が履修する。主な履修者は1年生で、例年70〜80名規模のクラスで運営されている。
学科全体の教育目標は、電気・電子、情報、生命といった異なる分野を横断的に理解し、それらを統合できる人材の育成にある。本授業はその中で「生命」に関する基礎的な素養を身につけることを目的とし、電気や情報を専門とする学生が、生命科学をどのように捉え、将来の専門と接続していくかを意識した構成となっている。
授業は対面、Zoomによるリアルタイム配信、さらに録画によるオンデマンド配信を併用するハイブリッド形式で行われている。教科書の内容をすべて網羅するのではなく、重要な概念を抽出し、最新の研究動向や新聞記事なども交えながら、生命科学を身近な学問として感じられるよう工夫されている。
誰も置いていかない授業を目指して
本授業の特徴のひとつは、「学びを止めない」ことを徹底して重視した設計にある。さまざまな事情で対面授業に参加できない学生が一定数存在する現実を踏まえ、対面参加が難しい場合にはZoomでの聴講や、後日のオンデマンド視聴によって学習を継続することを認めている。いずれの参加方法でも、小テストの提出をもって出席とみなし、「一度欠席すると取り返せない」という不安を学生に抱かせないことを心掛けている。「欠席が続くことで関心そのものが失われてしまうことを避けたい」という意図が、この制度設計の根底にある。結果として、学生は自分の状況に応じて対面またはリアルタイム、オンデマンド視聴を選択し、その選択に納得した形で授業に関わることができる。ただし、教場が最優先であることに変わりはなく、対面参加した学生にはインセンティブとして紙による課題提出の機会を設けることもある。
また、知識レベルやスキルの差への配慮も重要な柱である。特に1年生では、生命科学の事前知識だけでなく、デジタルスキルに大きな個人差がある。「スクリーンショットが何かわからない」「PDF形式が理解できない」といった学生が存在することを前提に、あえて授業内でそうした操作を要求する課題を設定している。「できないことが怠慢だと誤解される前に、大学で必要な最低限の技術を身につけてほしい」と坂内先生は語る。こうした課題はグループワークの中で実施され、周囲の学生の作業を見たり、相談したりする中で、自然とスキルに触れる機会が生まれる。完全に理解できなくとも、「こういうことができるのだ」という認識を持つこと自体が次につながる。最低限の到達点を全員がクリアすることを重視した設計は、「誰も置いていかない」授業理念を具体化したものだといえる。
教員と学生のコミュニケーション
本授業では、ハイブリッド形式でありながら、教員と学生、そして学生同士の双方向的なコミュニケーションが意識的に組み込まれている。授業冒頭では必ず問いかけを行い、「これについてどう思うか」「どんなイメージを持っているか」といった学生の事前認識を確認する。その学生の反応をもとに説明の深さや力点を調整している。
教室では挙手や発言を促し、Zoomでの参加者には挙手機能やチャットでの回答を求める。教室では「マイクリレー」を行う。特定の学生だけが指名される不公平感を避けるため、学生同士がマイクを次の人に渡していくマイクリレーにより、「教室の端から端まで意見を聞く」場面を意図的に作っている。この仕掛けによって、発言が特別な行為ではなく、授業の流れの一部として位置づけられる。
さらに、グループワークも重要なコミュニケーションの場である。対面では近くの学生同士、Zoomではブレイクアウトルームを活用し、同じ課題に取り組む。例えば細胞骨格を扱う回では、CG動画の一場面をもとに「これは何で、何をしているのか」を話し合いながら整理する。授業を聞いていれば解ける内容であるが、あえて言語化し共有することで、理解の確認と修正が自然に行われる。
加えて、坂内先生の手書きによるフィードバックも学生との重要な接点となっている。中間・期末試験は紙で実施し、教員が手書きでコメントを書き込んだうえでPDF化し、Waseda Moodleで個別に返却する。大学の授業では誰かに見てもらえている実感を得にくいのではという懸念から、「見てもらっている感」を重視した取り組みである。坂内先生が「小学生でも大学生でも、ノートに一言書いてもらえるだけでやる気は出る」と語るとおり、この姿勢が学生の学習意欲を下支えしている。
このように、本授業は単なる知識伝達の場ではなく、学生の声を拾い上げ、それに応答する仕組みがある。このような細やかな工夫の積み重ねが、学生の継続的な参加と学びを支えている。




