2023年度開講科目早稲田大学ティーチングアワード
総長賞受賞
対象科目:Corporate Finance(MSc in Finance)
受賞者:伊藤 友則
「Corporate Finance」の授業は、企業金融の基礎理論を学び、最終的に財務戦略を理解し、企業価値評価をも行うスキルを身につけることを目的としている。「資本構成や資本コスト、リスクとリターンの関係、投資決定の理論、などを学び、それを基に株主還元についての考え方を理解し、企業価値評価の手法を学ぶ授業です」と伊藤先生は説明する。
授業は秋学期に開講され、受講生は約20~30名。ファイナンスの基礎理論を理解するために、講義だけでなく、学生の発言や議論を積極的に取り入れている。「一方的な講義になってしまうと、学生の集中力が続かないため、できるだけ質問を投げかけたり、学生との議論の時間を設けたりしています」。
また、学生の主体的な学びを促すために、授業前に教科書の該当部分を読み、課題に取り組むことが求められる。「課題に答えるには、教科書の内容を理解している必要があります。授業の冒頭で『あなたはどう答えましたか?』と指名することで、予習を促しています」とのことだ。
「発言点」を取り入れ学生の主体性を高める
この授業では、成績評価において発言点が大きなウェイトを占めている。「クラスでの発言が成績の3割を占めるように設定しています。他の授業に比べるとかなり高い割合ですね」と伊藤先生は説明する。これは、学生が授業に積極的に関わるよう促すための工夫であり、「発言を重視する仕組みは、私がハーバードビジネススクールで学んだ経験から取り入れました。ハーバードではクラスパーティシペーション(発言点)が科目の5割を占めることもありますが、基礎科目であるこの授業では3割としました」という。このような仕組みは、日本の大学ではあまり一般的ではないが、学生の主体性を高める効果があり、海外の大学では取り入れられているそうだ。
また、発言の機会が偏らないように工夫もされている。「発言が少ない学生には、私の方から『あなたはどう思いますか?』と指名することで、発言のチャンスを与えています」。さらに、授業終盤には発言回数の少ない学生に対して、個別に注意喚起のメールを送ることもあるという。「『あなたの発言点はクラスの下位20%に入っています』と伝えることで、次回の授業での発言を促しています」。
異文化に配慮した授業運営
この授業は、外国人留学生を対象に開講されているため、異文化に配慮した授業運営が求められる。特に、発言の文化に差がある点に注意が払われている。「出身の国の文化の違いによって、授業で積極的に発言することに慣れていたり、慣れていなかったりします」。そのため、学生の発言を促すための工夫が必要となり、「発言が少ない学生については、議論に参加できないままになってしまうため、私の方から『あなたはどう考えますか?』と直接指名して発言の機会を作っています」。こうした積極的な働きかけにより、発言に慣れていない学生も徐々に発言するようになるとのことだ。
また、発言に対する評価の基準についても明確に伝えている。「発言点は正しい答えを言うことだけが評価されるわけではありません。間違ったことを言っても、それが議論の発展につながれば評価の対象になります」。こうしたルールを事前に説明することで、発言に対する心理的なハードルを下げている。
他大学の授業運営や学生のフィードバックを活かし、授業をよりよいものに
伊藤先生にとって、この授業は2023年度初めての担当であった。「初めて担当した授業なので、時間配分や課題の設定については試行錯誤しながら進めました。今年の経験を活かし、次年度に向けてさらに調整したい」という。
具体的には、「授業の進行ペースをより最適化したい」と考えている。「実際に教えてみて、ある部分は時間が足りず、ある部分は余ることがありました。こうした点を整理し、来年度の授業ではよりスムーズな進行を目指したい」と語る。
また、他の大学での授業運営の経験も活かしていきたいと考えている。「別の大学では、より応用的な内容を扱うため、外部講師を招いたり、ケーススタディをより多く取り入れたりしています。こうした要素を、この授業にも組み込めないか検討したい」とのことだ。
さらに、「学生のフィードバックを受けながら、より良い授業運営を追求していくことが大切」とも述べており、学生の意見を積極的に取り入れ、柔軟に授業を改善していく姿勢がうかがえた。