2022年度秋学期早稲田ティーチングアワード
総長賞受賞
対象科目:国際政治論(E)
受賞者:篠原 初枝
抽象的になりがちな国際政治学の「理論」。国際政治論(E)を担当する篠原教授は、国際情勢について一般化することがこの科目の目的であると考え、固くなりがちな「理論」を具体的なイメージとしてスライドに表現する工夫をした。また、学生からのフィードバックを参考にし、Zoomの機能を利用した投票を授業に取り入れて、多様なバックグラウンドを持つ学生たちの授業への参加と相互理解を促進した。
抽象的になりがちな「理論」を、あえて親しみやすい具体的なイメージで表す
国際政治論はアジア太平洋研究科の科目であり、すべて英語で行われる。学生の多様性に大きな特徴があり、2022年度秋学期には24名、16カ国の出身者が履修した。2022年秋学期は、教場に来る学生とZoomで参加する学生が同時にいるという、ハイブリッド形式で講義を行った。そのため、教授も教場にいる学生も、Zoom経由でPCを通じて発言をした。教授は教室とオンラインの学生たちが、いかにうまくコミュニケーションを取れるか工夫をこらしたそうだ。「Zoomの一画面におさまる人数だったため、全員の表情を見ることができました。ビデオオフにしている学生がいると私はいつも『どう、元気?』と、なるべく声をかけるようにしています」。
篠原教授は早稲田大学で教鞭を取って20年以上になる。教授のもともとの専門は外交史、国際関係史であり、国際政治論を教えるようになったのは着任後数年経ってからだそうだ。7年ほど前からパワーポイントを使って講義資料を作成するようになり、学生たちにわかりやすい資料を作るテクニックを独学で習得していったという。
「『国際政治理論』は多くの教科書が存在するほど確立された科目です。『理論』は抽象的なものになりがちですが、国際情勢について一般化することが目的です。 そこで、各学派について説明するときなど、私はあえて議論の本質についての私の理解を、具体的なイメージで説明しました」
例えば国際政治理論(IR theory)を説明する際は、学者たちがよく「レンズ」や「マップ」と表現するので、その比喩に従って親しみやすいイラストで表現した講義資料を作成した。また「構成主義」(Constructivism)についての講義で「今日の世界の状況をどう思いますか?」と質問する際は、世界地図を背景に、にっこり笑っている2人の顔と、ハートをちりばめたかわいらしいイラストを示した。「このスライドを見せた時、学生たちが笑ってくれたのを覚えています。私は、長年にわたり、複雑で抽象的すぎると思われがちな国際政治理論を、やさしく具体的に教えることに努めてきました」
講義資料は基本的に授業内で示す。必要な場合はスマホなどで撮影することを許可している。また、事前に欠席の連絡があった場合などはMoodleで資料を送っている。
Zoomの投票機能を取り入れたことが、学生たちが互いの事情に興味を持つきっかけに
篠原教授がこの授業で効果的に活用したのがZoomの投票機能である。簡単な選択肢を選ぶ方式の質問をあらかじめ用意しておいて、毎回の授業で、投票をしてもらうものだ。投票の結果、なぜその答えを選んだのかとの質問を投げかけたりすることで議論が活発になったという。投票結果はグラフにして次の授業までにMoodle上で閲覧できるようにした。学生授業アンケートでも「Zoomでのクイズは、主題に関する議論を生み出す最も効果的な方法だと思います」という回答があった。Zoomでのオンライン講義をするようになったことがきっかけで取り入れたが、アンケートの結果、反応がとてもよいことがわかったので、今後も続けていきたいと教授は話す。「私は日本出身。これは日本の大学の授業です。しかし、学生たちは多様な国の出身ですし、それぞれの見方があり、なぜそのように答えたかという理由もさまざまです。投票はお互いの視点を知るための、よいきっかけになりました」
丁寧なコミュニケーションを心がけ、多様な視点からの議論をより活発なものに
教授はシカゴ大学の大学院で学んだが、そこでの経験が役に立っていると話す。「当時は膨大な板書をしながら授業をする時代でした。それでも先生によってスタイルがあり、大学院の教授で、学者としてもすばらしい方に教わりました。70歳を超えていた大御所といえる先生だったのですが、『英語の流暢さなどは関係ない、コミュニケーションを取りなさい』と言われました。それが常に心にありますね」
学生授業アンケートの結果、評価点の平均が6点満点のうち5.73と非常に高かった。自由回答には「キャンパスに来る前から、関わりを持っているように感じ、孤立しているとは感じませんでした」というものがあった。学生と教授、あるいは学生同士のコミュニケーションが円滑にいくように、教授が雰囲気づくりを丁寧に行ってきたことが学生に伝わり、実を結んだ一例と言えよう。「例えば米中問題を、アメリカの視点で議論するのではなくて、学生の出身も多様で、いろいろな立場がある。それを私がうまく引き出しリードできれば、ディスカッションがおもしろくなりますね」
今後も学生からのフィードバックを参考にし、常に反応を見ながら対応していきたいと篠原教授は語る。「学生たちが非常に優秀でやる気があることに、深く感謝しています。フィードバックも大変ありがたく、重要だと考えています。今後は対面で授業をする予定ですが、Zoomの投票機能が学生から好評だということが、学生からのフィードバックの結果わかったので、対面であってもZoomを使用するなどして、引き続き授業で投票を実施することを検討しています。国際関係は現状が動いているので、理論と現実の狭間を考えつつ教えています。教員としても、いろいろな国の人がいて多様な視点を学べることがおもしろいところです」