2022年度春学期ティーチングアワード
総長賞受賞
対象科目:舞台芸術論
受賞者:菊地 浩平
広義の「舞台芸術」を対象として、特に「人形」やその文化と関連する事象や作品を取り上げて考察し、学生がそれぞれの視座を得ることを目標する「舞台芸術論」。担当する菊地浩平先生は、専門外である理系の学生であっても興味を持てるように内容や見せ方を工夫している。コロナ禍で現在はフルオンデマンド形式での授業だが、学生からのコメントシートの紹介などにより、対面のときと変わらない臨場感溢れる授業を実現している。
理系で事前知識がない大学1年生でも、舞台芸術論に興味が持てるように授業内容をアレンジ
「舞台芸術論」は、2018年に開設した理工3学部の1年生以上を対象とした科目だ。当初は対面授業だったが、コロナ禍で2021年度春学期からはフルオンデマンド形式での授業となっている。2022年度春学期は約300人が履修した。「シラバスでは、演劇やダンスだけではなく、大道芸やプロレス、アイドルのコンサートもすべて舞台で行われる芸術的な試みであり、本講義の対象であると説明しています。アニメやマンガなども取り上げていて、そうした内容に興味を持って履修してくれている人が多いと思います」。
菊地先生は、早稲田大学では文学部や文化構想学部で「演劇文化論」という科目も担当している。「文学部・文化構想学部の科目は専門性の高い内容で、事前の知識もある程度必要です。一方、理系の学生が学ぶこの『舞台芸術論』は、教養科目という位置づけです。また、1年生の春学期の科目なので学生は大学で学ぶこと自体に慣れていません」。そこで、事前の知識がない理系の1年生でも「舞台芸術論」の面白さがわかるように意識してカリキュラムを組んでいるという。
「たとえば、ロボットやアンドロイド、アバター、VRなど文理を横断するような事象を積極的に取り上げました。また、ある現代アーティストの作品を紹介したときには、理系の学生は興味を持つのではと考えて、その作品では『黄金比』が多く使われていることを説明しました。文系向けの授業では、そこまで黄金比を詳しく取り上げることはないですね」。こうした取り組みにより、学生授業アンケートの平均点が理工学術院の中で際立って高い結果となった。
毎回の授業でコメントを読むことで、フルオンデマンド形式でも学生の参加意識を高める
もともと、菊地先生の授業は学生との相互コミュニケーションを重視していて、それが特徴の一つになっていた。フルオンデマンド形式に授業のスタイルが変わっても、これまでの内容は変えたくなかったと菊地先生。「ライブ感や学生との一体感は対面授業と同じように提供したいと思い、当初は予備校のサテライト授業を参考にするなどいろいろ試行錯誤しました」。その結果、一部を参考にしたのが、Youtuberのやり方だという。「カメラに対する向き合い方や見ている人のコメントの拾い方などを参考に、授業で一体感を作る方法を検討しました」。
具体的な取り組みとしては、まず画面の中に常に菊地先生の顔が映っているようにした。授業内で映像を流す際も、あえて自分の顔を映し続けたという。「ファイル容量を考えれば映像だけのほうが軽くて済みますが、学生に私のリアクションも見てもらいたいと考えました。そうすることで、授業のライブ感がより高まるからです」。
また出欠確認を兼ねて、毎回授業後に提出させているコメントシートに書かれた内容の一部を、次のオンデマンド授業の冒頭で10~20分かけて紹介した。コメントシートは対面授業の時代からあり、当時も次の授業でその一部を紹介していたという。300人もいる授業のため、コメントをすべて読んでピックアップするだけでもかなり時間がかかり、コメントを紹介するため授業の収録は1回ごとに行わざるを得ない。「作業としては大変ですが、みんなかなり面白いことを書いてくれるので読むこと自体は楽しいですね」。
毎回コメントシートには、その回授業に関連した内容とそれ以外の感想の2つについて書いてもらうという。後者に関しては、ときには授業から逸脱した内容――たとえば恋愛相談などが寄せられることもあるそうだ。「ときどきはそうした内容も紹介します。それに対してコメントシートに返事を書く人がいて、コメントシートを介したやり取りが繰り広げられることもあります。もちろん、中心は授業に関わる話ですが、そうした等身大の大学生のコミュニケーションを見せることで、オンデマンドではあってもみんなで一緒に勉強している感じを出せたと感じています」。コメントの読み方も工夫をしていて、視聴中の学生に菊地先生の気持ちが伝わるようにリアクションは多少オーバー気味に取っているという。
最後にリアルタイム配信授業を組み込み、「人形参観」+コメント表示で授業を盛り上げる
さらに、最後の1回ないし2回はリアルタイム配信で授業を行い、学生にはライブ感を味わってもらう。2022年度春学期は、最終回の授業をリアルタイム配信にした。その際には、カメラをオンにしてもらい各自が私物の人形と一緒に授業を受ける「人形参観」も実施。大いに盛り上がったそうだ。「『人形参観』は私が他の科目や他大学でも行っている取り組みで、人形とのエピソードを語ってもらったり、人形をきっかけに世界や社会のことを考えたりという体感型授業です」。
また、初の試みとして「コメントスクリーン」というアプリを使用して、Zoom画面に学生からのコメントを直接表示することでも学生の参加意識を高めたという。「変なコメントも多少はありましたが、よいコメントをその場で取り上げられるのは面白いと感じました」。
今後の検討課題としては、「期末レポートの講評」を挙げる。期末レポートは授業の最後に提出するため、学生が他の履修者のレポートを目にする機会はない。「よいレポートがとても多いので、レポートの講評をする時間を作れたらと思っています。ただ、履修者が多く、事前にレポートを読んで講評をするには提出時期を早めなければならず、現実的には難しいですね」。現時点では、翌年の授業でレポートの話をする際に、前年のレポートで面白かったタイトルや概要を紹介している。