Center for Higher Education Studies早稲田大学 大学総合研究センター

本質的な理解にはコミュニケーションが大事。
どんな質問でもしやすい状況を提供する

2022年度春学期ティーチングアワード
総長賞受賞

対象科目:基礎の数学 建築(1)

受賞者:社本 陽太

 

理系の学部でも数学に苦手意識を持つ学生は存在する。建築学部の1年生を対象とした必修科目のこの授業では、苦手な学生も安心して質問できる環境を整えるなど、ひとりひとりに丁寧なケアを実施。形式的な論理の裏にある「気持ち」を説明し、直感的な理解を目指した授業には、「今まで受けた数学の授業の中で一番良かった」「苦手意識がなくなった」との声が寄せられている。

 

 

新たに学ぶ論理を使って、高校で習った内容を自分で説明してみる

数学の基礎を扱うこの授業の目標のひとつは、高校の数学と大学の数学との橋渡しだ。「扱うのは数学科の学生がやるような基礎の基礎ともいえる部分で、工学部の学生にとってはかなり抽象的です。大学に入ったばかりの学生がいきなり見せられても何をやってるか分からない人が多いので、その意味がきっちり分かるように心がけました」。

そのためにはできるだけ学生に主体的に関わらせることが必要と考え、単に与えられた計算問題を解くのではなく、自分で考えて説明させるようなオープンな質問を投げかける。「たとえば、新たに学ぶこの論理記号を使って高校で習った内容を表現するとどうなる?というように、自分が知っているものの中から、新しい言葉で表現できそうなものを自ら探してきて自由に作文してもらう感じです。ある論理を他人に説明するとか、自分で練習問題を考えて解説するなどの課題を出すこともあります」。

数回に1回設けた課題は、義務ではないにも関わらず80人中60~70人程度が提出した。「学生たちにとっては、与えられたことに答えるのではなく、自分のできそうなものを考えるのはけっこう面白かったみたいです。自分に解けそうな問題を自分で設定することは修士博士に進んでからも重要なスキルなので、その練習にしたいとの狙いもありました」。

そもそもこの授業では、建築の他の授業ですぐ役に立つ知識の詰め込みは意図していない。「この後に勉強を積み重ねて行く過程で、困ったときに参照してもらうためのものと考えています。今後必要になったときに、楽しかった思い出と共に、そこに戻って参照すればいいとの感覚を身につけてほしい。どの単元も、少なくともそのエッセンスは自分の中に残っていると記憶してもらえることを目指しました」。

匿名チャットで心理的ハードルを下げ、どんな質問も決して馬鹿にしない

この授業はZOOMのリアルタイム配信(オンデマンドでの参加でも可)で行ったため、授業中の質問は随時チャット機能で受け付けた。教員からの返信は全体に見える形で返すが、学生からの質問は教員しか見えないので誰が質問したかは他人には分からない。「80名規模となると対面授業では質問しづらいですが、チャットならこっそり聞けます。質問への心理的ハードルが下がるのは、オンラインならではのメリットですね」。

質問の取り扱いで「絶対に大事」と強調するのは、どんな質問であっても決して馬鹿にしないこと。「教員にとってはこんなこと?と思っても、顔には出さないよう気をつけました。数学は特に『分からないのは自分が馬鹿だから』『自分だけがついていけていないのでは?』と不安になりがちです。数学が嫌いという人は、実は学問の内容より、そういう嫌な思いを今までたくさんしてきたからではないかと思うのです。だから、どんなトンチンカンなことを聞いてもいいというメッセージが伝わるよう意識しました」。

何を質問したら分からない状況も考慮し、「ここをもう1回説明して欲しい人はどのぐらいいますか?」と尋ねて挙手ボタンで反応させたほか、「ここをもう一度説明してください」とのコメントも歓迎した。さらに「分からないと聞く人がひとりでもいれば他にもたくさんいるということだから、あなたが声をあげることは、分からなくても聞けない他の人を助けることにもなる」とも伝えた。

こうした配慮の結果、かなりの数の質問が寄せられたという。「オンラインでは学生のカメラも音声もオフで反応が分かりません。自分だけが突っ走っているのではとの不安が払拭されて、私自身の助けにもなりました」。

どんな声も無視せずにフィードバックし、何を聞いてもいいとハードルを下げる

数学が苦手な学生ばかりではなく、得意な学生が退屈しないことにも気を配り、授業の中間あたりで数学コラムのような時間帯を設け、発展的な内容も扱った。「絶対にわからないと困る簡単な内容と、もっと勉強したい人が挑戦する難しい内容をバランスよく配分するよう気を配りました。難しい内容は『これはチャレンジしたい人向け』とはっきり付け加え、今話している内容を学生はどう受け取ったらいいのか、その温度差みたいなものをしっかり伝えるようにしました」。

毎回の授業終了後には自由記述形式のアンケートも採っている。「質問でも感想でも何でもOK。出席点としては扱わず、単に自分が授業に参加している感覚を持ってもらうためのものです」。

書かれた内容に対しては次の授業でフィードバックする。「復習の時間が長すぎる」との声に対して、そこはなぜ譲れないのかきちんと説明するなど、ネガティブな発言も無視せずに対応した。「若干不躾と思われる意見も公開することで、何を書いてもいいんだと、他の学生の心理的ハードルを下げる役割があったので、そんな発言もありがたいです」。

コミュニケーションにこだわるのは、質問しやすい状況を作り、教員がきちんと受け答えすることによって学生はだんだんと分かっていく、そのプロセスを重視するからだ。「それが不足すると、形式的な論理の後ろにある背景などが伝わりきらず、結果的に理解できないケースが多いと感じています。この授業では、学生の声を無視せずにきちんと聞き、説明責任を果たしたことが、学生の満足度につながったのかなと思っています」。

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