Center for Higher Education Studies早稲田大学 大学総合研究センター

生命系の学生に向けて独自のチューニング。
興味喚起や膨大な内容を短期間で学ぶためのさまざまな工夫

2021年度秋学期ティーチングアワード
総長賞受賞

対象科目:有機化学A

受賞者:武田 直也

生命医科学科1年生の専門必修科目である「有機化学A」。有機物質の構造や反応を分子レベルで扱う基礎的な学問であり、分子レベルで生命現象をとらえる現代の生命科学を学ぶ基盤として極めて重要な学問だ。全8回のクォーター科目だが、担当する武田直也教授は、少ない回数でも効率的に学べるように、要点を抽出したレジメを予習のために事前配布(Plan)⇒授業(Do)⇒授業後の復習を兼ねた理解度確認アンケート(Check)⇒次回講義冒頭での理解度確認小テスト(Action)のPDCAサイクルで学習効果を高めている。生命科学に関連するトピックスも取り上げて学生の興味を喚起し、今回のティーチングアワードでは、学生授業アンケートで先進理工学部の中で最上位と高く評価された。

他の科目や生命科学との関連を具体例と共に紹介し、有機化学への関心を高める

2011年度から、生命医科学科の1年生に「有機化学」を教えている武田教授。当初の科目名は「有機化学」で武岡真司教授と分担して教えていたが、2017年度からは「有機化学A」「有機化学B」という2つのクォーター科目に分かれた。春学期で学ぶ「化学B2」と、秋学期の2科目「有機化学A」「有機化学B」は上中下の3巻から成る一連の教科書を使っているという。

「教科書別では、上巻の内容を『化学B2』で扱い、電子の軌道や化学結合、基礎的な炭化水素化合物などを学びます。『有機化学B』は下巻の内容に相当し、糖やタンパク質の生体分子や合成高分子などに重きを置いています。その間にあって、様々な官能基を持つ有機分子の構造や化学反応を扱うのが『有機化学A』で中巻の内容に当たります。この3科目は相互に関係しているため、前後のつながりを意識した授業を展開しています」。たとえば、春学期の「化学B2」の内容を入れて復習も合わせて学習したり、授業の一部に下巻の糖の内容を組み込んだりして、有機化学全体として理解できるように工夫している。

また、生命系の学生が興味を持ちそうな生命科学関連のトピックスは積極的に取り上げているという。「一例を挙げると、高学年の応用科目で学習するDDSや実験科目で実習する『細胞固定』の機構などです。今学んでいる基礎学問が、自分たちの将来の研究にどう関わりどのように社会実装されているかを知ると、学生たちの反応がよくなります。また、有機化学は分子に焦点を当てた現代の生命科学を研究していく上では欠かせない基礎学問の一つなので、本質をしっかり理解させる説明を心がけています」

独自にチューニングしたレジメの作成

「有機化学A」はクォーター科目のため、最後の試験を除くと授業回数は7回だが、教科書1冊の分量は400ページ以上にもなる。これに、前述の生命科学関連のトピックスを加えると、圧倒的に時間が足りなくなる。そこで、有機化学としての学問体系を損なわないように努めつつも、生命科学を研究するために重要な内容を抽出してトピックスも補記したレジメを作成している。「構成も教科書の記載順にはこだわらず、理解の助けになるように連関する項目を自分なりにまとめて組み立てています」。

4、5ページ程度にまとめられた各講義のレジメは、「タイトル」と「サブタイトル」にポイントを凝縮し、箇条書きと図表で簡潔に見せることも重視する。「何かを理解する際には、カテゴリを作ってうまく整理する作業が重要だと思っています。そこで、学生が自分で内容をカテゴライズできる助けになるレジメの作成を心がけています」。

また、武田教授は、レジメはあくまで「骨組み」なのだと強調する。「自習や講義の口頭説明の中で学生自身が重要と思う内容をメモして、レジメを膨らませて自分のノートを作る作業が理解の定着を促すと考えるからです。過剰に作り込むようなことはしていません」。学生が予習と復習しやすいように、レジメは講義の1週間前にWaseda Moodleで配布し、教科書の該当するページを記載するといった工夫も施している。ビジネス分野での定義とは厳密には異なるが、PDCAサイクルを念頭に置くと、予習のためのレジメの事前配布がPlanであり、授業がDoとの位置づけである。

「アンケート」と小テストによる復習と理解度確認

毎回、授業の冒頭には、前回の内容の小テストを実施する。テスト時間は3~4分程度で、終了後はすぐに答えを解説する。「テスト⇒解説と続けるのは、その場で理解を定着させるためです」。また、各回の授業後には、重要ポイントの理解度確認を目的とした任意参加のアンケートをWaseda Moodleで実施している。回答の選択肢が「Yes」「No」の簡単な設問がほとんどであり、しかも次回の小テスト内容を示唆しているため、学生は授業の重要な箇所を確認して効率的な復習ができるという仕組みだ。前述のPDCAサイクルにあてはめると、アンケートが理解度確認のCheckであり、復習と小テストのActionで理解定着を行うとの設計である。

アンケートの最後には質問やコメントを自由に書き込める欄も設けていて、あえて授業中に回答をして全員にフィードバックすることもあるという。「授業中にも質問は受け付けていますが、前述のとおり授業で扱う内容が多く時間的な制約もあります。アンケートによって学生の理解度がわかるだけでなく、コメント欄は学生とのインタラクティブなやり取りに役立っていると感じています」。授業のさらなる改善に向けた課題としては、このインタラクティブ性の向上を挙げる。「学生の反応を見ていて、レジメや小テストといった今までの取り組みは効果があったと感じています。今後は、講義にさらにインタラクティブ性を持たせたいと考えています。例えば、電子ツールを用いてアンケートをライブで実施する、来年度からの100分授業化で余裕のできる時間を使って対話形式を取り入れる、などいろいろと考えていますが、効果的な方法はこれから検討していきます」。

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