2021年度秋学期ティーチングアワード
総長賞受賞
対象科目:数学A1(線形代数) 社工
受賞者:久保 隆徹
創造理工学部の1年生全員が年間を通して学ぶ、必修科目の「数学A1(線形代数)」。久保隆徹先生が担当するのは社会環境工学科のクラスだ。数学自体を学ぶ学科ではないため、数学的な証明より練習問題に時間を割き、実社会での応用例を紹介するなど、学生が興味を持てる授業を工夫している。また学生から寄せられる質問を通じて、オンライン授業でも学生の理解度を正しく把握。そうした取り組みが、学生からの高い評価につながった。
質問を通して学生の理解度を把握、学生の声が新たな取り組み採用にもつながった
2016年度からこの科目を担当する久保先生。2021年度は、78人が履修した。久保先生が、「基本的な授業スタイル」と位置付けて授業の中で重視しているのが、学生から質問を受け付けることと、それに対して丁寧に回答することだ。毎回、授業後にはWaseda Moodleで質問を受けるほか、質問をしやすいように授業中はチャット機能での質問も受け付けている。質問の数は、対面授業の頃は毎回100本にも上ったという。2020年度にコロナ禍でオンライン授業(リアルタイム配信授業)になってからは数が減ったというが、それでも多い時では30~50本ほどの質問が寄せられている。
質問には一つひとつ丁寧に回答して、その回答はMoodle内にアップ。いつでも見返せる状態にしている。また、質問のうち、回答を全員で共有したほうがよいものに関しては、次の授業の初めに取り上げて紹介する。「同じような質問がたくさん来た場合は、『理解できていない人が多い』ということなので、授業で再度説明をする場合もあります」。質問の数やその内容を通して、学生の理解度を把握できるのがよい点だという。
「特にオンライン授業では、負荷をかけないため授業中は学生側のビデオをオフにしてもらっているので、学生の表情から理解しているかを読み取ることはできません。以前と比べて『質問』の位置付けはより重要になっていますね」。また質問(要望)が、新たな取り組みにつながったケースもある。具体的には、学生から寄せられた声を受けて、2021年度から練習問題の解説動画をMoodleにアップするようにした。「2020年度は授業中にiPadに書き込みながら説明をしていただけでしたが、それを録画してMoodleに上げたということです。学生からはいつでも復習できてよかったと言われましたし、試験勉強にも役立つのでよかったと思います」。
線形代数の社会への応用例紹介など、社会環境工学科の学生に適した授業を工夫
「数学A1(線形代数)」は、微積分と並んで理工系の学生が学ぶべき数学の基本だ。ただ、社会環境工学科が数学自体を学ぶ学科ではないことを踏まえて、久保先生は授業の進め方や重点の置き方を工夫している。毎回の授業は、「前回の復習がてら学生からの質問とその回答を紹介⇒その回の授業内容を説明⇒練習問題+その解説⇒最後に各自演習問題を解く」という流れで進むが、授業の中では数学的な証明の解説についてはあえて必要最小限に抑えているという。
「まったく証明をしないわけではありませんが、社会環境工学科の学生にとって必要がないと考えられる定理まで説明することはしていません。教科書には書いてあるので、興味があれば見てほしいと伝えています」。それよりも、練習問題の解説に時間をかけて、基礎的な部分の理解を深めてもらうことに時間を費やした。ちなみに、この科目を担当した当初は、どこまで線形代数を詳しく教えるかわからず苦労したこともあったというが、学生の反応を見たり、質問を受けたりする中で徐々に環境工学科の1年生にとって何が大事なのかわかってきたという。
また、線形代数は抽象的な概念が多いが、何の役に立つのかイメージできないと学生が興味を持てないと考えて、2020年度以降、授業では折に触れて線形代数の社会への応用例を紹介するように工夫している。特に、最後の回となる第30回では「都市の人口予測への応用」や「画像圧縮」など応用例を豊富に取り上げて、それぞれで使われる線形代数を説明した。全授業の最後に学生から寄せられた感想では、「何に使えるのかがわかってよかった」という声が多く、中には「感動した」という学生もいたそうだ。
板書⇒スライド表示に変更したことで時間に余裕が生まれ、結果的に授業の改善もできた
2016~2019年度までは対面授業で、久保先生は板書をしながら説明をしていたという。しかし、オンライン授業になったことを機に、2020年度からは事前にスライドを作成して、授業中はそれを表示しながら説明するスタイルに変更した。「学生が見やすいように板書をしながらオンラインで授業をするのは、私のスキルでは大変なのではないかと思ったからです」。
結果的に、この変更はよかったと振り返る。板書に比べてスライドの表示はかかる時間が短縮されるため、授業時間に余裕が生まれたのだ。そして、その時間を授業の最後に行う演習などに振り分けることができた。またスライドは、事前にWaseda Moodleにアップしておくので、予習したいと考える学生は授業の前に見ることもできる。1回の授業で使用するスライドは10~15枚程度で、2020年度に30回分すべてを作成したという。
ちなみに、線形代数の社会への応用例を数多く紹介するようになったのも2020年度からだ。コロナ禍で中間試験とその解説回がなくなった分を、応用例を紹介する回に充てたという。「スライドに変えたことは本当によかったと感じているので、この先オンライン授業から対面授業に戻っても、板書には戻さずスライドでの説明を続けたいと考えています」。なお今後については、これまでどおり学生の質問や要望に丁寧に耳を傾けて、もし改善の要望があってそれが負担なくできそうなものであれば、採用していきたいと考えている。