Center for Higher Education Studies早稲田大学 大学総合研究センター

理系の学生に身近なアプローチを工夫し、多文化共生を考える

2021年度秋学期ティーチングアワード
総長賞受賞

対象科目:東アジア文化研究

受賞者:渋谷 裕子

 

専門と直接関連の薄い一般教養の科目には消極的な学生も多い。理工学部で「東アジア文化研究」という授業を受け持つ渋谷准教授は、多文化共生をテーマとして設定。それを理系の学生が自分たちにとって身近なものとして考えられるアプローチを工夫して、学生参加型の授業を成功させている。

諸子百家の思想をベースに、日本における多文化共生を考えていく

この授業は、2019年度までは中国の映画などを見せながら中国の通史や文化について理解させるというものだった。しかし、2020年度にオンライン授業となったのを機に内容を見直し、15回のうち前半は中国の思想と文化について紹介したあと、後半は多文化共生といかに向き合っていくかというテーマを設定した。「コロナ禍でどこへも行けない閉塞感も考慮して、多文化共生という面から日本にいるアジアの人たちに目を向けてもらうことで、アジアを旅行するような気分を味わえればと考えました」。

前半パートでは、中国の乱世に生まれた思想である諸子百家を通じて、多様な個と社会とのあり方について考えた。「国家と個人どちらを大切にするのかなどの問題は、学生たちにも身近に感じられたようで、従来から関心の高かった話題です」。多民族国家である中国は文化共生に苦しんできた歴史があり、諸子百家のさまざまな思想は共生を考える上での基本となってきた。「それを学ぶことをヒントに、多文化共生を考えていく後半へとつながっていきます」。

後半パートは、日本にいるアジアの人たちのエスニックコミュニティを紹介しながら、多文化共生を考える。首都圏に存在するインド、ミャンマー、パキスタン、バングラデシュ、ベトナムのコミュニティやモスクなどのエスニックスポット、および各地域の歴史や文化的特色を取り上げると共に、増加する移民コミュニティが日本社会に与える影響を考察した。

その際、技能実習生制度や、地方創生と移民の関係、団地における多文化異世代共生の問題を取り上げるなど、学生たちが身近に感じる話題を組み込んだのが特徴だ。「たとえば将来製造業に携わる人は、ものづくりの担い手不足を技能実習生に頼る現状とどう向き合っていくのかを考えます。建築関係に進む人は、団地で起こっている移民との摩擦を解決のために、部屋やコミュニティをどう工夫するのかなどに関心を持ったようです」。

学生の感想や意見の公開と、有志の動画投稿で参加型の授業に

授業はすべてオンデマンド講義として行った。講義動画では、各国の概況や歴史などの知識を説明したほか、渋谷准教授自身がエスニックスポットに出かけて調べてきたことを伝えた。

さらに、講義を聞いた学生の意見や感想をまとめた動画も作成し、公開したのが好評だった。たとえば、「労働力人口不足を補うために外国人移住を推進する地方創生の方針に賛成するか」という問いを立て、小テストとして答えてもらう。その結果をまとめて、次回のオンデマンド講義の中で紹介した。「みんなの考えを聞けたこと、そして自分や友人の書いたものが紹介されるのがドキドキする感じも良かったようです」。

このような意見を募るための小テストは、以前の対面時には授業の最後に用紙を配り10分ほどで書かかせる形で実施していた。「今回のようにオンラインで提出してもらう方が学生はじっくり取り組む時間があるので、深い内容を書いてくれて良かったです」。

もうひとつ学生参加型の試みとして取り入れた工夫が、「理工生の見つけたアジア」というテーマで5分程度の動画を投稿させたことだ。「最初はエスニックレストランの食レポみたいなものが多かったのですが、だんだんと、自分の町にどのぐらいの外国人がいるか、自治体のゴミ袋に何語の表示があるかなどを調べて報告するようになりました」。投稿された動画は、カテゴリごとにまとめてすべて授業内で紹介した。2020年度には全員提出としたが、履修生が200人規模と多くまとめる作業が大変だったため、2021年度は有志のみということにした。それでも、採点対象にならないのを承知で、多いときは60人ぐらいの学生が投稿するなど盛り上がりを見せた。

学生が意見を書ける場としては、Moodleにフォーラムも設けた。「投稿動画への感想のほか、授業内で見せた社会性のある動画への感想を書いてもらったこともありました」。

アジアの人との交流で自分の人生を豊かにする可能性を伝えたい

この授業を受けた学生からは、「自分がどのようにアジアに貢献できるのかを考え、課題が見つかった」という声も聞かれた。

中国を専門とする渋谷准教授自身にとっても、今回の試みはプラスになった点も多かったと感じている。「ミャンマーやラオスなどの国については、私も改めて勉強しながら進めました。今まで中国から見ていたものを他の国から見るという新しい視点を得て、全く違う中国の姿が見えてくる面があるとも気づきました」。同時に、アジアの国々にどう向かっていくのかを一緒に考えながら、理系の学生の考えを聞けたのも収穫だったという。「講義動画を見返すと、我ながら楽しそうに話しているんですよ。私自身が楽しんで取り組めたのが、学生にとっても良い影響を与えたのかもしれませんね」。

早稲田大学は明治時代から中国人留学生を受け入れ、それが中国革命にもつながるなどアジアの人々のプラットフォームになってきた伝統がある。「学生たちにはそこをしっかり意識してほしいです。今も留学生はたくさんいるのに交流は少ないのが現状ですが、大学生活を通じて近くのアジアの人たちとコミュニケーションが取れれば、自分の人生が豊かになっていくんだと伝えたいですね」。

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