2021年度春学期ティーチングアワード総長賞受賞
対象科目:統計解析法
受賞者:永田 靖
この科目は、創造理工学部経営システム工学科の1年生向け必修で、
データサイエンス系の講義が多数開設されている同学科のなかでも、
その基礎を学ぶ重要なものと位置づけられている。
学生の興味とやる気向上を意識した授業は、わかりやすく丁寧な指導で
従来から高い満足度を獲得していた。今回はオンデマンドを取り入れたことで、
学生の理解度のばらつきに対応する効果もあったという。
つまらない授業を避けるため、短いスパンで講義と演習を繰り返す
「授業がつまらないから統計学を嫌いになるという状況は絶対に避けたい」と語る永田教授。学生に興味を持たせ、やればできると思わせるように、さまざまな工夫を重ねてきた。「興味があればやる気が出るし、やる気があれば理解も深まっていく。理解が深まれば次の興味に繋がる……というように、スパイラルでレベルアップしていくイメージですね」。
授業中は飽きないように「手を変え、品を変え、出し物を用意する」と表現する。授業設計の工夫としては、時間内に演習をたくさん取り入れ、講義と演習を短いスパンで繰り返す形を採用している。分かったという感覚を醸成するため、理屈の前に先に計算をさせるところがポイントだ。「通常の数学の授業などでは先に定理を証明してから例題を解かせるパターンが多いですが、証明している間にも学生はやる気をなくしてしまいがちですから」。
演習は、配布した作業シートに記入し自己採点した上で、授業後に提出する。以前はミニテストという形で行っていたが、採点の手間がかかったのに加え、他人の答えを写して提出するケースも見受けられた。「そういうことに後ろめたさを感じなくなるのもよくないので、その場で解答を教員が示して自己採点させることにしました。自分自身でできたかできないかがその場で分かることが大切だと考えました」。
大事なことは、言葉を変えて何度でも言う
説明をする際は、身近な例や短いクイズを取り入れるほか、複数の説明をすることと、重要なことは何度も繰り返すことを意識している。「学生はぼーっとしているときもありますから何度も言う。私自身の言い間違い、学生の聞き間違いもあるので、同じことを言葉を変えて繰り返すよう心がけています」。
使用するスライドにも工夫がある。該当する教科書のページを必ず記載すること、そして「13/26」のような形で、そのスライドが全体の中の何枚目なのかも表示することだ。「講義がいつまで続くのか分からないとやる気をなくしがちです。筋トレだって、何回続くのか分からずにやるより、『10回だからあと3回』と思えばがんばれますよね」。学生を呼び出して面談するときにも、「15分ぐらいで終わるから」などとあらかじめ伝えるようにしている。
オンラインで行った今回の授業は、講義がオンデマンドになっただけで、進め方自体は対面時と変わらない。ジョークやユーモアに対する学生の反応を見られないのは寂しいと笑うが、特にやりづらさは感じなかったと言う。むしろ、学生が各自のペースで聴講したり問題を解いたりできたのはメリットだと感じている。「できるだけ置いてきぼりになる学生が出ないようにゆったり目に、たとえば問題を解かせるとき、従来はだいたい9割ぐらいの学生ができるまで待って次に進むようにしていました。ただ、それだと早くできた学生は退屈してしまうという問題がありました」。オンデマンドならそういう無駄な時間はなくなるし、説明も分からないところは繰り返し聞ける。「学生による理解の速度のばらつきに対応するには、オンデマンドはいい方法だなと思いました」。
集中できる教室環境を提供する
対面授業のときは、100名を超える履修者がいても集中できる教室環境を整えていた。全席指定席として、どこに誰が座っているかを分かるようにしておく。そして、学生の授業態度を随時教員が目視で確認し、寝ていた学生などには、返却レポートに注意を記載した。その結果、出席率は98%以上で、演習中の相談を除くと私語は皆無。「マイルストン誌では『遅刻、おしゃべり、いねむり、スマホ、PC、全部ダメ、学生のすべての自由が奪われる講義』と書かれていました。うまいことを言うなと思いましたね」。
静かに寝ているなら迷惑はかけないと考える学生もいる。「しかし、眠気のオーラは教室の雰囲気を壊します。なんらかの問題を抱える学生には、ちょっとした私語が聞こえるだけでも集中できなくなるケースがあると聞きます。そういうことがあることを意識してほしいと、学生には伝えるようにしています」。学生のなかには「きちんとした授業で集中力が高まった」と歓迎する声もあり、「このやり方が自分の性に合う」と言ってゼミ配属のときに永田教授の研究室を選んでくる学生も多いという。「学生と教員間の相性の問題もあると思うので、授業で教員の考え方を示すことで、ゼミの指導教員とゼミ生との不幸なミスマッチをなくすことができれば、よりよい研究室活動にもつながるのかなとも思います」。
今でも「授業のために教室に向かうときは、うまくいくかどうかいつも緊張する」と謙虚だ。今回の受賞は「長年の経験で、学生に受けがよかったネタ、うまくいったネタを取捨選択して充実してきた結果でしょうか」と受け止めている。同時に「昨年64歳になりましたが、この年齢でこういう賞をいただけることはとても光栄です。私自身も、もうちょっとできるかなとやる気が出てきました」。
今回はオンデマンドとなったことで、学生を授業中に見守ることはできなかった。「授業への取り組み方は学生自身の問題であるとも考えるようになりました。対面に戻ったら指定席はそのまま続けるつもりですが、以前ほどは細かく言わなくてもいいかなという気もしています」。