Center for Higher Education Studies早稲田大学 大学総合研究センター

東南アジアの歴史を通して世界との繋がりを感じ、
地球市民としての参照軸を育てたい

2021年度春学期ティーチングアワード総長賞受賞
対象科目:Lectures on Social Science (Southeast Asia in Global Context) A
受賞者:タンシンマンコン パッタジット

  祖国であるタイの大学を卒業後2014年に本学の大学院に進み、

  2019年度から授業を担当しているパッタジット講師。

  学生たちが東南アジアに対して無理解、無関心であることを実感し、

  2021年度より開講したのがこの科目だ。東南アジアの歴史と国際関係を題材に、

  ディスカッションを交えて自分なりの問いと主張を促した授業は、

  「よい意味で常識を覆された」など学生に大きなインパクトを与えた

 

学んだ知識を、自分自身の問題として受け止めて考える

社会科学部の2年生以上を対象にしたこの授業は対面形式で実施され、履修生は東南アジアの留学生3人を含む18人だった。「授業の目的は、東南アジアの歴史を通し現在を理解すること、そして、東南アジアの地域を通し自分と世界を関連付けて考えられるようになることです」。東南アジアの諸問題を理解するだけでなく、そこで得た知識をいかに自分自身の問題として受け止めるかに力を入れた。「疑問を持つことは答えを出すより大事。自ら問いを作り出してその答えを考えていけるようになってほしいのです」。

授業では、情報を伝えるよりも関心を持たせることを重視している。「興味を持てば学生は自分自身で調べるでしょう。ネットでいろいろな情報が手に入る時代ですから、いかに『興味深い、もっと知りたい』と思ってもらえるかを考えています」。

そのために心がけていることのひとつは、毎回学生の想像を超えるような内容を登場させること。たとえば1回目の授業の冒頭では、無料で使えるスマホのアプリKahoot!を使って簡単なクイズをした。「写真を見せて『ここはどこでしょう?』とか、『ASEANとは何でしょう?』というような基本的な質問をしました。これによって学生たちは、東南アジアについていかに無知であるかに気づきます」。

他人事にしないため、敏感な話題もあえて真正面から取り上げる

授業では、世界情勢のなかでの東南アジアの歴史的変化を時代順に追いながら、「どうやって第二次世界大戦の過去を「過去にする」のか」「人間を悪へと変えるものは何か」といった概念を、大きな問いとして提示する。「まずクエスチョンから始めるというのも、学生の興味を引きつけることにつながっていると思います」。東南アジアの歴史上何度も襲いかかってきた外的要因を波にたとえ、「その波をサーフィンするような感覚で、毎回その問いへの答えを私と学生とでいっしょに考えていくというスタイルです」。

注目すべきは、敏感な話題を避けずにあえて議論させるという点だ。たとえば、第二次大戦の日本は侵略者だったのか解放者だったのか、あるいは被害者だったのかという問題を、善悪や正当化ではなく、なぜそういうことが起きたのかいろいろな視点から見ていく。「敏感な話題を避ければ他人事になってしまい、それは無知につながります。授業のはじめに、この授業ではあえて真正面から取り上げる姿勢を取るのだと説明し、国籍などの問題をいったん置いておいてこの問題を考えましょうと伝えました」。

授業はすべて英語で行われたが、必ずしも英語が得意ではない学生も歓迎した。「スライドにはビジュアル要素もたくさん取り入れ、なるべくシンプルな英語で話すよう心がけました。英語のネイティブではない私には間違いを指摘する資格もないので自由に喋ってくださいねとも伝え、活発な発言を促しました」。

当事者の感情を知り、頭だけではなく心でも理解してほしい

この授業に先立ち6週間かけて東南アジア10カ国を訪れたパッタジット講師。そこで撮った写真や現地の人から聞いた話を授業のなかでも数多く紹介した。「指導者の言動や政策などはウェブでも調べられますが、直接人の話として伝えることがとても大事です。たとえば、ベトナム戦争について学ぶときも、現地の人から聞いた苦しみや恐怖感を知ることで初めて戦争の悲惨さや恐ろしさを実感できるはずです。なぜ戦争が起きたかを学ぶのも大事ですが、実際にそこにいる人はどんな感情を持っていたかも同時に伝える必要があると考えています。頭で理解するだけでなく心で理解してほしいからです」。

講義を聞いた後は20分ぐらいかけて3,4人のグループディスカッションをさせ、最後の5分ぐらいでその内容をシェアしてもらう。授業後にはリフレクションペーパーを書かせたが、それに対する細かなフィードバックが理解促進に役立ったと好評だった。「みんないろいろなことを書いてくれました。私だけが読むのではもったいないので、次回からはぜひ全員でシェアできるような方法を考えたいと思います」。

最後はまとめとして、戦争、国、人間などの概念についての理解がこれまでの授業を通してどう変わったのかを議論する。「こういう概念を改めて考えることは、それに対して自分はどんな立場を取りたいのかという参照軸を作ることにつながります。自分が地球市民であるという意識を持って、この世界をいかによりよい場所にしていくかを考えてほしいと願っています」。

学生からは、教員や東南アジア出身の留学生と意見を交流しながら学べた点も大きく評価されており、「東南アジア出身の研究者としての立場を活かしたい」という思いが実った形だ。「世界を多角的に見ることの大切さを心から実感できた」というコメントのほか、授業で話していないことについて「もっと知りたいと思って調べたらこんなことがあって驚いた」という感想もあった。「思っていた以上に、学生は自分の世界観や自分の国のことと関連付けて深く考えてくれました。もっとよいコメントをつけられるように、私自身もさらに勉強して理解を深めなければと思っています」。

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/inst/ches/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる