2020年度秋学期ティーチングアワード総長賞受賞
対象科目:Economic, Social and Environmental Sustainability
受賞者:チェスノコバ タチャナ
ほとんどの授業がオンラインとなり、学生にとっては課題の負担が大きく苦痛だとの声が聞かれ、
対応に苦慮するケースもある。しかし、この授業では学生たちは楽しそうに課題に取り組み、
教員としても満足できる内容だったという。オンライン授業では重要度が増すと思われる課題を、
より有意義なものにするポイントはどんなところにあるのだろうか。
対面授業をそのままオンラインにするのではなく、構成を変える必要がある
この授業は、社会科学部の「ソーシャルイノベーションプログラム(TAISI)」として英語で行われている。「国際開発政策」を大きなテーマとして、健康や教育などの諸問題に対し、特にミクロ経済学的側面から焦点を当てている。17名いる履修生の半数は留学生で、中国をはじめアジア諸国のほかヨーロッパからも参加していたため、時差も考慮し授業はオンデマンド配信とした。「ネット接続のトラブルも危惧し、リアルタイムでつなぐ方法は諦めました」。
春先にオンライン授業となると決まった時点でさまざまなリサーチを重ねた結果、対面授業とは構成自体を大きく変更する必要性を感じたという。「単にホワイトボードの前で話す様子を録画をして見せるだけではうまくいかないでしょう。さまざまなアクティビティ課題を与え、毎週小さなステップを積むようにやるべきタスクを明確に指示することが重要だと考えました」。
そこで、15回の授業を1つずつのモジュールに分けてMoodleに格納。各モジュールは、課題の文章を読解する読書課題、講義動画の視聴、そしてレポート提出という構成とした。その週のタスクについての指示や、トピックに関連する論文や記事なども載せておいた。
早稲田で教えるのは今回が初めてだったが、従来対面で行っていた授業では50分講義をした後に個人やグループで行う実習時間を設けていた。「オンラインではそれができないので、各自で読書課題に取り組んでもらいました。講義の内容と読書課題はオーバーラップするようにしてあるので、先に動画を見てから読書課題を行ってもかまいません」。
講義動画は30分~1時間程度。「一番理解の遅い学生を考慮して細かいところまで説明しようとすると、特に技術的な話ほど長くなる傾向がありました」。学生は好きなタイミングで停止して視聴できると考え、細かく区切らず一本撮りとしたが、動画の中で「今ここで一時停止してやってみてね」と簡単な課題を出す時間帯を設けたこともあった。
毎週の課題がモチベーション維持の動機づけになる
動画視聴後は、トピックについてリサーチした結果を、この分野に詳しくない人にも理解できるようなレポートにまとめる。この課題は成績の25%にカウントされる。「動画の視聴や授業参加へのモチベーション維持には、採点対象となる課題は大きな意味を持ちます。もし講義動画だけだったら、何もせずに試験に臨んで後悔するケースもあったでしょう。毎週課題に取り組むシステムは、先延ばしせずコツコツ学ぶ動機づけになったはずです」。
レポート課題を仕上げるには、個人差はあるものの通常40分ぐらいかかると想定。「学生たちはとても楽しそうに取り組んでくれました。中には優れたライティングスキルを持つ学生もいて、毎週求められた以上のものを書いてきてくれたので、私も読むのが楽しみでした。学生に楽しんでもらえる教育ツールを提供できたという手応えを感じています」。
学生に課題が楽しいと感じさせるための最大のポイントは、興味深いトピックの提示だと指摘する。「トピックをいかに自分たちの実生活につなげるか。たとえば、家族について学んでいるときには、親はどのようにして子供の数を決めるのかとか、女性は家庭に入るか働きに出るのかなどの決断について、意見を聞きました。自分の主張をきちんと書けていれば内容自体はジャッジしません」。
講義動画で説明した内容以外にも、データの処理方法などの一般的なスキルについての解説をMoodleの各回のモジュールに用意しておき、課題をサポート。オンラインからどのようにデータを取るかの手法や、インターネットで入手できる無料ツールについての情報も提供した。「ネット上で利用できるあらゆるプロジェクトやツールに学生を誘導することは、課題の質向上に有効だと思います」。
今回オンライン用に授業の構成を見直し、指示を明確にと意識した点は、今後の対面授業にも活かしていける大きな収穫だったと感じている。
教員の方から学生に歩み寄ってコミュニケーションを取る
提出された課題には、点数と共に「ここが良かった」などのコメントもフィードバックした。必要に応じて修正すべき点を指摘しただけでなく、同じような状況が続く場合にはZOOMでの個人面接も行った。「オンライン上でオフィスアワーを用意して質問も受け付けましたが、ヨーロッパの学生に比べてアジアの学生はあまりコンタクトを取りたがらない傾向があるので、こちらから積極的に話しかけました。学生とのコミュニケーションに関しては、教員の方から歩み寄る必要がありますね」。
結果的に、非対面でも学生とは意思の疎通がほぼできたと感じている。しかし、コミュニケーションの問題については、オンラインはやはりネガティブな面が多いとの思いもある。また、全体として学ぶ量や内容、学習効果はオンラインでも変わらないと感じたものの、プレゼンなどクラス内での発表ができなかった点が残念だった。「発表の仕方を学ぶのも重要なのですが、個人情報の問題もありオンラインでは実施できませんでした。どんな方法なら実現できるかが今後の課題ですね」。