Center for Higher Education Studies早稲田大学 大学総合研究センター

授業や課題の意図を学生と共有しながら組み立てる

2020年度秋学期ティーチングアワード総長賞受賞
対象科目:空間デザイン
受賞者:佐々木 葉

 

社会環境工学科1年生向け必修科目であるこの授業は、導入科目として位置づけている。

履修生は他学部を含めて120名前後。オンデマンド講義に加え、毎回10分間の

オンラインアンケートや、実務家によるゲスト講義、そして最終回には

まとめのディスカッションを行うなど工夫をこらした構成で、高い評価を獲得した。

 

オンデマンド視聴前に、オンラインアンケートでリアルタイムに学生と交流

導入教育としての狙いは、普段は意識しない川、橋、道など身近な環境に関心を持ち、そのデザインの重要性や自分の興味の方向性を考えさせるところにある。実際の授業では、理論よりもビジュアルを多く見せることを重視。「自分が撮った写真やすでに公開されている良質なコンテンツなどを多数見せています」。環境や構造物を見るために知っておくべき基礎的な用語などは解説するが、あくまでも事例紹介が中心だ。

オンラインとなった2020年度は、スライドを見せて解説するオンデマンド動画の視聴を基本とした。ユニークなのは、それに加えて時間割のタイミングで10分程度ZOOMをつなぎ、リアルタイムに交流する時間を設けた点だ。「オンデマンドだけではメリハリがつかないのではと危惧しました。学生のカメラはオンにしないので彼らの顔は見えないけれど、ちょっとしたやりとりで同じ時間を共有して、この先生の授業をとっているんだという実感を持ってほしかったのです」。

そこで活躍したのが「Slido」というツールだ。スマホから気軽に使えるオンラインアンケートのようなもので、匿名で参加でき、回答結果をその場ですぐ公開できる。「<所属の学科は?>とか<デザインという言葉から何が思い浮かぶ?>といった質問を用意しておいて、選択式もしくは自由回答で答えてもらいます。アンケートの内容からちょっとした雑談にもつながり、とても有意義でした」。アンケート結果はPDFでMoodleに保存しておき、その場に参加できなかった学生も後から見られるようにした。Slidoは授業のトピックに関する質問だけでなく、授業の進め方などに対する意見のヒアリングとしても役立った。

リアルタイムの交流後は各自好きなタイミングでオンデマンド講義を見てもらう。講義に使ったPowerPointや参考資料となる論文や雑誌の記事などもMoodleにアップロードしておいた。

試験の代わりのミニレポートは、書き方についてもフィードバック

オンデマンドを見た後は2~3回に1回ぐらいの割合でミニレポートも課した。「対面授業では毎回A5サイズの紙を配って提出させていたのですが、オンライン授業では他の科目でも課題が多くて大変だと聞いていたので、毎回ではなく1つのトピックごとに1回に減らしました」。

学期末の試験は行わなかったため、このミニレポートの評価がそのまま成績につながる。採点結果はその都度学生にも分かるよう示すだけでなく、誤字・脱字や間違いを指摘して返すケースもあった。「人数が多くて個別のメッセージは書けなくても、ちゃんと読んでいるのだと伝わったと思います」。

ミニレポートでは、気づいたことや心に響いたこと、自分の体験に結びつけて改めて考えたことなどをまとめる。「織り込むコンテンツは3つぐらいの想定で逆算して800文字程度との目安をつけました」。基本的には自分の感じたことを書くのだが、書き方に関しては全体に対してフィードバックをした。「同じ内容でも、中学生の感想文レベルではなく、もっと抽象化した概念として書き言葉にするとどうなるかなどを説明しました」。

今回の授業で学生たちの満足度が高かった理由のひとつと認識しているのは、全期間のうち3回取り入れたゲスト講師によるリアルタイム講義だ。「テーマに応じて、川や橋などその分野の専門家にお願いしました。学生からは、ときどきこういう回が挟まったのはバランスがよかったとの感想もありました」。最終回はリアルタイムで全員をつなぎディスカッションも行った。

100人の仲間といっしょに学んでいる雰囲気を感じてもらいたい

取材時点では、対面も可能とされている次の学期で対面とオンラインの使い分けについて思案中だという。「オンデマンド動画は早送りや巻き戻しを使い自分のペースで見られるのもメリット。動画利用に学生と教員双方が慣れてきた今となっては、情報を伝える意味ではオンラインの方が効率的な面もあるかと思います。ただ、<この橋が大好き>とか、<この事例はすごいと思う>といった私の熱量を感じ取ってもらうには、やはり対面のほうがいいように思いますね」。

一方で、オンラインだからこそ積極的に学ぶケースがあったとも感じている。「対面では質問しにくくても、ダイレクトメッセージやチャットなら声をかけやすいという学生もいたようです。そういう問い合わせに対しては、できるだけすぐに返信するように努めました」。

質問の内容によっては、名前を伏せて全員に答えをシェアした。「教室と違って他の学生の様子が分からない状況で、こういう質問をしている人もいると知れば、仲間の存在を感じてもらえるかなと。Slidoの採用もそうですが、学生と教員という1対1の関係が100個集まっているのではなく、横に100人の級友が共に学んでいる雰囲気を少しでも感じてもらえるよう意識しました」。

オンライン授業は工夫次第で多様な組み合わせがありえるが、重要なのはその意図をていねいに伝えることだと捉えている。「たとえばレポート課題でも、その指示はどんな意図に基づいているのかを説明するのとしないのとでは、学生の取り組み方がまったく違ってきます。オンライン授業では特に、どんな狙いで授業を組み立てているのかを学生と共有していく意識が必要なのだと思います」。

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