2020年度秋学期ティーチングアワード総長賞受賞
対象科目:ECONOMETRICS
受賞者:コアド アレックス
早稲田への着任は2020年度春学期だったため、当初からオンライン授業での
スタートとなったコアド教授。オンライン授業自体は以前から経験を重ねており、
特に混乱なく進めることができたと感じている。オンラインでも参加型授業を
実現するため、マイクを通じて質問に答えさせるなど学生に積極的な参加を促し、
有意義な授業として高い評価を獲得した。
授業に集中することが時間の効率化につながるという状況をつくる
計量経済学を学ぶこの授業は、経営管理研究科の必修コア科目として冬クォーターに設置されている。26人の履修生の多くは社会人学生で、英語プログラムであるため、中国はじめ各国からの留学生がほとんどだ。
オンラインであってもできるだけ参加型の授業であるべきと考えたため、オンデマンドではなく、時間割通りのリアルタイム配信を採用した。「いつでも自由に視聴できるオンデマンドの場合、学生はつい後回しにしてしまいがちです。参加型にするためにも、同じ時間帯にみんなで集まることが重要だと考えました」。
重視しているのは「学生の時間を尊重すること」だと語る。「彼らの限られた時間を有効活用するため、教える内容は有用なことを厳選し、かつ同じことを繰り返すのはなるべく避けるようにしています」。学力は、暗記や単調な作業ではなく100%授業に集中することによって獲得するべきものだと考えており、そのために授業に対するモチベーションを維持させることにも注力している。「授業の終わりに小テストの時間を設けること、さらに授業の内容のすべてが宿題に出るという状況をつくることで、授業への集中力や持続力を保てるようにしています」。
ログファイルを提出させ、授業中の学習状況を把握する
学んだことをビジネスで実践できるように、授業では理論よりも基礎的なコンセプトを用いて日々の課題にアプローチする方法を用いている。具体的には授業の前半で理論をレクチャーした後に、「R」という統計分析ソフトを用いてデータ分析を行わせ、知識と能力の獲得を目指す。「データ入力やデータベースの整理などの作業に時間を費やして時間を無駄にしないよう、データセットを用意してMoodleにアップロードし、授業中に教える技術をそのデータに活用できるようにしています」。
授業の終了後には、Rプログラムのログファイルを提出させる。「パソコンを使う授業では、授業中に学生が授業以外のことをしているのではという心配もありますが、ログを提出させることで、授業で示した例を実際に試してみたか、そのうえで自分自身でもさまざまなコマンドを試してみたかを確認できるので、どのぐらい授業に参加していたかを把握できます」。
小テストはZOOMのアンケート機能を使った。「その場ですぐに正解と正答率を示せる点が気に入っています。学生は間違えたところがすぐに分かるし、全体の正答率を見て自分自身の力が相対的にどのぐらいかも理解できます」。正答率が80~90%程度となるように出題したが、積極的な学生が自分の能力をアピールできるように、あえて難しい問題も織り交ぜるようにした。「毎回テストを行うと、学生にしっかり授業に参加することを促すと共に、私の方でも彼らの学力に関する多くのデータが得られるため、成績もつけやすくなります」。
最終成績は、小テストで20%、宿題となる課題で50%、さらに平常点を20%として決定した。平常点は、毎回冒頭でチャット欄に自分の氏名を書かせることで出席をとり、授業中は質問やコメントをチャット欄に書かせたり、頻繁に教員から質問して学生にマイクを通じて答えてもらったりして授業への参加度を見た。スライドに<質問をする時間>というページも作っておき、意識してその時間帯を設けるようにもした。
「どの学生を指名するかは、名前をシャッフルした一覧を印刷しておき、完全にランダムに決めました。そのため学生は常に緊張感を持って授業を聞くことになります」。学生の発言や質問はその量と内容が評価の対象となるので、積極的な授業参加を促すことにもつながった。「こちらが考え込んでしまうほど洞察力のある発言をした学生には、その深い理解力への報酬として最終成績に5%加算しました」。
カメラがオフで顔が見えなくても、参加度は把握できる
授業中にカメラをオンにしていた学生は初回こそ半分ぐらいいたが、「強制はしない」と伝えたところ、次回からはほぼ全員がオフにしていた。「できれば顔が見えたほうがいいですが、学生の事情も考慮しました。チャットやマイクで発言させることで授業に参加していることは十分確認できますし、私も授業中はスライドを見ていることが多いので、顔が見えないこと自体は気になりませんでした」。
授業で使うスライドは計算式よりもグラフや図解を多用し、文章も入れすぎないように気をつけている。スライドの中に箇条書きが一行ずつ表示されるようなアニメーション効果を付けるなど、見やすくする工夫もしている。「統計学は、計算式ではなく図解によって感覚的に理解することが有効です。直感的に内容を理解すれば記憶に残りやすくなります。数学的な詳細は後から確認すればよいので、感覚的に把握させることを目指しています」。
「着任時は日本に来たばかりで他に知り合いもいない状況でした。オンラインであっても、毎週決まった時間に会う時間を設けることでつながることができ、私にとっても学生たちにとっても貴重な環境をつくりだせたかなと思っています」。