Center for Higher Education Studies早稲田大学 大学総合研究センター

「話したい」ではなく「聞いてもらう」。
意識を変えれば工夫も生まれる

2020年度春学期ティーチングアワード受賞
対象科目:企業の経済学(夜間主)
受賞者:入山 章栄

大学院経営管理研究科(Waseda Business School、以下WBS)に設けられているこの授業は、

毎年履修登録者を抽選で絞っているほどの人気の授業だ。

2020年度は対面授業が実施できないにも関わらず、引き続き高い満足度を獲得し、

2016年度に続く二度目の本賞受賞に輝いた。定評のある、聞く者をひきつける授業の原点は、

聞く立場になって想像力を働かせることにあるという。

 

収録中のハプニングも、飽きずに見られるアクセントと捉える

今回の受賞に至った要因を、「私自身の力よりも、オンライン化に向けてのWBSの意思決定の速さが功を奏したおかげ」と語る入山教授。

WBSでは外部の教員が多いという事情もあり、4月に緊急事態宣言が発出されるかなり前から、オンライン授業化を予期し、教員間で情報交換やZOOMの使用体験を積み重ねていた。その結果、4月20日には春学期の授業を開始。「この授業は夏クオーターなので、6月に始まるまでの間、他の先生方の経験を情報共有してもらえたおかげで、心の準備をしてスタートできました」。

オンライン化での大きな変更点は、講義部分のオンデマンド化だ。グラフや数式などを使って論理的な説明をする部分は、あらかじめ40~50分の講義動画を作成して事前に視聴させてからリアルタイムでの授業を行う、反転授業形式とした。「オンラインでは相手の理解度が分からない分、自然と何度も強調したりして、普段より時間がかかると感じました。オンデマンドなら時間の制約がないので、私も焦らずにたっぷり話せます。学生には倍速で見ても良いが、分からないところは戻って見るようにと伝えました」。

教場での授業では「100人いてもひとりも寝かせない」と自負しているが、オンラインではそれは困難だとも認識していた。「自分の経験からしても、オンラインで話を聞くのはかなり退屈です。飽きずに聞いてもらうには、常に変化を与えることが大事だと思います」。

そのために、オンデマンドであってもあえて脱線するような雑談を入れた。また、静止画をずっと見ていると飽きやすいため、スライドの画面共有と教員の顔の画面とを1分ぐらいずつで切り替えるような工夫もした。

さらに、多少のトラブルはむしろあったほうがいいのだとも指摘する。「トラブルなくきちんとやろうとしがちですが、ハプニングはあったほうが絶対におもしろい。途中でチャイムが鳴って宅配便に対応したり、娘が私を呼ぶ声が入ったりしても、気にせずにそのまま収録を続けました。学生もおもしろがって話題にしていたようです」。

大人数であっても「常に教員が見ている」という緊張感をもたせる

オンデマンド講義を見た前提で、授業日にZOOMでリアルタイム配信を行った。オンデマンドの内容を10~15分程度簡単に振り返った後、ブレイクアウトルームでディスカッションを実施。「オンラインでは特に、自分が思っているより長く喋ってしまいがちなので、人数は少なく、時間は長めに設定するのが良いです。6名以上になるなら最低30分は必要ですね。私の場合は、3、4人単位で設定し、時間は7、8分と伝えておいて実際は10分ぐらいで切り上げるというやり方です。そのぐらいだとみんな十分話せた実感が持てます」。

ディスカッション終了後は、各グループでどんな議論が出たかを話してもらう。教員がファシリテーターとなり、発言内容を板書の代わりにPowerPointにまとめて画面共有した。

リアルタイムであっても、対面のようには空気感や緊張感が伝わりにくい。「教場でやっていたような、変化を付けるために黒板を叩いたり、教員が歩き回ったりという手も使えません。対面時はほとんど自由にさせていたけれど、オンライン授業で緊張感を持続させるには最低限の管理は必要だと感じました」。

まず、ZOOMではできるだけカメラをオンにするよう依頼した。「強制はできませんが、顔が見えた方が絶対にいいので、可能な限り協力してくださいという言い方をしたら、9割以上は応じてくれました」。

履修生75名に聴講生も加わり、合計で120人以上となったが、自身のPCではギャラリービューモードで学生全員の顔を見えるようにしていた。「関係ないところで笑っている学生には、『○○さん、なんで笑ってるの? 』と声をかけたこともありました。突然名指しされた本人はもちろん、他の学生もそれでピリッとします」。

ディスカッションが始まってもブレイクアウトルームに入っていない学生がいたときには、チャット機能でコメントを送ったりもした。「実際には全員の様子を把握できないとしても、常にこちらは見ていると示すことに大きな効果があります」。

オンラインでは特に、つまらない話は聞いてもらえない

オンライン授業を体験して、今まで以上に話す能力が問われると感じたという。「オンラインでは特に、つまらない話は聞いてもらえません。話がおもしろいかどうか、伝わる言葉を話せるかどうかで、大きな差が出てきます。対面と比べたオンラインでの伝わり方は、話す能力がある人で8割、ない人は1、2割になってしまう。人に聞いてもらえる話ができない授業は、学生からは評価されなくなっていくでしょうね」。

人をひきつける話をするには、場数に加え意識が大事だという。「聞いてもらうという意識を持つことがキーだと思います。聞き手の立場になって『この話で伝わるか』『退屈しないか』という想像力を常に働かせること。そういう感覚を持てば、自然といろいろな工夫をするようになりますから」。

今後、オンラインを無視して完全にオフラインに戻すことはありえないと断言する。「授業の選択肢が広がり教育界も大激震です。今後は、飽きさせない工夫をしてうまくオンラインを使いながら、教場ではいかに対面でしかできない価値を出していくかが問われて行くのだと思います」。

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/inst/ches/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる