Center for Higher Education Studies早稲田大学 大学総合研究センター

対面vsオンデマンドの対立軸ではなく、
ひとつの塊としてより良い教育コンテンツに

2020年度春学期ティーチングアワード受賞
対象科目:複素関数論入門
受賞者:高橋 大輔


オンライン授業はこれまでまったく経験がなく、2020年度の春学期は何から始めたらよいか  

戸惑ったという高橋教授。しかし、実際に体験してみると、従来以上の学習効果を実感し、  

「自分の中で革命が起こった」と振り返る。対面授業の再開後も、  

オンライン授業は強力な武器になると考えている。  

 

講義動画は、教科書にペン書きと音声で説明を加えていく動画形式で収録

この授業は、基幹理工学部応用数理学科の2年生を対象にした必修科目だ。当初は従来のような授業のリアルタイム配信も考えたが、回線の安定性に不安があった。授業全体を録画した映像を配信する方法も、黒板の文字が見えづらくなることが懸念された。「学生はスマホから見る可能性が高いので、黒板に細かい数式を書いて見せるのは無理があると思いました」。

試行錯誤の末に採用したのは、講義1回あたり10~15分の動画を何本か作成してオンデマンドで配信する方法だった。動画の収録にはiPadと「Vittle Pro」というアプリを使用。教科書のスキャンページにペンで証明や計算式を書き入れると動画として記録され、解説している音声も同時に録音できる。

教科書の使用については著作権にも考慮した。「今回は例外的に許されるという話もありましたが、ほとんどのページを利用するため事前に出版社に許諾を取りました。かつ、あくまで動画上で見えるだけとし、スキャンデータそのものを資料として配布することは控えました」。

ていねいでわかりやすい解説と、毎週の課題フィードバック

実際に始めてみると、この手法は学生にとって対面授業よりも理解しやすいと感じたという。「教場では、黒板や教科書を代わる代わる見ながら話を聞いてノートを取らなければならないけれども、これは教科書の上に直接説明が書き込まれていくので、画面だけに集中していればいい。分かりにくいところがあればいつでも戻って確認できます。これはすごいコンテンツだなぁと思い始めました」。

解説の内容や話し方自体を変えたわけではないが、事前に十分な準備をして細かいシーンごとに撮り重ねていくため、自分自身でも「すごくていねいな説明」になったと感じている。「学生が一方的にずっと聞いていられるのかという点が気になっていましたが、結果的には、分かりやすい、聞きやすいという声が多く安心しました」。

対面では3回に1回教場で理解度確認テストを実施していたが、今回はそれができないため、代わりに毎回課題を設定した。「数式の入力などもあるため、提出方法はどんな形がいいのか学科の教員有志で数学系科目の一般的対応策を相談した結果、私は紙に手書きした解答をスマホで撮影してMoodleで提出させることにしました」。

そのためのツールとして、スマホで無料で利用でき、かつ学生の手間ができるだけかからないものを探し、「Adobe Scan」というアプリを推奨した。「普通にスマホで写真を撮らせると読みにくいものもあります。その点このアプリを使ってもらうと、文字の位置や角度が自動認識され、とてもクリアで読みやすい画像となるので、採点の手間が軽減されました」。

回収した課題は、誤答へのコメントもタブレットでペン書きして採点し、返却。履修生が70名程度いたため、高度授業TAにもタブレットを配って協力を得た。その結果学生からも「毎回のフィードバックで理解力が深まった」と歓迎された。

学生の負担を減らして心理的ケアにも気を遣う

2020年度はコロナ禍という突然の異常事態でもあり、学生の心理面にも気を遣った。オンデマンドの講義動画は、講義日の1~2週間前から公開し学期終了まで見られるようにしておいたが、学生に毎日のリズムを付けさせるため、各講義日の午前中にリマインドが届くようにMoodleで設定しておいた。さらに、課題の提出は講義日から2週間以内という期限を設けた。「できないからとひとりで落ち込んでしまわないように、課題は軽めの問題を数多く出すようにしました。答案の返却も、週末を避けて週の前半の午前中という、なるべく精神的に穏やかな時間帯を選びました」。

さらに、顔が見えない不安を解消するため、ZOOMによる懇談会も開催した。「人数が多いと発言しづらいと思ったので、7名ずつ10のグループに分け、各グループ約15分ずつの枠で時間を設けました」。学問的な質問はメールやMoodleでも受け付けていたため、ここは「困っていることはないか」など全般的なことを聞く場とした。「Moodleはいろいろな痕跡が記録として残るので、たとえば動画を1.2倍速で聞いているが問題はないかなど、学生たちは必要以上に怯えていたようでした。この授業ではまったく問題ないと改めて全員に伝えました」。

以前は「オンライン授業は手抜き」と思っていたそうだが、結果として「うまくいったなんてものではない」というほどの手応えを感じている。懐疑的だった反転授業の意義も認めるようになり、「教場での授業が再開されても、オンデマンドコンテンツを補助教材とし、教場で課題の解説をしたり理解度確認をしたりするというようなハイブリッド形式を検討しています」。

講義動画の作成は教場で話すよりも労力も時間もかかるが、後戻りはできないとも感じている。「これだけ準備をすれば濃い授業ができると気づいてしまった以上、やらないわけにはいきません。自分のやり方が一番だと思い、長年続けている授業だからと準備も手薄になっていた点もあると反省しました。この機会に複数の伝達手段を手に入れたと捉え、今後はオンラインと対面のいいとこ取りで、よりよい授業を作っていければと思います」。

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