Center for Higher Education Studies早稲田大学 大学総合研究センター

事前課題で学生が知りたいことを把握し、的確にフィードバック。新しい形の反転授業で主体的学びを実現

2019年度秋学期ティーチングアワード受賞
対象科目:比較政治学01


アクティブラーニングを促す手法として知られる反転授業は、授業前に各自がインプットを行い、

教場ではディスカッションや発表などアウトプットをメインにするという形で実施されることが多い。

しかし、この授業では教場では90分教員の話を聞くというスタイルでありながら、

事前課題で質問や意見を募るという手法によって反転授業のような効果を生み、

学生主体の学びにつなげることを可能とした。

予習して質問や意見を提出させ、そのフィードバックで講義を行う

この「比較政治学」という科目は、火曜と木曜、週2コマずつ実施されるセメスター科目として設置され、この年度の履修生は132名だった。

授業では、事前課題として教科書の指定された部分を読み、質問や意見を書いてオンラインで提出することを課している。「単純に分からない点を質問してもよいし、教科書で紹介されていた先行研究はここが不足しているのではないかというような、少し踏み込んだもの、あるいは関連する最近のニュースについて意見を述べるというものでもOKです」。

翌週の授業で取り上げるトピックについての課題を、その前の週の授業中に提示し、授業後3日以内に提出させる。教員はそれにすべて目を通した上で、翌週の授業でそのフィードバックを中心に話をする。具体的には、学生の質問やコメントの中から抜粋したものを匿名にしてスライドで見せながら、質問に答えたり、補足の解説をしたりする。「理解不足や誤った理解に対応するため、グラフやデータなどの資料も用意してスライドを作っておき、教科書の内容を補足しています」。

事前課題は平常点としてカウントされる。週に2回ということもあり学生は忙しくなるため「文句が出るかと覚悟していた」と振り返る。しかし、実際には大変好評で、学生アンケートの結果でも「必然的に予習をして臨むために授業の理解度が深まった」「自分たちの知りたいことにていねいに答えてくれた」など、この形式を高く評価する声が多く寄せられた。

この授業を通じて伝えたいのは、知識ではなく考え方を学ぶことであり、先行研究を批判的に見て自分の視点から考える力を身につけることだと語る。事前課題で予習した知識を自分の頭で考えて疑問点を明確にしたうえで、それを授業時間内に解決するというプロセスの繰り返しによって、「主体的に考察する能力が養われた」と学生自身が実感しているようだ。

教科書を読めば分かることを話してもつまらない

実は、8年ほど前にこの授業を担当した当初は90分講義をするスタイルだった。転機となったのはサバティカルの間に知人の研究者と共に教科書を執筆したこと。「2016年度から自作の教科書を使うようになりました。今まで講義で話していたことはだいたいそこに書いてあるので、読めば分かることを話すのもつまらないし、学生に対しても失礼かなと思いました」。

代わりに、教科書に書けなかったプラスアルファの内容を取り上げることも検討したが、「内容があまりにも上級向けになるうえ、分量も増えてしまう。知識の詰め込みすぎになるのは良くないですから」。

そこで、教科書を読んでも分からないこと確実に理解できるよう、フィードバックという形を思いついた。「そのためには学生はどこが分からないのかを知りたくて、教科書を読んで疑問点を書き出して事前に提出させるという方法を取り入れました。それを読んで、分からないという声が多かった部分を重点的に解説するのが、一番効率的に最大多数の最大幸福に近づけると考えたのです」。

講義の最中も質問があれば答えるが、基本的にはほぼすべての時間を教員が一方的に話し続けることになる。それにもかかわらず、受講者からは「学生が授業の構成に参加できている」「学生とのコミュニケーションで講義を形成するという意識を強く感じた」などの声が寄せられており、主体的に学べたという満足感を引き出していることがわかる。「私が話している内容は自分たちの書いたものに対してのフィードバックなので、一方的に聞かされるという受け身な感じがないのでしょう。この質問に対してこんなふうに答えるのか!というように、興味深く聞いている面もあるようですよ」。

コメントや質問への回答という形にすると、主体的に学んだと実感する

実際に始めてみると、「他の学生の意見を知ることができてよかった」という声もあるように、
学生のコメントを他の学生にもシェアすることにも大きな学習効果を感じたという。

フィードバックは、基本的に褒める方向で行うよう心がけているのもポイントだ。「この授業でコメントを褒められたという経験が自信になり、今後他の授業でも積極的に意見が言えるようになるとよいと思っています」。他の学生が褒められると競争意識も出るようで、回を重ねるごとにコメントの質も向上していくともいう。

誤った理解で書いている場合はそれを正す必要もあるが、匿名であるため学生を傷つける心配なく指摘できるのもメリットだと感じている。

フィードバック形式の利点はまだある。「同じ内容でも、私が普通に話せばふーんという感じで終わってしまうのが、学生のコメントへのフィードバックという形で伝えると、学生の食いつきがまったく違います。自分と同じレベルの学生が考えたこととして聞く方が、彼らにとっては刺激的で印象に残るのでしょう。教育学的にいうピア効果のようなものが働くのかもしれません。そういう意味では授業で伝えたいことに結びつくようなコメントを取り上げるのもポイントですね」。

この授業のポイントは「学生に応えていること」だと捉えている。「きっちり予習をさせ、それを踏まえて学生の知りたいことにフォーカスした授業をすることで、分かる人だけが分かる、あるいはレベルが低すぎてつまらないという状況は避けられていると思います。学生の能力を一回ならしてひとつ上に持っていくということができているのかなと感じています」。

教科書のwebページ: http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641150317

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/inst/ches/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる