Center for Higher Education Studies早稲田大学 大学総合研究センター

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良い授業は学生がつくるもの。
教員はそのための舞台装置を用意する。

2019年度秋学期ティーチングアワード受賞
対象科目:技術・オペレーションのマネジメント(夜間主)

早稲田大学ビジネススクール(WBS)の夜間主コースに設定されているこの授業の履修生の多くは、

仕事を持っている社会人だ。学ぶ意欲の高い学生が多い分、授業への期待も大きいと思われるが、

この授業では最終回に全員がスタンディング・オベーションで称えてくれたというほど、

高い満足感を与えるものとなった。学生たちの心に響いた授業とはどんなものだったのだろうか。

事前学習を徹底させ、ディスカッションの質を高める

この授業の特徴は、教員が一方的にレクチャーをする時間は基本的になく、ディスカッションを中心に展開している点にある。実際の企業が直面した課題をベースにした「ケース」と呼ばれる教材を使用し、学生はこれを読み込んだ上で授業に臨み、議論を重ねる。

各分野の専門家や現場のトップをゲストスピーカーとして招くこともあるが、その場合も長時間話してもらうことはまれで、ディスカッションの中でコメントを挟んでもらうような形を取ることが多い。

クォーター科目として設置されているため、授業は土曜日の5限と6限の2コマ連続となる。授業準備として一度に2回分の予習をしてくるのは、学生にとっては相当負担が大きい。しかし、しっかり事前準備をして臨むことが活発な議論につながっている。

発言は平常点の対象となる。毎回終了後に「クラス貢献フォーム」として、自らの発言回数と自信のある発言の内容を書いて提出してもらい、良い発言だけを加点の対象とする。当初は授業終了直後に紙ベースで提出してもらっていたが、落ち着いてゆっくり書きたいという要望を受けて締め切りを翌日に延ばしGoogleフォームで提出させることにした。「授業時の発言の加点者を毎回公開することにより、競争意識が刺激されたのか、日を追うごとに発言内容のクオリティが向上していきました」。

発言を促すための教室での工夫

特定の学生に集中することなく多くの学生の発言を促すために、手を挙げていない学生にあえて発言を求めることもある。その場合は、TAが記録した「発言回数の少ない学生リスト」も参考にしている。誰がいつ当てられるかわからないという緊張感が、良い空気を生み出すという。一方で、「今回は準備が足りないので自信がない」という学生のために、教室の最後尾にセーフゾーンも用意し、そこにいる学生にはあてないという配慮もしている。「毎週そこに座るようなモチベーションの低い学生はいないですから」。

授業の開始時に音楽を流すというのもユニークな試みだ。「クリエイティビティが高まる音楽集も参考にして毎回違う曲を選びます。気分が盛り上がったり、発言しやすくなったりという効果が明確にありますね」。

議論の場は教室だけにとどまらない。Facebookグループでも、授業で扱ったトピックに関連する情報をシェアするなど幅広い投稿がなされている。「ここでも良いコメントについては加点対象とし、授業中に名前を出して発表していたので、競い合うような雰囲気もあり、とても盛り上がりました。もともと意欲のある学生が集まっているので、互いに刺激し合うピア・エフェクトによって、良いラーニングコミュニティが形成されたのだと感じています」。

聴覚障がいの学生の存在が、インクルーシブな視点を意識する学びにつながった

2017年度からこの授業を担当しているが、受賞対象となった2019年度の授業は、特別の手応えがあったと振り返る。この授業では履修生の中にひとりの聴覚障がいのある学生が参加していた。彼の存在がクラス全体の学びに大きな影響を与えたというのだ。

アメリカでも教員経験があることから、授業はダイバーシティー&インクルージョンを前提とし、すべての学生が同等に学ぶ権利があると明言してきた牧准教授。「テクノロジーで解決できるのなら、障がいがあっても全面的に参加できる授業を目指そうとずっと考えていました」。

この学生の場合は基本的には手話通訳が入るが、聴覚障がい者向けマイクや音声認識アプリも併用していた。そこで、テキスト化されているデータを活用して、教室内の発言内容を分析しキーワードとして提示したところ、クラス全員の学びを深める効果があった。「テクノロジーの使い方によってこんな風に便利になるのだということを、全員が実感したと思います」。

また、彼が授業で使用していた特殊なマイクは、自らの不便を解消するために友人に開発してもらったものだった。「イノベーションは、大企業が起こすだけではなく、特殊なニーズを持っているユーザが新しいプロダクトを作り出すという場合もあります。彼のおかげで、そのユーザ・イノベーションという概念をみんながリアルに理解できたのです」。

発言回数で上位にランクインするなど本人が真摯に取り組んでいたこともあり、その存在は他の学生たちにも大きな刺激となった。彼と共に学ぶことで、「自分の気づかないところで困っている人がいるかもしれない」という発想を、みんなが意識できるようにもなった。その結果、どのテーマを扱っているときにも「これはこういう困っている人に使えるのではないか」という視点でも議論を深めることができた。「障がいのある人をサポートするのは、本人のためだけではなく、みんなの学びの質を向上させるということを、ごく自然に実現できたような気がします」。

本賞は「学生たちと一緒に受賞した」と感じており、知らせを聞いて一番に履修学生全員に報告したという。「良い授業というのは教員ではなく学生がつくるもの。教員の仕事は学生たちのためにより良い舞台装置をつくることなのだと思います」と語る。たまたま在籍したひとりの学生の存在を全員の普遍的な学びへとつなげたことは、最高の舞台装置を用意できたという教員の手腕を証明するものだといえるだろう。

この年に履修した学生がつくってくれたTシャツには、「Equity, Diversity, and Inclusion」という文字がプリントされていた。

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