2019年度秋学期ティーチングアワード受賞
対象科目:監査C(2)
学部からの進学者や社会人経験者、企業派遣など多様な学生が学ぶ「監査C(2)」。
履修者の多くが公認会計士を志している点にも特徴がある。
授業では、公認会計士試験で必須科目の「監査論」を学ぶが、自身の実務経験を織り交ぜたり、
試験には出なくても実務では必要になる事柄まで解説するなど、
単なる試験勉強に留まらない内容を心がけている。
また「先輩」として、折に触れて将来の公認会計士たちに心構えなども伝えている。
公認会計士を目指す学生に、「実務家教員」としての経験談を織り込んだ授業を行う
「監査C(2)」は、大学院会計研究科の1年生以上を対象とした科目だ。履修者数は20名ほど。学部を卒業後、そのまま大学院に進んだ学生のほか、転職してこれから公認会計士を目指す社会人経験者や、一般企業の経理部や官公庁などから会計の勉強のために派遣された者など、多様な学生が学んでいる点に特徴がある。年齢層も22~60歳までと幅広い。
一方、担当する篠原教授は長年にわたって監査法人でキャリアを積んできた「実務家教員」である。教科書の内容だけではなく、自身が実務で経験してきたことを学生たちに伝えられることが大きな強みであり、それが授業の「工夫」にもなっている。「そもそも、会計研究科の大方針に『学問と実務の融合』があり、私のような実務家教員はそれを実践することができます。授業では、教科書の内容が実務ではどのように使われるのかを私の経験や失敗談などを織り込みながら話しています。実務の話を入れることで、内容の理解も進み、学生の学びに対するモチベーションも上がります」。
学生に対する目線も独特だ。「公認会計士を目指している学生が多いので、もちろん今は学生ですが、これから同じ業界に入って来る『後輩』のような気持ちを持って接しています。たとえば、授業の中では折に触れて公認会計士としての心得なども話しています」。ただし、企業派遣などで受験を目指さない学生もいて人によって授業へのニーズが異なるため、その点は意識しながら授業を進めているという。
公認会計士試験の勉強に留まらない、実務に役立つ踏み込んだ内容が授業の満足度を高める
公認会計士試験の論文式試験(二次試験)の必須科目には「監査論」があり、履修者の多くは公認会計士試験に向けて「監査C」の科目を学ぶ。また、この「監査C」を履修すると公認会計士試験の短答式試験(一次試験)が免除されるため、その目的で履修する学生も少なくない。「授業では、『監査実務指針集』を教科書として、掲載されている実務指針の内容を詳しく解説していきます」。
授業は基本的に座学形式で行う。「授業のやり方は正攻法で、変わったことはしていません。『監査実務指針集』は約1000ページもある分厚いものですが、公認会計士の論文式試験では会場で同様のものが配られます。そのため、内容を覚えるのではなく理解することに重点を置いています」。量が多いこともあり、教員によっては試験によく出る部分に絞って教えるケースもあるという。しかし、篠原教授の場合は、実務指針集の内容は多少「詰め込み過ぎ」になってもひととおりすべて説明するという。
「試験勉強という意味では、ポイントを絞ったほうが効率的かもしれません。しかし、実務では逆に試験にはあまり出ないような知識が必要になることが多い。また、この科目の本来の目的は、試験対策ではなく実務指針集の内容を学ぶことです。内容に優劣をつけずにすべて見ておくというのも、一つの切り口だと考えています」。制度改正があったときなどには、試験に出るかどうかだけでなく、その制度改正が実務にもたらすインパクトにまで踏み込んで解説する。「もちろん、わかりやすく説明していますが、内容的には手加減しません。制度改正のインパクトなどは、公認会計士の中堅クラスではないと難しいかもしれません」。
篠原教授の言葉を借りれば「詰め込み過ぎ」で「手加減しない」授業だが、学生授業アンケートでは「有意義だった」「よく理解できた」という声が非常に多い。高い評価の理由について、篠原教授は次のように推測する。「この科目は公認会計士を目指す学生が多く、学生たちの学ぶ意欲がもともと高いので、やりがいを感じるのではないでしょうか。また、実務に即した内容を盛り込んでいることで、企業派遣など社会人のニーズにも応えられていると考えています」。
模範解答の「暗記」はさせない。自分の頭で考えられる「応用力」を身につけさせる
授業のうち3~4回は、通常の講義ではなく、過去の試験問題を学生と一緒に解いていく「演習問題」の時間としている。論文式試験では大問2問が出題されるが、1問が理論的な内容で、もう一問は実務問題だ。「実務経験のない学生にとって、実務問題は難しい。そのため、演習問題は学生からは『とてもためになった』と好評です。ただ、問題を解くのに45分、解説に45分と1コマ分をすべて使うので、これ以上回数は増やせません」。
ところで、「監査C」は公認会計士試験のいわゆる受験予備校とはどこが違うのだろうか。篠原教授は、受験予備校は合格のためのテクニックに偏りがちだと指摘する。「予備校の講師は実務を経験していない人もおり、解説に実務や経験談を織り交ぜることができません。また、解説に時間をかけるより、模範解答を覚えさせるような勉強になりがちです」。しかし、受験テクニックばかりを追求していると、逆に応用力がつかない可能性があるという。「授業では、出題者の意図がどこにあるのかを探りながら、自分の頭で考えて答えられるように訓練しています。テクニックや暗記に偏りがちな学生には、実務指針集の内容を本当に理解して応用力をつけることが大切だと繰り返し教えています。これも、私の授業の一つの工夫と言えるかもしれません」。