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【実施報告】第1回高度授業TAカンファレンス

学生たちが“よりよいTA、よりよい授業の在り方”を模索――「第1回高度授業TAカンファレンス」レポート

2018年7月30日、19号館・WASEDA共創館にて「第1回高度授業TAカンファレンス」が開催されました。本記事では高度授業TAの概要、当日のカンファレンスの内容についてお伝えします。

問題発見・解決型教育への移行を目指して始まった「高度授業TA」

本学は創立150周年を迎える2032年をひとつの区切りと捉え、アジアのリーディングユニバーシティとして確固たる地位を築くための施策として、中長期計画「Waseda Vision 150」を策定しました。

この「Waseda Vision 150」の中の革新戦略のひとつ「対話型、問題発見・解決型教育への移行」を実現するべく、2018年度より導入されたのが高度授業TA(Teaching Assistant)です。

高度授業TAは、これまで活用されてきた授業TAと比較すると、より深く踏み込んだ学修支援・授業運営に携わる立場として位置づけられています。

【高度授業TA、授業TAの定義】

・高度授業TA

授業担当教員の直接指示に基づき、授業に参画して教務上の補助をする者とする。事前に担当教員と指導方針を共有した上で、当該授業科目の質向上に資する学修支援や授業運営に携わる。

・授業TA

授業担当教員の直接指示に基づき、授業に参画して教務上の補助をする者とする。授業科目の質向上に資する学修支援や授業運営に携わる。

(教育方法研究開発委員会にて定義)

2018年度の春学期より高度授業TAを採用した授業科目は195科目、人数にして765人となります。

前例がない初の試みのため、高度授業TAを務めた学生はそれぞれが創意工夫を凝らしながら、授業の補佐に尽力しました。彼らを一同に集め、ノウハウを共有したり今後の課題について議論したりすることで、高度授業TAの質を高めていこう――そんな趣旨の下に開催されたのが、「第1回高度授業TAカンファレンス」です。

会場となったWASEDA共創館には、春学期の授業で高度授業TAを務めた学生だけでなく、授業TA、今後TA業務に関わりたい学生など様々な層が集まりました。用意されていた飲み物やお菓子を口にしながら、和やかな雰囲気のもとでカンファレンスはスタート。

まずは、本会の主催である大学総合研究センター副所長・森田裕介准教授から開会の挨拶です。

森田「高度授業TA制度は,2018年度から新しく始まった制度です。多くの先生は,高度授業TAの活用方法を模索している段階です。今日は皆さんに高度授業TAとしての経験談を発表してもらいながら、『高度授業TAが何をしたら、大学全体の授業がよくなるか』一緒に考えていきたいと思います。」

高度授業TAの役割、導入の効果は――5名の実践者が発表

続いて、5名の高度授業TAが、自らの授業での取り組みやその効果、感じた課題について発表を行いました。以下、要点をまとめてお伝えします。

 

①人間科学部3年 安藤 百花(あんどう ももか)さん

TA担当授業:人間科学部「人間情報科学概論」

<授業概要>
・人間情報科学科2年次の必修科目、複数の教員が交代で教壇に立つオムニバス形式。
・事前に映像学習を課して、授業の時間は演習や議論に使う反転授業の回もあり。
・履修生182人に対して、TAは7人
・TAの主な役割は出欠管理、課題の採点、議論のファシリテートなど。

<高度授業TA導入による変化>
・教員が高度授業TAと頻繁にコミュニケーションを取り、授業の構成や進め方、課題の量について積極的に意見を求め、採用してくれた。そのため高度授業TAも、従来のTAより主体的に授業の改善を目指して業務に取り組めた。
・高度授業TAの存在が最も生きたのは、反転授業の実施時。教員の意図や授業内容の理解度が高い高度授業TAが、教室全体を見ながら演習のアドバイスや議論のファシリテートを担ったことで、授業がうまく回った。
・高度授業TAが中心となって、毎回の授業後にTAの反省会を行なった。これにより、PDCAサイクルの運用が実現した。

<高度授業TAをやってみての所感>
・高度授業TAとして教員に頼ってもらえるのはやりがいがあるし、それだけ責任感も生まれ、授業の理解度も深まる。
・反省会の実施のように、高度授業TAが授業に対して主体性を発揮し、TA全体をモチベートする機能を持てると、大きなメリットになる。
・高度授業TAを活用することで、反転授業をはじめとしたアクティブラーニングの導入がしやすくなる。

 

②基幹理工学部4年 小津 泰生(おづ たいせい)さん

TA担当授業:基幹理工学部 プログラミング系科目(Cプログラミング入門、Cプログラミング、Javaプログラミング入門、Javaプログラミング)

<授業概要>
・基幹理工学部1年次の必修科目(Cプログラミング入門, Cプログラミング)及び基幹理工学部・創造理工学部選択(必修)科目。
・授業形式は基本的に反転授業。履修生は事前にCourse N@viで講義動画を視聴し、授業中は各自で演習課題に取り組む。
・演習のサポートがTAの主な役割。質問対応等により履修生の問題解決をサポートする。

<高度授業TA導入による変化>
・導入前と同様、TAとしての業務に対する関わり方についてはTA個人や教員とTAの信頼関係に大きく依存する。「高度授業TA」としての意識を高めTA全体の質を向上することが課題。
・個人的には高度授業TAとして、次の時代を担う人材育成という観点から履修生に質のよい学びを提供しようと意識。質問対応以外でも、常に履修生の理解度に気を配り、知識の補助や考え方の提供によって、履修生が自ら解決方法に気づけるよう促した。
・一方、履修生への対応はTA個人の裁量に任されていたため、履修者の質問にただ答えるだけで、履修者の問題解決力向上や理解を正しく促せていないTAも少なくなかった。

<高度授業TAをやってみての所感>
・反転授業という形式で高度な内容を扱う難しさがあり、個別にサポートするTAの意識や力量が問われる場だった。今後は高度授業TAのコミュニティを形成することで、TA間の意識共有や連携を図りたい。
・理工学術院においては、授業に求められるものが特異的であり、他箇所の高度授業TAのやり方をそのまま採用することはできない。今後も教員と連携して授業の方法を議論してゆくと共に、理工学術院と大学の高度授業TAコミュニティの橋渡しを続けてゆきたい。

 

③法学部4年 小林 諭佳(こばやし ゆか)さん

TA担当授業:グローバルエデュケーションセンター「体験の言語化」

<授業概要>
・元はWAVOC(早稲田大学 平山郁夫記念ボランティアセンター)提供科目。
・全学部、全学年対象。各クラス15人定員の少人数制、参加型授業。教員はクラス全体のファシリテーターを担う。
・授業では毎回ペアワーク、ロールプレイ、マインドマッピング、プレゼンテーションなどさまざまなアクティビティが取り入れられる。座学よりもアクティビティ中心の内容。
・1クラスにつき高度授業TA(=シニアTA*)が1人、または高度授業TAと授業TA(=ジュニアTA*)の計2人が教員のアシスタントにつく。TAは履修経験者から募る。
*ジュニアTAは当授業のTAを初めて務める者、シニアTAは当授業のTA経験者として授業内のみで定義。

<高度授業TA導入による変化>
・高度授業TAとして、教員とは違った立場で、履修生に頼ってもらえるような振る舞いを心がけた。その際、過度に介入し「同じ学生」として卑近な存在になりすぎないように気をつけた。
・LINEグループによって履修生を管理して、毎週の授業内容の板書をアップしたり、授業前に授業のリマインドを行ったり、一人ひとりとのコミュニケーション量を上げることで、授業の出席率を高く保つことができた。

<高度授業TAをやってみての所感>
・オフィスアワーのようにランチタイムを設けて、履修生とフランクに話す機会を設けるなど、履修生との関係づくりに注力したことで、より能動的な授業参加を促すことができたと感じている。
・自己体験を持ち寄るので、授業内の環境も非常に大事で、TAとしてこれに向き合いやすい環境を整えるように努力した。

 

④教育学部3年 米虫 瞳(こめむし ひとみ)さん

TA担当授業:グローバルエデュケーションセンター「リーダーシップ開発1」

<授業概要>
・全学部、全学年対象。PBL(Project-Based Learning)形式の授業。
・授業中、教員はほとんど喋らない。進行はTAが中心となって行なう。
・TAの業務は、講義動画の撮影や資料作成といった授業の事前準備、ゲスト講師となる社会人との連絡、履修生の課題のチェックなど多岐にわたる。
・高度授業TAがTA全体をチームとして取りまとめる立場に。TA全員のタスクをエクセルで可視化し、各タスクの締切や進捗の確認を毎朝行なった。

<高度授業TA導入による変化>
・高度授業TAという立場にいることで、TA全体や授業全体を俯瞰し、履修生の学びを最大化するために動く意識を持てた。
・教員が「TAもリーダーシップを学ぶ現場」と捉えていて、TAと一緒に授業を組み立てる方針を取っていたので、履修生目線で多くの改善や新企画の提案ができた。

<高度授業TAをやってみての所感>
・高度授業TAにも、TA全体をチームとしてまとめていくリーダーシップが必要だと感じた。また、それを学べる効果的な場だとも実感。
・高度授業TAの経験を通して「人に頼ること」の重要性に気づけた。
・TAは誰かが上に立つわけではなく、全員がフラットにやり取りができるチームになれるといいと思う。

 

⑤人間科学部3年 丸山 雅貴(まるやま まさき)さん

TA担当授業:人間科学部 基礎教育科目(データリテラシー、スタディスキル、学生生活とセルフマネジメント)

<授業概要>
・人間科学部1年次の必修科目。データリテラシーやノートテイキング、レポート作成の方法について学ぶ。
・授業形式は反転授業。履修生は事前に講義動画を視聴し、授業中に実習やグループワークなどを行なう。
・1クラスあたり60人の履修生がおり、そこに3~4人のTAがつく。
・TAの主な役割は授業中の履修生のフォロー、グループワーク時のファシリテーションなど。

<高度授業TA導入による変化>
・高度授業TAが中心になって、ファシリテーション研修や終了後の打ち上げを自主的に開催。多クラスに散らばるTAが集まる機会を意識的につくってコミュニティ化し、TAのスキルアップとモチベーション向上に努めた。
・LA(Learning Assistant)との連携を図り、履修生の技術的なサポート体制を強めた。
・1人のTAが固定で学生15~20人の担当となり、休みがちな学生への声かけやフォローを徹底した。

<高度授業TAをやってみての所感>
・必修の科目なので、受講生がどうしても受け身になってしまうのがネック。グループワーク中心の知識構成型教育を効果的に実施するため、高度授業TAが担える役割は大きい。
・今後は高度授業TAを集めた勉強合宿などを企画し、学生主体でさらにTAコミュニティを盛り上げていきたい。
・他学部の学生、教員のノウハウを知り、TAとしてのレベル向上を図りたい。

まだまだ手探りの運用、カギは「チーム」としてのTAの連携か

5名の代表者のプレゼンによって、どの授業も、高度授業TAが、対話型、問題発見・解決型授業を支えていることがわかりました。一方で、TAの取り組み方や考え方も千差万別であることが、あらためて明らかになりました。

発表の後には、各発表者が会場に散らばってポスターセッションを行ないました。真剣に発表を聞いていた参加者たちは、とくに関心を持った発表者のもとに集まり、活発に意見交換をしました。

参加者同士の議論で、主に論点として取り上げられていたことは、以下のトピックです。

【高度授業TA同士のディスカッションで浮かんだ今後の課題感】

・お互い異なるモチベーションを持って集まったTA同士がどう連携を図れば、チームとして効果的に動いていけるのか。その中で、高度授業TAがどんな役割を担うべきか。

・受けなければならない必修科目と、自発的に受ける選択科目では、履修生のモチベーションが大きく異なる。とりわけ前者の授業で、どのように学生をモチベートしていくべきか。

・高度授業TAとしてより創造的な授業改善に取り組むためには、従来のTA業務の効率化も重要。

・学生との距離感の最適化も含め「高度授業TAとはどのような立場にいる、どのような存在なのか」を現場から言語化していく必要がある。

ディスカッションの熱も冷めやらぬまま、会は表彰へと移ります。森田先生は「皆さんが高度授業TAの業務を理解し,授業を改善するために試行錯誤してくれたことに感謝します」と、参加者全員に感謝を述べた上で、各発表者に表彰状を手渡しました。

<グッドプラクティス賞>

安藤 百花さん、小津 泰生さん、小林 諭佳さん

<特別賞>

米虫 瞳さん、丸山 雅貴さん

最後、閉会の挨拶として前に出たのは、4月に大学総合研究センターに着任したばかりの蒋 妍(ショウ ケン)講師。集まった高度授業TAの学生たちの「授業をよくしたい」という熱意に感動したと語り、次のように述べて会を締めくくりました。

蒋「早稲田大学の授業は、叡智にあふれた宝物です。私はセンターのスタッフとともに、よりよい授業をつくるためのサポートをして、学生の皆さんにたくさんの宝物を提供していきたいと思っています。そのために、ぜひ皆さんの力を貸してください。一緒に早稲田を盛り上げていきましょう!」

高度授業TAは、まだまだ活用が始まったばかりのシステムです。しかしながら、今回のカンファレンスの様子を見る限り、TAを担う学生側の意識には、すでに大きな変化の兆しが感じられました。彼らが中心となって、大学全体の授業にどんな変革をもたらしてくれるのでしょうか。これからの高度授業TAの発展に期待が高まります。

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