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文理を越えて学ぶ基礎教育としての「データリテラシーI」

2024年度開講科目早稲田大学ティーチングアワード
総長賞受賞
対象科目:データリテラシーI 04

受賞者:北原 卓也

 

「データリテラシーI」は、人間科学部の1年生が必ず履修する基礎科目である。本科目は、2年次以降に学生自身が研究テーマを設定し、データを用いて分析・考察を進めていくための土台を築くことを目的としている。北原先生は、この授業を「いずれ自分で興味のあるテーマを設定し、研究を進めていく上で必要な最低限のスキルを身につけてもらうための授業」であると位置づけている。

授業では、統計処理をする際の平均や中央値といった基本的な概念から、データをどのように読み解くかといったところまでを学ぶ。1年生の春学期に配置されているため、学生にとっては、大学に入学後、最初に受講する授業の一つとなる。「入学直後の学生は、大学生活への期待と不安が入り交じった状態にある。最初の数回は、不安を和らげながら大学で学ぶ意義を伝えることを意識している」という言葉の通り、学習内容だけでなく学びへの姿勢づくりも重視されている。

文系学生にも苦手意識をもたせない工夫

この授業の大きな特徴は、文理融合を前提として設計されている点にある。様々なバックグラウンドを持つ学生が混在する中で、特に文系学生にとって統計は苦手意識をもちやすい分野であると言える。実際、数字が出てきた途端に「きつい」と口にする学生も少なくないという。

そこで北原先生は、自身が文系出身であることをあえて示しつつ、それでも「テキストをきちんと読めば統計を使える」というスタンスを伝えている。高度な数理的理解を求めるのではなく、社会に出た後の具体的な場面と結びつけて説明することを重視している点も特徴的である。たとえば、「社会に出たらExcelを使う場面は必ずある」「駅や電車内の広告で見かけるグラフは、本当にそのまま信じてよいのか」といった身近な例を用いることで、統計が日常生活や社会と密接につながっていることを示している。

こうした工夫により、学生は統計を「難しい専門知識」ではなく、「社会を読み解くための道具」として捉えるようになる。文理を問わずデータリテラシーの必要性を実感し、「もう少し頑張ってみよう」と前向きに学習に取り組むようになる学生が多いという。

教員とTAと学生のコミュニケーションを大事にした授業

授業運営において重視されているのが、教員・TA・学生の間の密なコミュニケーションである。授業では毎回何らかの形でグループワークを取り入れ、個人での演習の後に意見を共有し、発表まで行うことを基本としている。ただ、入学直後で友達もいない状態の1年生にとって、対面で意見を述べ合うことは容易でなく、最初はなかなか話が弾まないことも多い。北原先生自身が意識的にグループの輪の中に入り、「どう思う?」「じゃあこの意見についてどう考える?」と問いを投げかけながら議論を促すことで、発言しやすい雰囲気をつくることもある。また、TAの役割も大きい。各クラスに複数名配置されたTAは、グループワークに参加したり、個人ワーク中の質問に対応したりすることで、授業をきめ細かく支援している。学生と年齢の近いTAは学生にとって相談しやすい存在であり、教員一人では手が回らない部分を補完する重要な役割を果たしている。

毎回提出されるリフレクションシートも、学生とのコミュニケーションを支える重要なツールである。「手を挙げて質問するのが苦手な学生でも、リフレクションシートには率直な疑問や感想を書いてくれる」という。リフレクションシートから、共通するつまずきや重要なポイントをピックアップし、次回の授業でフィードバックする。こうしたやり取りを通じて、授業は一方向的な講義ではなく、双方向的な学びの場として機能していく。

主体性を引き出すための授業デザイン

「データリテラシーI」では、学生の主体性を引き出すことが一貫した方針となっている。そのために北原先生が意識しているのは、「すぐに答えを与えない」ことである。「全部答えを言わず、自分で調べないと分からない状態をつくる」ことで、学生に考える余地を残す。ただし、完全に放置するのではなく、考えるためのヒントを段階的に示し、最終的な判断は学生自身に委ねるというバランスを工夫している。象徴的な例として、自転車の絵を描かせるワークが挙げられる。分かっているつもりの身近な対象でも、実際に描いてみると正確に表現できないことが多い。それを体験的に学ばせ、「じゃあ正しい自転車はどんな形か、帰り道で実物を見て確認してみて」と促す。この姿勢は、データの見方にも通じる。広告やSNS上の数値をそのまま受け取るのではなく、「本当にその数値からそう主張できるのか」「別の見せ方をしたらどう見えるのか」と問い直す視点を繰り返し投げかける。こうした働きかけにより、学生は受け身で知識を覚えるのではなく、自ら問いを立て、考え、判断する姿勢を身につけていく。

「データリテラシーI」は、統計の基礎を学ぶ科目であると同時に、大学で学ぶための姿勢そのものを育てる授業でもある。文理を越え、学生一人ひとりが主体的に学び続けるための基盤を築く場として、本科目は重要な役割を果たしている。こうした積み重ねによって、学生は受け身の学習から、自ら問いを立てて考える学習へと徐々に移行していく。「データリテラシーI」は、その第一歩を支える基礎科目として機能している。

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