2024年度開講科目早稲田大学ティーチングアワード
総長賞受賞
対象科目:事業再生実務
受賞者
井口 耕一/栗原 隆/知野 雅彦/中村 吉伸
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本講義は、会計研究科の修士課程における選択科目として開講されている寄附講義であり、事業再生をテーマに据えた実務色の濃い授業である。受講生は30名程度で、会計士や税理士を志す学生に加え、将来、企業の経理・財務や経営企画に携わることを想定する学生も多い。
近年、経営環境の変化は激しく、「良い会社や良い事業であっても、環境の変化によってうまくいかなくなるケースが増えている」という認識のもと、通常の経営論にとどまらず、事業が行き詰まった局面でいかに再生を図るかという点が重要な学習テーマとして設定されている。実務の最前線では、事業再生やそれに伴うM&Aに直面する機会は増えており、理論だけでなく現場感覚を伴った理解が求められる。本講義は、そうした実務的要請に応える形で、ビジネス、財務、M&Aの専門家がそれぞれの専門分野の講義を担当し、「教科書には載っていない実務の現実」を伝えることを目的として設計されている。学生は、講義を通して現場を疑似体験し、臨場感をもって「自分ならどうするか」を問い続ける。
オムニバス形式による専門性の高い講義
本講義の最大の特徴の一つが、4名の実務家によるオムニバス形式である点である。事業再生は「一人で完結する競技ではなく、複数の専門家がチームとして取り組むもの」であり、その構造自体を授業設計に反映させている。
講義では、ビジネス面の再生、財務面の再生、そして再生局面におけるM&Aという三つの大きなテーマを軸に、それぞれの分野を長年専門としてきた講師が担当する。財務再生を専門とする講師、ビジネスコンサルティングを通じて事業構造の立て直しに携わってきた講師、さらに再生企業特有のM&Aを専門とする講師が、それぞれの視点から講義を行う。
この体制により、学生は一つの事象を単一の視点で理解するのではなく、「ビジネス・財務・M&Aがどのように絡み合いながら意思決定がなされていくのか」を立体的に捉えることができる。講師陣はいずれも事業再生の現場で豊富な経験を積んできた実務家であり、「それぞれの専門性を極めた人間が語るからこそ、価値のある講義になる」という考えのもとで構成されている。
臨場感のある事例で「自分ごと」として捉える
もう一つの大きな特徴が、臨場感を重視した講義運営である。講師陣が共通して強調するのは、「理論だけでは理解は深まらない」という点だ。「どうしても理論だけだとつまらなくなったり、理解が及ばないところが出てきたりする」という問題意識から、実務・理論・具体事例を三位一体で提示する工夫がなされている。
講義では、実際の事業再生案件やM&A事例が数多く紹介されるが、その焦点は単なる成功談や手法の解説にとどまらない。「そのとき経営者や利害関係者が何を考え、どのような葛藤の中で判断したのか」という人間的側面がリアルに語られる。M&Aでは、売り手と買い手だけでなく、金融機関や従業員など多様なステークホルダーが関与するため、「交渉が成立しなければ誰にどんな影響が及ぶのか」という現実も避けて通れない。
講師は現場の裏事情や、意思決定の場で交わされた会話、感情の衝突といったエピソードを交えながら、学生に疑似体験を促す。また、「皆さんだったらどう判断するか」「この局面でどの選択肢を取るか」といった問いかけを通じて、受講生自身が当事者として考える姿勢を引き出している。
こうした工夫により、学生は事業再生を抽象的な概念としてではなく、「自分がその場に立ったらどうするか」という具体的な問題として捉えるようになる。授業での最終的な評価においても、知識の理解度だけでなく、「講義を踏まえて自分の考えをどのようにまとめられているか」が問われる。まさに実務の最前線を“自分ごと化”することが、この授業の目指すところである。






