2024年度開講科目早稲田大学ティーチングアワード
総長賞受賞
対象科目:交通まちづくり
受賞者:森本 章倫
本授業は、都市や交通をめぐる理論的枠組みを学びながら、実社会で現在進行形で起きている課題や議論と結びつけて理解を深めることを目的として設計されている。シラバスでは、都市構造や交通計画の基本原理から出発し、コンパクトシティ、次世代交通、ICT の活用、政策形成といった多様なテーマが段階的に配置されており、都市と交通を総合的に捉える視点の獲得が到達目標として掲げられている。
一方で授業運営においては、理論を順に積み上げるだけでなく、写真やデータ、最新の事例を積極的に用いることで、学生が社会との接点を具体的にイメージできるよう工夫されている。専門的な数式や定義を詳細に解説するよりも、背景や構造、なぜその考え方が必要とされているのかに焦点を当て、学問への「入口」を開くことが重視されている点が特徴である。
また、授業中の問いかけを通して、正解を当てるのではなく、問題に気づき、自分なりの視点で考える姿勢を育てる設計がなされている。理論と実社会を往復しながら学ぶこの構成により、学生は知識の理解にとどまらず、都市や交通の課題を自分事として捉えるための思考の土台を築いていく。
数式よりも背景理解を重視し、学びの入口を開く授業設計
森本先生の授業では、専門的な数式や理論の詳細を教え込むことよりも、まず学問の背景や構造を理解することが重視されている。森本先生は、「数式を書いて教えるっていうのももちろん重要なんですが」と前置きしつつ、「その数式がどういう意味を持っていて、どういう現象を表しているのかを、できるだけ視覚的に教えてあげたい」と語る。
実際の授業では、絵や写真、図を用いて現象のイメージを伝える工夫がなされている。森本先生は、「僕の授業はあんまり論理立てた内容を、数式を展開して解説することに時間を使うではなくて」と述べ、「できるだけ対象となる現象に興味を持っていただいて、問題を身近に感じていただきたい」と授業の狙いを説明する。その上で、「興味を持ったら自分でその数式はいくらでも、インターネットで調べれば出てくる」とし、学習の主体を学生自身に委ねている。
このような設計の背景には、「むしろ入り口を開いてあげることの方が重要」という明確な教育観がある。難解な理論を最初から提示するのではなく、学問のおもしろさや社会とのつながりを実感させることで、学生が自ら学びを深めていくきっかけをつくっている点が、この授業の大きな特徴である。
実社会の最前線を授業に取り入れた、ライブ感のある授業設計
森本先生の授業の特徴は、教科書に整理された知識の紹介にとどまらず、実社会で現在進行形で起きている議論や事例を授業素材として取り入れている点にある。森本先生は、「そもそも教科書に書いてあることは昔のことだ」と述べ、「私が教科書を執筆するのに2年近くかかってですね、それから皆さんに教えると、大体4、5年ぐらい前の情報しか教科書に書いてない」と、限界点を率直に語る。
そのため授業では、写真や動画、最新のデータなどを用い、都市や交通をめぐる具体的な事例を紹介している。森本先生は、「都市計画っていう学問はですね、人に言われて何かをやるわけではなくて、自分がまちの中に出て、自分で問題をみつけ出せるかどうかが極めて重要だ」と強調し、現場に即した視点の重要性を示す。
また、「今年の学会で何を議論したのかっていう最新情報も、学生さんたちに直接教えるような話をしたい」と述べ、研究や社会の動向を授業内容に反映している。教科書に整理された知識と最新の研究・社会動向を往復させる構成により、学生が学問と社会のつながりを実感できる、臨場感のある学びの場が形づくられている。
答えのない問いを投げかけ、問題発見力を育てる対話型の授業設計
森本先生の授業では、正解を当てることよりも、問題に気づき、自分の言葉で考えることが重視されている。その象徴が、授業中に繰り返される問いかけである。森本先生は、スライドや写真を示しながら「この写真の問題点、何だと思う?」と学生に問い、「誰でも答えられる質問しか聞きません」と語る。ここで求められているのは、専門知識の正確さではなく、感じたことを言葉にする姿勢である。
学生の発言に対しては、「全部正解です」と受け止め、発言の正誤を判断しない。森本先生は、「我々の分野って、必ず答えが一つではない」と述べ、複数の視点が存在すること自体を学びの対象としている。そのため、学生は正しいことを言わなければならないという不安から解放され、安心して発言できる。
このような対話設計を通して、学生は与えられた問題を解くのではなく、何が問題なのかを自ら考える経験を重ねていく。森本先生が重視しているのは、知識の習得以上に、実社会に向き合うための問題発見力である。



