Center for Higher Education Studies早稲田大学 大学総合研究センター

履修生同士の対話と協働を重視して、一人ひとりが実現したい「日本語教育」の場をゼロから作り上げる

2022年度秋学期早稲田ティーチングアワード
総長賞受賞
対象科目:日本語教育実践研究(1)(秋)

受賞者:池上 摩希子

 

 

「日本語教育実践研究(1)(秋)」は、「にほんご・わせだの森」という場を利用して、日本語教育活動をゼロから作り上げるという実践的な内容に特徴がある。活動内容はもちろん、開催日時から実施回数、「集客」まで、すべて履修生たちがディスカッションを通して決めていく。自由度の高い授業だからこそ教員のサポートが重要だが、担当する池上摩希子教授は履修生の対話と協働を重視しながら日本語教育を具現化する力を伸ばしている。

 

各自が目指す日本語教育を言語化し、他の履修生と意見をすり合わせながら準備を進める

「日本語教育実践研究」は、実践と密着した研究を行う科目だ。具体的には、日本語の授業に参加することで日本語教育の実際を学ぶ「実習」と位置付けられるが、詳細はクラスによって異なる。池上教授が担当する「日本語教育実践研究(1)(秋)」の場合、実践の場となるのは「にほんご・わせだの森」(以下「わせ森」)だ。「わせ森」は、年齢や国籍、日本語スキルの違いなどに関わりなく、誰でも参加できる新しい形の日本語教室で、池上教授が早稲田大学に着任した2006年に立ち上げた。「日本語教育のニーズが多様化する中で、誰にどのような日本語教育の支援をしていくのかを大学院生と一緒に考える場を作りたいというのが、『わせ森』を立ち上げた理由の一つです」。

「わせ森」には決まった活動プログラムはなく、開催日や人数も決まっていない。つまり、履修生は自分の目指す日本語教育や具体的なアクティビティを提案して、「わせ森」で実践することができる。2022年度秋学期の履修生は8名で、日本語学校の教員経験がある人や仕事を退職して大学院に進んだ人、留学生などバックボーンもさまざまだった。

「第1回~4回の授業では、『わせ森』での実践に向けて、どのような教室を作りたいかを言語化してもらい、準備を進めていきます。一人ひとり目指すところは異なりますが、『わせ森』ではチームティーチングを掲げているので、自分のやりたいことをみんなに説明して共通項をすり合わせていく過程が重要です」。教育の理念といった抽象的な話もあれば、子ども向けに開催するなら何曜日の何時に行うのがよいかといった実現のために欠かせない具体的な話もする。シラバスでは、準備に時間がかかることや、他の受講生と共に考えることをいとわない姿勢が必要なことをあらかじめ記載しているため、基本的にやる気のある学生が集まっているという。

「わせ森」を実践した後の振り返りが重要。履修生同士での学び合いが成長につながる

第5回以降の授業は、毎回「わせ森」で実施した教室を振り返り、次回の「わせ森」を準備するという流れになる。振り返りは「わせ森」の活動が終わった後の時間も使って行い、実践自体も重要だが、池上教授はこの振り返りこそが非常に大切だという。「自分たちが実践した内容を評価しなければ、学んだことにならないからです。今日は何ができて、何が不十分だったのか。何を目標にしてどのくらい達成できたのかなど、毎回1~2時間程度、しっかり時間をかけて話し合います」。

ただし、”反省会”にはしないよう気を付けている。「履修生たちには、『できなかったからダメ』ではなく、次はどうすればよいのかを考えましょうと伝えています。また、振り返りの際は、過度に助言をしたり提案をしたりしないことも注意している点です。足りなかった点を気づかせるための指摘は必要ですが、『こうするとよい』という提案になると履修生が納得しないままにそれに飛びついてしまうリスクがあるからです」。また、指摘する際には履修生が大事に思っていること、つまり「わせ森」でこれを実現したいという履修生の思いは否定しないように心がけている。

「『わせ森』では、その回ごとに履修生が役割分担をしています。メインのファシリテーターになると、その場のことでいっぱいになりがちですが、メインが気づけないこともサブのファシリテーターやスタッフは気づけている場合も多い。振り返りの時間には、できるだけ教員主導ではなく、履修生同士で話し合うのが望ましいと考えています。教員が言うよりずっと伝わりやすいし、納得感もあります。また、伝える側の履修生も、自分がメインでファシリテーターをやる際に気を配ることができます。そういった意味では、振り返りは履修生同士が学び合って成長する、よい機会だと考えています」

履修生の主導ではなく、参加者をうまく巻き込んで一緒に活動することが今後の目標

2022年度秋の「日本語教育実践研究(1)」は、ティーチングアワードの学生授業アンケートで「総合的にみてこの授業は有意義だった」「この授業で取り組んだ活動から十分な学びが得られた」「教員は、学生自ら考えたり、行動したりすることを促した」の3項目がいずれも満点だった。授業を通して自分のやってみたい日本語教育を実践できることから、履修生の満足度は非常に高い。

しかし、「わせ森」についてはまだ課題があると池上教授は語る。「全体としてできているとは言えないのが、参加者をうまく巻き込むことです。『わせ森』は『先生がいない教室』をうたっていますが、現状は履修生が先生役として中心になっています。もちろん、参加者の方々は楽しんでくれていますが、もっと参加者にやりたいことを提案してもらい、履修生と参加者が一緒になって教室を作っていきたいですね」。

また、「わせ森」では参加者の日本語レベルに制限を設けずに活動しているが、どうしても日本語レベルの高い参加者が活動の中心になってしまうという。日本語レベルがまだ十分でない人にも継続して参加してもらうために、履修生は彼らをどのようにサポートすればいいのか、さらに「日本語レベルの高い参加者が、まだ日本語が十分でない参加者をサポートする」にはどうすればいいか――。「1つめの課題である『参加者を巻き込むこと』にもつながりますが、今後はこうした点をこれまで以上に意識しながら、誰でも気軽に参加してもらえる場を目指していきたいと考えています」。

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