2021年度秋学期ティーチングアワード
総長賞受賞
対象科目:アクチュアリー生保数理演習
受賞者:安達 良喜/田中 浩一/浜田 淳一
大学院会計研究科のアクチュアリー専門コースに設置された、秋クォーター科目の「アクチュアリー生保数理演習」。日本アクチュアリー会から派遣された非常勤講師3名が、「アクチュアリー資格」試験の科目でもある生保数理を演習形式で指導する。学生による発表を授業の中心としたことで学習のモチベーションが高まり、クラス全体の理解度も深まったという。講義終了後の12月に行われる資格試験にとっても効果的な授業となっている。
与えられた演習問題に取り組み、発表する授業スタイルが評価された
アクチュアリーとは、確率や統計などの手法で将来の不確実な事象を評価する専門家のことで、保険や年金、リスクマネジメントなどの分野には欠かせない。「アクチュアリー生保数理演習」では、アクチュアリー資格取得のための勉強を念頭に置きつつ、アクチュアリーに必要な生保数理の知識を学ぶ。
履修者は2021年度の場合16名で、そのうち14名がアクチュアリー専門コースに属し、それ以外の2名は公認会計士コースと基幹理工研究科に属していたという。2021年度は履修者はいなかったが、企業や金融庁から派遣されるケースもあるという。2019年度に『アクチュアリー専門コース』ができてからは、12月に行われるアクチュアリー資格の第一次試験合格を目的に履修している学生も多いという。
春学期の「アクチュアリー生保数理」では座学で基礎知識を学び、秋クォーターでは「演習」として実践的に学ぶスタイルとなっている。授業の冒頭に、前回の復習として小テストを実施し、その解説をした後は、履修者の課題の発表が主となる。履修者は、事前にWaseda Moodleで開示された演習問題に各自で取り組み、授業中に発表。発表後は他の履修者からの質問に答えて、その後教員が解説を加える。1回の授業で6問程度を扱うため、毎回約半数の履修者が発表することになるという。
ティーチングアワードの学生授業アンケートでは、「総合的にみてこの授業は有意義だった」が6点満点中5.90点など、「アクチュアリー生保数理演習」が極めて高く評価された。これは、春学期の「アクチュアリー生保数理」と比べても非常に高いという。その理由として、安達先生は次のように推測する。「演習では、受け身ではなく自分たちで一生懸命考えて、考えたことをみんなの前で説明します。発表によって学生自身の理解が深まったことが、学生の満足度アップにつながったのではないでしょうか」。
事前指名⇒ランダム指名に変えたことで、学習効果がさらに高まった
演習問題は文章題や計算問題などで、アクチュアリー資格試験の「生保数理」科目で出題された過去問題やその類似問題が多いという。いずれも正解は一つだが、問題によっては解き方が複数あり、発表を聞いて「どんな解き方があるのか」「この方法ならより省力化できる」といったさまざまな視点を得られることがメリットだ。
「ユニークな解法が出てくれば授業としても盛り上がりますし、過去には授業後に学生たちが解法について話し合っていたこともありました。よい解き方はみんなで共有したほうがよいし、実際のアクチュアリー試験では問題数がかなり多いので、簡単な問題から手早く解けるようになることは非常に重要です」(安達先生)。「できる学生は、まずなぜこの解き方を選んだのかという方針から説明できます。そうした説明を聞くことも、他の履修者にとって刺激になります」(田中先生)。
なお、履修者が発表するスタイルは以前から変わらないが、ティーチングアワードを受賞した2021年度から変えた点がある。以前は、事前に指名して誰がどの問題を発表するのかを決めていた。しかし、あらかじめ決めてしまうと、自分が指名された問題にしか取り組まない履修者もいたという。そこで、2021年度からは事前には決めず、授業内でランダムに当てることにした。授業が始まってから指名するようにしたことで、すべての課題に全員が取り組む環境になったという。
課題レポートを「再提出」可能に。書き直すことで知識が定着する
もう一つ、2021年度から変更した点がある。それは、演習問題の課題レポートを「再提出可」としたことだ。2020年度以前は、授業の2日前までに提出したもので評価していたが、授業で人の発表や教員の解説を聞いて、レポート内容を修正した上で再提出できるようにした。基本的には授業を聞いていればできる問題だが、学生によっては理解が不十分だったり、途中で計算を間違って正解を導き出せなかったりする場合もある。授業を聞いて修正、再提出した場合は、再提出したものも評価の対象とするようにした。
その狙いは、授業で他の履修生が発表した「よりよい解き方」を記憶にしっかり留めてもらうことにあるという。「ただ聞くだけではなく、レポートとして提出させたほうが学生自身の記憶に残ると考えました」(安達先生)。当初提出した課題レポートの内容に不足があった場合、修正して再提出すれば評価が上がり、さらに自分自身の勉強にとってもプラスになる。学生にとっては非常によい仕組みと言えるだろう。もちろん、再提出を選ばない履修者もいるし、そもそも履修者のレベルには差がある。
2021年度の履修者は、2018年度から教えて来た中でも非常にレベルが高かったと3人の先生方は振り返る。授業の際には、毎回発表したいと挙手をする積極的な学生もいたそうだ。今後については、今のところ大きな変更は予定していないという。「個々の学生をしっかりと見てたとえば同じ問題であっても、学生の理解度に応じてフィードバックの方法を調整するなどして、徐々に全体の底上げを図っていきたいですね」(安達先生)。「これまでと同じように、学生に丁寧に指導して、最後まで問題を解くことで『解けた喜び』のようなものも感じてもらえればと思っています」(浜田先生)。