WasedaX対談
須賀副総長×細川准教授
<新規講座>Sport Safety: A Guide to Preventing Sudden Death in Sport
早稲田大学では2015年9月より、大規模公開オンライン講座(MOOC:Massive Open Online Course)の提供機関であるedX(米国ハーバード大学とMITが創設)を利用し、さまざまな講座を世界に向けて配信しています。
この春から始まる新講座「Sport Safety: A Guide to Preventing Sudden Death in Sport」を担当するのは、スポーツをする人のケガ予防やコンディショニングを担う「アスレティックトレーニング」がご専門のスポーツ科学学術院・細川由梨准教授。スポーツ関連での突然死予防をテーマとするこの講座が目指すものについて、須賀 晃一副総長にお話を聞いていただきました。
研究者のエビデンスで助かる命がある
須賀:細川先生は、昨年の東京オリパラでも活動されたそうですね。 この分野の研究者としてどんな点に魅力を感じていらっしゃいますか?
細川:私はもともと選手を直接サポートするアスレティックトレーナーを目指してアメリカに留学したのですが、研究者がエビデンスを出すことで現場のアスレティックトレーナーが安心して業務に集中することができ、結果として助かる命があることを目の当たりにして、研究者の道に進んだという経緯があります。国内ではスポーツ関連の熱中症に関連するエビデンスが不足していたので、オリパラでは、アメリカの例を日本の医療体制に合わせて書き換えるような形でアドバイスさせていただきました。自分は一研究者でしかなくても、臨床の方が広く研究結果を活用してくださることによって成果を出せることに、とてもやりがいを感じています。研究によってパラダイムシフトが起きれば、安全基準への時間やお金の投資が進むこともありますし、多くの方の役に立つ土台を築けることは、研究者として大きな喜びですね。
スポーツに関わるすべての人に、安全の意識と知識を共有してほしい
須賀:今回の講座は、先生のご経験や思いが込められたものだと思いますが、どのような内容なのでしょうか?
細川:スポーツ関連の突然死をなくしていくには、現場での意識を高め、万が一危険な事象が起きても必ず救命できるようにすることが必要です。メディカルスタッフだけではなくて、現場の指導者や選手自身、運営組織なども含めてスポーツに関わる人全員で意識を共有し安全を担保する、そんな基盤づくりを伝えたいと考えています。
この講座は4週に分けて構成されています。まず概論として、スポーツで安全を担保するために一人ひとりができることを、科学的根拠に基づいたさまざまなフレームワークで整理します。どこに危険があるか、どこから着手するのが効率的かなど、コンセプトの話ですね。その後は各論として、スポーツ関連突然死の7、8割を占める心停止、労作性熱射病、頭頸部外傷という三大疾患について、ひとつずつ取り上げていきます。
各週の終わりにはスポーツセーフティに関する具体的なアクションの進捗度チェックをします。受講者は学んだことを踏まえて、自分の携わる現場での達成度を確認します。イエス、ノーではなく、どの程度できているか、どのぐらい自信があるかについて自己評価します。「今後それがどう変わっていくべきか」というメッセージも伝えながら、実際にアクションを起こし、それが当たり前となるまでの過程を示すことを意識しています。
スポーツセーフティの拠点として早稲田の存在をアピールしたい
須賀:今回、edXを通して講座を配信されるわけですが、早稲田から世界に向けて発信する意義をどう感じていらっしゃいますか?
細川:アスレティックトレーニングに関しての発信は現状アメリカ一極集中の感があるので、日本でこういう取り組みをしているという新規性を、まずアピールしたいですね。
講座ではアメリカの事例も引用しますが、どの国や地域でも活用できるよう意識しています。スポーツセーフティーに特化している研究室は実は世界でもニッチな存在なのですが、そのひとつの拠点として早稲田のスポーツ科学部を、この講座をきっかけに大いに発信していきたいと思います。
須賀:安全はとても重要な要素なのに、研究者が少ないとは驚きですね。
細川:安全の重要性は分かっていても「安全にスポーツができてよかった」という効果は定量化が難しい面があります。残念なことに問題が起きてからでないとアクションが起こらないという負のループがあるんです。
でも、防災訓練や地震対策が一般市民にも当たり前になってきたように、スポーツの安全も当然意識されるものとなれば、いろいろ変わってくると期待しています。今回の講座でお示しするような内容が、スポーツに関わる人の知るべき基礎知識として浸透するとうれしいですね。
スポーツを安全という視点で見ると、多様な分野とつながる可能性がある
須賀:最後に、この講座を受講する方へのメッセージをお願いします。
細川:まず、 現在コーチや選手として活動している、目指しているなど、何らかの形でスポーツと接点を持っている方にはぜひ受講していただきたいです。私が現在教えているスポーツ科学部の授業では、ビジネスコースなど文系の学生も履修していて、身近なトピックであるスポーツを、「安全」という今までにない観点からスポーツを見ることで、自分の専門性との接点に気づいたり、今までにないアイディアが生まれてきたりしています。この講座をきっかけにスポーツを見る新たな視点を持つことで、多様な分野で活かしていただけるのではないでしょうか。
アスレティックトレーニングという分野はまだ発展途上ですが、高齢者の健康や子どもたちの活発な身体活動の支援など、今後いろいろな場面で活躍が期待されています。スポーツ活動中のケガや事故予防は、従来の医療関係職ではあまりフォーカスされていない分野なので、「アスレティックトレーニングがスポーツの安全を牽引する」というメッセージを広く伝えたいです。
須賀:大学としても、新しい研究の展開は積極的にアピールすべきだと考えているので、細川先生のような若い方がどんどん発信してくださることは、大変望ましいですね。楽しみにしています。
講座概要および登録はこちら
https://www.edx.org/course/waseda-sport-safety