2020年度秋学期ティーチングアワード総長賞受賞
対象科目:有機化学B
受賞者:武岡 真司
突然のコロナ禍となった2020年度の春学期はオンデマンドで授業を行った武岡教授。
その経験を踏まえて秋学期のこの授業では、臨場感を重視してライブでの配信を選択した。
講義とグループワークを組み合わせた授業スタイルは、学生一人ひとりへのフィードバック
の効果もあり、学生同士および学生と教員間の距離を縮められたと感じている。
講義を聞いた後にグループで課題に取り組む
春学期に別の授業で行ったオンデマンド授業は、「学生が真剣に見ているのか分からない」という疑念に加え、Moodleを使った小テストにも不満があった。「選択式では簡単すぎるので穴埋めなどの記述にしたのですが、自動採点では模範解答と一字一句同じでないと正解にはならず、この解答は正解なのでは?との多くの問合せに対応しなければならず、断念しました。課題を出席として毎回課すのも学生たちには負担が大きく、授業に出るのが怖くなるとの声もありました」。
秋学期のこの授業では、時間割通りにZOOMでアクセスするライブ形式とし、リアルタイムに講義を聞きディスカッションにも参加させるようにした。「朝9時開始で半分寝ぼけている学生もいるので、最初の学生との雑談はカットしたうえで講義部分をオンデマンド動画としてアップもしました」。ただし、オンデマンドはあくまで復習用の位置づけだ。学生はリアルタイムに30分前後の講義を聞いた後に、4,5人程度のグループに分かれてブレイクアウトルームに入る。ディスカッションをしながら課題に取り組み、講義の後半でランダムに指名されたグループが全員の前で発表をするという構成にした。
キャンパスに来られない特殊な状況を考慮し、初回は教員が自己紹介を含めて授業とはあまり関係ない話をしたところ、学生の緊張も若干ほぐれたように感じられた。「日常は学生同士で話をする機会もほとんどない状態だったので、グループで取り組むタスクを入れたのはとてもよかったと思います。」
グループワークではリーダーがグループ内での意見をまとめ、グループ全員の名前と役割も入れてPowerPointに整理する。授業終了後にはそこに各自でアレンジをしたり、質問やコメントをつけて提出する。「出席は授業の冒頭のチャットでとり、さらにそのPowerPointの提出を以て授業にきちんと参加していたことを確認します」。
先に講義を聞かせることが、効果的なアクティブラーニングにつながった
グループワークは以前からやってみたいと思っていたが、教場での対面授業では物理的にむずかしいと感じていた。「教室の構造の問題もあり、机や椅子のアレンジや移動に時間がかかってしまうなど非効率です。なるべく参加型にしたいと思ってもマイクをどんどん回して簡単な質問に答えてもらうぐらいが関の山でした」。
アクティブラーニングを取り入れようと、指名した学生に課題をみんなの前で解かせてプレゼンさせる形式も試してみたがうまくいかなかったという。「まだ反転授業の概念も浸透していない時代だったためか、教員は見ているだけで偉そうに批評して何もしていないとの批判も受けました。社会問題や時事問題と違って自然科学ではあらかじめ理論を正確に理解していないと何も話せないので、まず講義で基礎をしっかりレクチャーするステップが重要であることを実感しました」。
今回は、30分間グループワークに必要な基礎をしっかりと講義をした後でグループワークを行う構成が功を奏した。「オンラインで90分間集中して講義を聴くのは困難だったでしょう。課題をすべて宿題とするのではなく、キーとなる課題は講義の時間内に一斉に取り組ませたのも良かったのだと思います」。
グループワークの時間を設けると必然的に講義で話せる時間は減る。「従来講義で話していた内容の一部をグループワークとして補いました。講義ではイントロぐらいしか話さないようにし、それをヒントに学生たちは教科書やネットにも自由にアクセスして調べる。自分たちで取り組んだ分、理解度はむしろ上がったように感じます」。
全員へのフィードバックは負担が大きいが、学生とのコミュニケーションに役立った
個人で提出した課題については、毎回点数とともに全員に短いコメントもつけて返した。「実際かなり大変でしたが、私のコメントが少しでも学生のためになればと自分の時間を削って対応しました」。質問には直接返信するほか、内容によっては次回以降の講義で取り上げて全体に対してもフィードバックした。ユニークなPowerPointをピックアップして内容に対して全員の前で講評したことも、学生からは参考になったとか刺激を受けたなどと好反応だった。
課題に添えられる学生の質問やコメントの中には、この授業以外の学生生活全般に関する話題や勉強の方法などを聞いてくるものもあった。「以前、対面授業の直後に提出させていたB5サイズの出席票では簡単な感想程度しか書いてくれませんでしたが、Moodleだと時間をかけていろいろ書いてくれる学生の数が増えました。学生の履修状況を確認したり悩みを聞いたり、学生とのコミュニケーションに役立ちました」。
今回は不慣れだったせいもあり、グループワークへの介入法などに改善の余地があると振り返るが、今後対面授業に戻ったとしてもアクティブラーニングは取り入れていきたいと考えている。「対面で講義した後にMoodleのブレイクアウトルームに入ってディスカッションでもいいし、あらかじめ収録した講義動画を見ながらグループワークをする方法もありかもしれません。すべてをオンラインとなるとコミュニケーションの面でも厳しいので、対面とオンラインの両方をうまくミックスできるといいですね」。
そもそも今回この形式を導入したのは、学生間のコミュニケーションがほとんどないコロナ禍での学習環境を不憫に思う気持ちから、対面授業に近い臨場感のある授業を体験させたいと考えたからだ。「結果的に学生主体の授業となったために、学生たちにも満足度が高かったのでしょう。学生も教員もいきなり巻き込まれたコロナ禍ですが、大きな改革をする機会に恵まれたと捉えたいですね」。