School of Sport Sciences早稲田大学 スポーツ科学部

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仮眠におけるビーズソファの有用性

【発表のポイント】

  • 日中の仮眠(昼寝)がパフォーマンス向上に役立つという研究は多くなされてきたが、どのような姿勢や用具を用いてとればよいのかという検討はされてこなかった。
  • 体重によって自動的に姿勢が整うビーズソファ(bean bag chair)での仮眠は、主に頚部の筋緊張が和らぎ、自律神経機能によるストレス指標(LF/HF)が低いことを示した。
  • ビジネスパーソンの午後のパフォーマンス向上だけでなく、日々の激しい練習によってコンディショニング低下に悩むアスリートのリカバリー(適切な疲労回復)にも、活用が期待される。

 

早稲田大学スポーツ科学学術院の西多昌規(にしだまさき)准教授と株式会社ウェブシャーク(大阪市中央区、取締役 木村誠司)らの研究グループは、寝具環境が仮眠*1に与える影響を評価し、ビーズソファ*2がウレタン製の同型ソファに比べて、仮眠中の表面筋電図*3と自律神経機能*4によるストレス指標が低いことを明らかにしました。

 

本研究成果は、PeerJ Inc.発行の『PeerJ』に2022年5月9日(月)にオンラインで公開されました。

 

【論文情報】

雑誌名:PeerJ

論文名:Effect of napping on a bean bag chair on sleep stage, muscle activity, and heart rate variability.

 

(1)これまでの研究で分かっていたこと

昼間の仮眠は、健康に有益であり、認知機能やパフォーマンスの向上にも役立つことが、数多く報告されています(Lastella M et al. Nat Sci Sleep. 2021)。これまで夜間の睡眠に関する環境条件、すなわち寝具についてはいくつかの研究は行われてきましたが、日中の仮眠については、科学的な研究が十分に行われていませんでした。日中の仮眠は、深いノンレム睡眠に入ってしまうと、覚醒時の眠気が強くなるなど、夜間睡眠とは異なった注意点があります。睡眠不足に悩むビジネスパーソンだけでなく、効率的に疲労回復を図りたいアスリートにおいても、仮眠環境の充実に向けた用具の開発が期待されています。

 

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

夜間睡眠においては、高反発マットレスが深部体温を低下させ、睡眠の質を高めるのに有用であったことが報告されています(Chiba S et al. PLoS One 2018)。しかし、仮眠における寝具など環境条件については、深いノンレム睡眠を評価指標とするには問題があるため、これまで明らかにされてはいませんでした。

 

完全な仰臥位では深睡眠に入りやすいので、やや前傾姿勢が望ましく、ソファやクッションということになります。しかし高反発素材を用いると、深部体温が低下し、深睡眠に入ってしまう可能性が高くなります。低反発素材の中でも、ビーズソファは自身の体重によって形状が記憶でき、リラックスして座った姿勢が維持できます(図1)。このビーズソファが、長仮眠の質に与える影響を検証しました。

図1.ビーズソファでの仮眠

 

(3)実験の方法と結果

健康な若年男性14名(平均年齢22.7歳)を対象に、ビーズソファでの仮眠と、比較対照用のウレタン製ソファとで、仮眠をとってもらいました。仮眠中に、睡眠測定用の脳波と、表面筋電図、心拍(自律神経機能測定)を記録しました。実験デザインは、全対象者が両試行に参加するクロスオーバー法*5を用いました(図2)。

図2.実験方法

 

脳波で測定した睡眠構造(ノンレム、レム睡眠の割合など)は、両条件に差はありませんでした。しかしビーズソファでの仮眠では、頚部の表面筋電図が、ウレタンより有意に低い値を示しました。さらに、自律神経機能におけるストレス指標(LF/HF)*6の入眠前後での変化を比較したところ、ビーズソファのほうがウレタンソファに比べて、LF/HFが低い(ストレス度が低い)ことがわかりました。ビーズソファのほうが、首・背中の筋肉の緊張が低く、自律神経の面からもリラックスして仮眠をとれる可能性を示しています(図3)。

図3.実験結果

 

(4)研究の波及効果や社会的影響

適切な仮眠のために用いる用具や姿勢について、これまでは定見がない状況が続いていました。しかし、本研究において、ビーズソファでの仮眠中に、頚部・背部の筋緊張の低下と、自律神経評価によるストレス指標の低下を確認しました。パフォーマンス向上や疲労回復を目的として、仮眠を習慣化している人も多いと考えられますが、仮眠の質を高め、適正かつ効率的な仮眠をサポートできる可能性があります。午後にパフォーマンスを高めたいビジネスパーソンだけでなく、コンディショニング7*を高めたいアスリートにとっても、良好なコンディションでパフォーマンスを発揮できることが期待されます。

 

(5)今後の課題

今後は、アスリートに特化して、ビーズソファによる仮眠がリカバリー8*に役立つかを検証する必要があります。アスリートのパフォーマンスやウェルビーイングの評価方法が、課題となると考えられます。

 

(6)研究者のコメント

これまで身体運動とメンタルヘルスを、睡眠という欠かせない生活習慣を軸として研究に取り組んできました。仮眠については、研究ではプラスになるという結果が主流なのですが、現場からの「どういう姿勢で仮眠を取ればいいのか」という疑問には、答えられないもどかしさが続いていました。本研究では、ビーズソファの形状柔軟性に着目して、株式会社ウェブシャークとの共同研究により、戦略的仮眠にエビデンスを与えるという目標を達成することができました。得られた知見を活かし、引き続き、睡眠や生体リズムと、身体運動とメンタルヘルスとをリンクさせた研究に取り組みたいと思います。

 

(7)用語解説

*1 仮眠:短時間の睡眠を、主に日中に取ることとされます。睡眠不足の補完や、仮眠後の認知機能をはじめパフォーマンスを向上させる目的でもとられます。

*2 ビーズソファ:特製の袋に、ポリスチレンビーンズを詰めたソファクッション。英語では、Bean Bag Chairと表記することが多い。高耐性のポリスチレンペレットが詰まっているので、自動的に身体に適応し、頭や首をサポートしながらもたれかかり、くつろぐことが可能になります。

*3 表面筋電図:皮膚表面で計測する筋電図を指します。安静時の筋肉の緊張を評価することができます。

*4自律神経:血圧や呼吸数など、体内の特定のプロセスを調節している神経系です。意識的な努力を必要とせず、自動的に機能するのが特徴です。自律神経には、身体を活発に動かすときに働く交感神経、身体を休めるときに働く副交感神経があります。

*5クロスオーバー法:複数の試行が存在する場合、個体要因を排除するために、全対象者が各試行間に休息期間(ウォッシュアウト期間)を設けながら、全ての試行に参加する方法です。

*6 LF/HF:交感神経(LF)、副交感神経(HF)の比で、バランス値ともいう。LF、HFともに、心拍計測で得られた周波数領域のパワースペクトルの合計量を指します。LF/HF値が高いと交感神経優位を、低い場合は副交感神経優位を示しています。

*7 コンディショニング 運動競技において、能力を最上の発揮出きるように精神面・肉体面・健康面などから状態を整えること。

*8 リカバリー 効果的な疲労回復のこと。以前の活動状態に戻るだけでなく、それを超える活動能力を得ることにつながる回復過程とも定義できます。

 

 

  • 論文情報

雑誌名:PeerJ

論文名:Effect of napping on a bean bag chair on sleep stage, muscle activity, and heart rate

Variability.

執筆者名(所属機関名):Masaki Nishida1,2, Atsushi Ichinose1,2, Yusuke Murata2 and

Kohei Shioda2,3

1 Faculty of Sport Sciences, Waseda University, Tokorozawa, Saitama, Japan

2 Sleep Research Institute, Waseda University, Shinjuku, Tokyo, Japan

3 Faculty of Human Sciences, Kanazawa Seiryo University, Kanazawa, Ishikawa, Japan

 

オンライン掲載日:2022年5月9日(月)

掲載URL:https://peerj.com/articles/13284/

DOI:https://doi.org/10.7717/peerj.13284

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