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理想を超える生成:Douban「Women Fitness」コミュニティにおける女性フィットネスとデジタル主体性/Becomings beyond the ideal: women’s fitness and digital subjectivities in the Douban Women Fitness community

理想を超える生成:Douban「Women Fitness」コミュニティにおける女性フィットネスとデジタル主体性/Becomings beyond the ideal: women’s fitness and digital subjectivities in the Douban Women Fitness community
Posted
Tue, 28 Jul 2026

概要/Abstract

本研究は、中国の女性限定オンライン・コミュニティ「Women Fitness」を対象に、フィットネス実践が美容や自己管理に回収されるだけでなく、ケア、知識共有、抵抗の場として再構成される過程を明らかにしました。

This study examines Women Fitness, a women-only digital community in China, and shows how fitness is reconfigured from an individualized project of beauty and self-optimization into a collective practice of care, knowledge-making, and feminist resistance.

これまでの研究で分かっていたこと/Research Background

近年、中国では UFC(Ultimate Fighting Championship)チャンピオンの張偉麗や監督・俳優の賈玲など、女性の身体的強さを象徴する存在が注目され、女性がトレーニングを通じて「肌白く、細く、若く」という美の規範に一石を投じています。多くの研究が指摘してきたように、InstagramやTikTokといった主流のSNS上のフィットネス文化は、こうした変化を歓迎しつつも、結局は「身体は自己管理・自己最適化すべきプロジェクトである」という新自由主義的な価値観を強めてしまう傾向にありました。また、既存の研究の多くは、実名や写真を伴う欧米の可視的なSNSプラットフォームを対象としており、中国語圏における、より匿名性が高く文章中心の非公開的なコミュニティについては、十分に検討されてきませんでした。本研究は、この空白を埋めるべく、フェミニスト新唯物論(※1 FNM)という理論枠組みを用いて、フィットネス、身体、感情、知識、プラットフォーム機能がどのように結び付き、女性たちのデジタル主体性を形づくるかを分析しました。

今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと/Findings

本研究が明らかにした第一の点は、Women Fitnessでは、コミュニティのガイドラインは、参加者のやり取りから徐々に形成されていたことです。初期には「細い腕」「理想的なウエストとヒップの比率」などの投稿も見られましたが、参加者は部分痩せや過度な体脂肪率へのこだわりを批判し、身体の多様性や安全なトレーニングを重視する方向へ議論を導いていました。こうした実践は後に、男性のまなざし、広告、身体不安をあおる表現、疑似科学を禁止するガイドラインとして制度化されました。

第二に、感情は個人の内面に閉じたものではなく、コメント、いいね、保存、シェア、ピン留めなどを通じて循環し、共同体の力になっていました。感情分析では、コメント全体の53.8%がポジティブ、24.4%がニュートラル、21.8%がネガティブでした。怒りや不安は否定されるのではなく、身体羞恥や男性中心的な考え方への批判、女性同士の励まし、実用的な助言へと変換されていました。

第三に、同コミュニティでは、身体が単一の理想像に向かって改善される対象としてではなく、疲労、月経、けが、加齢、睡眠、食事、生活条件とともに変化するものとして語られていました。トピック分析では、筋力トレーニング、ホームトレーニング、栄養、休養、けがの予防、運動中の不調などが主要な話題として抽出されました。

以上から、Women Fitnessは、フィットネスを「見た目をよくする個人の努力」から、「ともに知識をつくり、支え合い、身体規範に抵抗する実践」へと組み替えるフェミニスト・カウンターパブリック※4として機能していることが分かりました。ただし、科学的知識へのアクセス、時間、休養、安全な運動環境などには格差があり、コミュニティも社会構造から完全に自由ではないことも確認されました。

そのために新しく開発した手法/Methods developed

本研究では、フェミニスト新唯物論を、デジタル・エスノグラフィーと計算的分析を組み合わせて操作化しました。具体的には、2022年7月から2024年9月までに取得可能だった5,626件の投稿と114,019件のコメントを対象に、トピック分析、感情分析、エンゲージメント指標を用いて分析しました。

また、166件のスレッドを精読し、ピン留め投稿、上位エンゲージメント投稿、初期投稿、編集部によるハイライト投稿を観察しました。計算的分析で見えた傾向を、実際の投稿内容やコミュニティ運営の文脈と照合することで、数値だけでは捉えにくい意味づけや権力関係を読み解きました。

研究の波及効果や社会的影響/Research implications to the society

本研究は、フィットネスやウェルネスをめぐるSNSにおける身体文化が、必ずしも「見た目の理想」を追い求める競争的な場になる必要はないことを具体的に示しています。ルールを利用者自身が作り上げていく参加型の運営や、否定的な感情を排除せず受け止め合うコミュニティ設計は、フィットネス分野に限らず、身体や健康にまつわる悩みを扱うオンライン・コミュニティ全般にとって、一つのモデルケースとなり得ます。特に、女性の身体を数値や理想像で評価するのではなく、生きられた経験として尊重する場づくりのヒントを提供しています。

今後の課題/Future issues

第一に、「Women Fitness」はDoubanという、文化的資本の高い層が集まりやすいプラットフォーム上のコミュニティであるため、その知見を中国人女性全体に一般化することはできません。第二に、本研究はテキストデータの分析に主眼を置いたため、画像や動画といった非言語的な表現は分析の対象外となっています。第三に、オンライン上の発言だけでは、メンバーたちの実生活における行動や経験を直接知ることはできません。今後は、他のプラットフォームとの比較や、インタビュー調査を取り入れることで、オンラインでの語りと実生活とのつながりをより深く検討していく必要があります。

研究者のコメント/Researcher’s Comment

データを読み込むなかで、何度も心を動かされたのは、「痩せなくていい」「筋肉も脂肪も、どちらも自分の味方」といった言葉がやさしさとして交わされている様子でした。フィットネスというと「見た目を変えるもの」というイメージが強くありますが、このコミュニティでは、身体を「変えるべき対象」ではなく「共に生きていく相手」として捉え直す実践が積み重ねられていました。日本と中国、それぞれの社会における女性の身体をめぐる規範を比較しながら、このような小さな、しかし確かな連帯のかたちを、今後も研究を通じて可視化していきたいと考えています。

用語解説/Terminology

※1 フェミニスト新唯物論

身体や感情、モノや環境が互いに関わり合いながら、人の主体性やアイデンティティを絶えず作り変えていく、というものの見方を提示する理論的立場です。固定された「本質」ではなく、関係性の中で生まれ続ける「生成変化(ビカミング)」を重視します。

論文情報/Journal Information

雑誌名/Journal:Frontiers in Sports and Active Living

論文名/Title:Becomings beyond the ideal: women’s fitness and digital subjectivities in the Douban women’s fitness community

執筆者名・所属機関名/Authors and Affiliated Organisation:Siqi Fan・Kohei Kawashima(早稲田大学スポーツ科学研究科・早稲田大学スポーツ科学学術院/Graduate School of Sport Sciences, Waseda University・Faculty of Sport Sciences, Waseda University)

Publishment Date(Local Time):01 May 2026

Publishment Date(Japan Time):01 May 2026

(オンライン掲載/For online publication)

URL:https://doi.org/10.3389/fspor.2026.1786979

DOI:10.3389/fspor.2026.1786979