シンポジウム「国際契約法・紛争解決の最先端」
【主 催】早稲田大学比較法研究所
【共 催】国際商事法務、国際商事研究学会、国際取引法学会国際契約法制部会、早稲田大学法務研究科
【日 時】2025年3月27日(木)18:30~20:30
【場 所】早稲田大学8号館303会議室
【報告者】インゲボルグ・シュベンツァー(バーゼル大学名誉教授),テファン・クロール(ブチェリウス大学教授)
参加者:33名(うち学生12名)・Zoom参加35名
2025年3月27日(木)、早稲田大学にてシンポジウム「国際契約法・紛争解決の最先端」が開催されました。冒頭に世話人である早稲田大学の久保田隆教授の司会の下、シンポジウムのプログラムと、講演者の招聘に関西学院大学の山田到史子教授にご貢献頂いていることが説明されました。続く開会挨拶では、国際商事法研究所の山浦勝男常務理事より今回のシンポジウムへの後援につき説明がなされました。
シンポジウムではまずバーゼル大学のインゲボルグ・シュベンツァー(Ingeborg Schwenzer)名誉教授より、「CISGとサプライチェーンにおける持続可能性」と題された報告が行われました。本報告では「国際物品売買契約に関する国際連合条約(CISG)」について、条約の性質や責任負担に関して焦点が当てられました。報告では「物品の適合性」について規定されたCISG第35条の下、売主側が人権遵守などの行動規範や条項を定めている場合に契約の一部となり、責任負担の根拠になり得ることが説明されました。
報告の後、西南学院大学の多田望教授より、サプライチェーンにおける人権侵害に対し、CISGの第41条、42条に基づき売主が第三者の権利侵害について知らなかった場合の免責に関する規定の適用について質問が挙げられました。シュベンツァー名誉教授からは、第42条の基準を適用した場合であっても、現代においては人権遵守に関する取引対象国のサプライチェーンに関する法制について周知の事実とみなされるため、責任を免れることは困難であると述べられました。
次にブチェリウス大学のステファン・クロール(Stefan Kroell)(Stefan Kroell)教授より、「仲裁における抵触法」と題された報告が行われました。報告では2020年のKabab-Ji対Kout Food Groupに対するイギリス最高裁判所の判例を基に、仲裁裁判における抵触法の重要性について説明されました。本判例では、契約の準拠法をイギリス法とし、フランスのパリを仲裁地とする仲裁条項を持ったフランチャイズ契約をめぐり、契約の準拠法を重視し仲裁条項の有効性を否定したイギリスと、国際仲裁法の実質規則を重視し仲裁条項の有効性を肯定したフランスとの間で結論が分かれました。報告では各国の抵触法へのアプローチの違いを理解し、実務上は複雑な問題を回避できる契約内容とする必要があると述べられました。
報告の後、法務省の宮崎氏より、抵触法の問題における大陸法と英米法の違いに関し、相互理解を深めるための方法は何があるのか、例えば2025年11月に日本仲裁人協会と日本商事仲裁協会がイベント開催を企画しているが、こういった方法は有効であるのか、という質問が挙げられました。クロール教授からは、自身もドイツ仲裁協会の代表として日本仲裁人協会と協力覚書を取り交わしたが、このような国際交流を通じて相互理解を深めることが重要であると述べられました。
会場からは、実務上は仲裁合意に準拠法を明示すべきかといった質問が挙げられ、近年の香港の仲裁機関における取り組みなどを踏まえ議論が深められました。
(文:小阪真也・比較法研究所助教)
2025.04.17更新