Institute of Comparative Law早稲田大学 比較法研究所

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【開催報告】日独シンポジウム『AIと法-可能性と課題-』が開催されました

日独シンポジウム「AIと法―可能性と課題―」

主催:日独法律家協会(DJJV)
共催:早稲田大学比較法研究所、早稲田大学知的財産法制研究所、早稲田大学法学部、ベルリン日独センター、ドイツ科学・イノベーションフォーラム(DWIH)、ドイツ連邦弁護士会(BRAK)
日時:2022年6月10日(金)9:30~17:15
場所:早稲田大学 小野記念講堂(早稲田キャンパス27号館地下2階)
参加者:60名(うち学生8名)※会場来場者のみ。オンライン配信:537 views

 

2022年6月10日、早稲田大学小野記念講堂にて、日独シンポジウム「AIと法:可能性と課題(Artificial Intelligence and Law: Chances and Risks)」が開催されました。

AIの発展は法の理論と実務にいかなる影響を与えるのか――これは、今日法学が取り組むべき最重要課題のひとつです。本シンポジウムは、日本・ドイツの比較法学の観点から、AIの利用・発展が様々な法分野にいかなる影響・含意をもたらすのかを、理論と実務の両方から検討するものでした。

最初に、箱井崇史教授(早稲田大学法学部長)とDr. Jan Grotheer(独日法律家協会名誉会長)が開会の辞を述べられた後、来賓として清田とき子氏(ベルリン日独センター副事務総長)、Swetlana Schaworonkowa 氏(ドイツ連邦弁護士会主席リーガルアドヴァイザー)、Dr. Laura Blecken(ドイツ学術交流会東京事務所副所長)がご挨拶されました。司会はProf. Dr. Christoph Rademacher(早稲田大学)が務めました。

 

第一部「AIのビジネス法への影響」(司会:上野達弘教授)

第一部「AIのビジネス法への影響」(司会:上野達弘教授)では、最初に小笠原匡隆氏(株式会社LegalForce代表取締役共同創業者・法律事務所ZeLo外国法共同事業代表弁護士)が研究報告「日本におけるリーガルテックとAIに関する日本法の現状」を発表されました。
小笠原氏は、欧米と日本におけるリーガルテック導入の興隆とその傾向について分析した後、AIによる契約書レビューのデモを紹介し、AIによる契約レビューはその実態に比して過度な社会的期待がかけられていると指摘されました。また、欧州委員会のAI規制案を日本の産業界がどのように受け止めたかを紹介するとともに、日本のAIと法をめぐるガイドラインを紹介・検討されました。

次にDr. Christian  Lemke(ドイツ連邦弁護士会副会長・弁護士)が、特に欧州委員会による人工知能規制案に関連する問題について、研究報告をされました。Lemke博士は、AIと法をめぐる問題についても欧州人権憲章の尊重を出発点として考察していくべきであると確認した上で、AI規制案が刑事関係については人権保障の観点から不十分なレベルに留まっていると問題提起されました。加えて、とりわけ航空会社やホテル、石油などに関連して、AIによる価格設定アルゴリズムを、競争法の規制対象とするための方途について検討されました。その後の質疑応答では、ドイツの産業界が欧州委員会のAI規制案をどのように受け止めたのか、日本のAIに関するガイドラインの法的位置づけ等はどのようなものなのか、リーガルテックと利益相反についてどのように考えるのかなどについて議論がなされました。

第二部「AI の民事法への影響」(司会:肥塚肇雄教授)

第二部「AI の民事法への影響」(司会:肥塚肇雄教授)では、最初に山口斉昭教授(早稲田大学)が研究報告「日本の民事責任法におけるAIと責任」を発表されました。
山口教授は、特に自動運転や医療の場面でのAI使用によって人身傷害等が生じた際の責任帰属の問題について検討されました。そして、被害者保護の観点からすれば、AIを使用する者やコントロールする人間を想定しその者に責任を帰属させるという現在の日本で主流のアプローチが現実的であると認めつつ、しかしAIの判断ミスについても人間に肩代わりさせることは責任の基本理念に違背しているようにも思われるため、責任帰属と被害者保護を分離するようなアプローチもあり得るのではないかと指摘されました。

次にProf.  Dr.  Wolf-Georg Ringe(ハンブルク大学)も、研究報告「人工知能と民法上の責任」にて、AI使用と責任帰属の問題について発表されました。Ringe教授はAIそのものに責任を帰属させる考え方の難点を特に重点的に説明した上で、最も安価にコスト回避手段をとることができる主体に損害回避措置を義務付けるという法と経済学的な考え方を援用し、AI製造者に責任を帰属させるという考え方を詳細に検討されました。その後の質疑応答では、保険を活用するアプローチや、製造者に責任を負わせる場合にその責任を無過失責任とするべきかなどをめぐって議論がなされました。

第三部「AIの刑事法への影響」(司会:井田良教授)

第三部「AIの刑事法への影響」(司会:井田良教授)では、最初に遠藤聡太教授(早稲田大学)が研究報告「AIと刑事法に関する日本の議論の現状と今後の方向性」を発表しました。
遠藤教授は、最初にAIの特徴(特にその判断過程が「ブラックボックス性」を有する点と、それが社会的にもたらす便益が大きいという点)およびAIとその開発者に過度な責任を負わせると開発意欲が萎縮されてしまうことに着眼し、AIの刑事責任という課題に関して慎重な検討が必要であると述べました。さらに、AIの刑事責任をめぐる議論では、そもそも刑事責任を問いうるための条件を備えた人間類似のAIを社会実装することをめぐって社会的便益を意識した議論が必要であると主張されました。加えて、AIの安全性を確保するために開発者らが果たすべき義務内容を、社会的便益も踏まえながら具体化することに、より重点的に取り組むべきとも指摘されました。

次にProf. Arndt Sinn(オスナブリュック大学)は、刑事手続においてAIを導入することに伴うチャンスとリスクについて研究報告をしました。Sinn教授は最初に、刑事手続におけるAIの活用場面について、捜査の端緒の立証、事実関係の解明、および標的評価のサポートといった三つの場面をそれぞれ紹介しました。また、公判手続または刑の執行においてもAIによるサポートが可能であることが指摘されました。一方、刑事手続におけるAIの導入に伴うリスクとして、職権主義、起訴法定主義、弾劾主義、自由心証主義、無罪の推定をはじめとするドイツ刑訴法の原則に基づく詳しい検討がされました。その後の質疑応答では、AIの責任能力、日独両国における法人処罰の可否の違い、そしてAIの「国籍」などについて議論がなされました。

第四部「AIの公法への影響」(司会:岡田正則教授・比研所長)

第四部「AIの公法への影響」(司会:岡田正則教授・比研所長)では、最初に田村達久教授(早稲田大学)が、日本におけるAI利活用の影響およびその利活用に対する法規制の動向について研究報告をしました。アイキャッチ画像
田村教授は最初に、AI研究成果には人々に福利をもたらしうる「光の面」だけではなく、技術の研究や成果の運用では必ず伴う「陰の面」にも留意しなければならないと指摘しました。次に、田村教授は、行政手続きにAIを導入することと、適正手続保障・公共的意思決定・学問の自由との関係を検討した上で、AIの利活用や開発研究について一定の法的規制を定める必要があると論じ、現状では日本におけるAI利活用に対する法的統制が進んでいないと指摘しました。

次にProf. Silja Vöneky(フライブルク大学)が研究報告「AI、公法と国際法」を発表しました。Vöneky教授は、医療機器と自動運転車に使われるAIを例に、今までの国際条約による規制アプローチの欠陥を概観した上で、欧州委員会の新しいAI規則案を紹介しました。その結論として、Vöneky教授は、国際法上に既存のAI規制はいずれも明らかな「空白」があり、とりわけハイリスクAI製品に対する適切な規制が早急に必要であると述べました。質疑応答では、自律的武器システムの法規制、国際条約の有効性などについて議論がなされました。

シンポジウムの最後に、Dr. Jan Grotheerが閉会の辞を述べられました。以上をもって、今回の日独シンポジウムは盛会のうちに終了しました。

(文:松田和樹・比較法研究所助手、周洪騫・比較法研究所助手)

参考
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