公開講演会「凍結・押収・差押え・没収――ロシアの新興財閥(オリガルヒ)に対する制裁の貫徹と法治国家への挑戦」
主催:早稲田大学比較法研究所
日時:2022年6月17日(金) 18:15~19:45
場所:早稲田キャンパス8号館3階303会議室
参加者:22名(うち学生11名)
2022年6月17日、8号館3階会議室で公開講演会「凍結・押収・差押え・没収――ロシアの新興財閥(オリガルヒ)に対する制裁の貫徹と法治国家への挑戦」が開催されました。講師のアルント・ジン教授は、オスナブリュック大学で法学部教授を務めるほか、ヨーロッパおよび国際刑法学研究センター所長も務めており、今ドイツにおける組織犯罪・経済犯罪研究の第一人者であり、”Organisierte Kriminalität 3.0”(2016)などの著書があります。

左から仲道研究所員、ジン教授、十河研究所員
今回は、2022年5月16日ドイツ連邦議会法務委員会における意見表明をもとに、対露経済制裁における資産凍結等の法的根拠とその問題点、さらなる改正の必要について講演いただくもので、司会は仲道祐樹研究所員(社会科学総合学術院教授)、通訳は十河隼人研究所員(法学学術院講師(任期付))がそれぞれ務めました。
ジン教授はまず、ロシアへの制裁に関する欧州連合(以下、EUという)の法的行為の構造について説明しました。2014年に、2つのEU規則(分野別措置に関する「COUNCIL REGULATION (EU) No 833/2014」と、対象者のリストアップに関する「COUNCIL REGULATION (EU) No 269/2014」)が制定されており、これらの両規則により、個人の財産に対して、凍結することが可能であるというものです。
その後、当該財産の個人的利用または消費はなお広範に許されているため、そこに規則の改正が必要であるとの指摘がなされました。凍結はあくまでも経済的目的のために財産を処分することを禁ずる手段であり、財産を国の管理下に移すものではなく、仮に財産の私的利用からも完全に排除しようとするのであれば、押収・差押えという国家制度に頼る必要があるからです。
最後に、ジン教授は、現在の法改正を含めたドイツの法体制に限界があるとし、より効果的な制裁執行を保障するためには、ドイツの諸官庁の管轄を明確にするとともに、財産客体への監視も強化すべきと指摘しました。また、「凍結」の定義をEUレベルで拡張すべきとの提言もなされました。
その後の質疑応答では、EU規則による制裁制度の趣旨やその正当性、押収を行う前提である「現在の危険」という概念の理解、EU加盟国における国内法の現状などについて、幅広い議論が展開されました。
(文:周洪騫・早稲田大学比較法研究所助手)