公開講演会概要
「刑法学の対象と課題(Zu Gegenstand und Aufgabe der Strafrechtswissenschaft)」
【日時】2017年10月7日(土)16:30~18:00
【会場】早稲田キャンパス9号館5階第1会議室
【講師】ウルス・キントホイザー(Urs Kindhäuser)ボン大学教授
【通訳】仲道 祐樹 兼任研究所員・早稲田大学社会科学総合学術院教授
【参加者】学生(14名)、教職員・一般(30名)
1.講演概要
刑法学は、法実務に対して一定の法的ツールを提供すると同時に、これを批判する役割をも有している。この役割は刑法学の学問性(Wissenschaftlichkeit)を前提とする。刑法学に含まれる学問分野には、4つのもの(教義学、法の理論、経験的手法、哲学)があり、それぞれがそれぞれの分野の学問性を充足する必要がある。
法の理論は、法そのものを論理的・構造的に拘束するものであり、刑法のあり方の制約となる。経験諸科学は、刑法学という法の世界・制度の世界の前提にある「自然の世界」を記述し、誤った認識に基づく刑法のあり方に事実の面から反省を促す。哲学は、刑法学に対して、なぜそれでよいのか、とりわけなぜ刑罰という害悪を用いることが許されるのか、という正統化の圧力として刑法学に対峙する。
2.質疑応答
会場からは、非常に多くの質問が出された。話題の中心となったのは、現在の刑法の拡大化傾向、処罰の早期化傾向に対して、刑法学がいかなる寄与をなし得るか、という点であった。キントホイザー教授からは、刑法に担わされる役割が過大になっており、その点は危惧していること、また、リスク社会論を前提として、技術的な側面に着目した処罰の早期化(例えば、原子力のように生じる結果が計り知れない場合には、結果が発生するかなり前の段階で規制する必要がある)は許容されるが、近時ドイツ刑法に見られる傾向である、行為者の意図・目的に着目した処罰の早期化(例えば、爆弾を作る目的で購入した部品を飛行機の機内に持ち込むことを、航空交通への危殆化罪で捕捉するなど)については反対であることが示された。また、ドイツの2016年性犯罪規定改正への評価といった個別の犯罪類型の評価といった具体的事例への評価や、刑法の基礎概念である法益論をめぐってディスカッションが行われた。このように議論が白熱した結果、講演会は予定時間を大幅に超えて、盛会のうちに終了した。
参考
開催概要