日台刑事法学シンポジウム「刑事立法学の日台比較」
【主 催】早稲田大学比較法研究所
【共 催】早稲田大学法学部、早稲田大学先端社会科学研究所(早稲田大学台湾研究所)、 JSPS科学研究費基盤研究B「『家族刑法学』の構築に基づく刑法理論の新地平」(JP24K00206)
【日 時】2025年3月8日(土)13:00~18:30
【場 所】早稲田大学14号館801会議室
【報告者】謝煜偉(国立台湾大学教授),深町晋也(立教大学教授),許恒達(国立台湾大学教授),仲道祐樹(早稲田大学教授)
参加者:36名(うち学生5名)
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2025年3月8日(土)13時より、国立台湾大学の謝煜偉教授、許恒達教授をお招きし、日台刑事法学シンポジウム「刑事立法学の日台比較」を行いました。
開会にあたり、上野達弘・比較法研究所長、早田宰・台湾研究所長からそれぞれご挨拶をいただきました。
第1パネル「日本と台湾における近時の刑事立法の動向」では、謝教授から、台湾における近時の刑事立法の特徴として、抽象的危険犯立法の増加、法定刑の引上げ・厳罰化、新しい技術に伴う現象の犯罪化(特に、生成AIに関するもの)という3点が見られる一方、これらの立法においては、熟慮を欠いたままに刑事立法が行われるという背景があることが指摘されました。これらの問題に対応するための理論的ツールとして、謝教授は、立法および解釈の善し悪しを判断する尺度としての法益論への期待を示されました。
第1パネルの日本側報告者である深町晋也教授(立教大学)からは、AI生成性的画像の刑事規制について、日台独の法状況を比較した分析が示されました。日本においては現状、直接適用可能な規定が存在しない中で、どのような立法を行うべきかにつき、深町教授は、AI生成性的画像の侵害性を、いわれなく性的客体として貶められることによる精神的苦痛に求め、その観点から新たな犯罪化の可能性を示唆されました。
第1パネルのディスカッションでは、AI生成性的画像を性犯罪として位置づけることの是非や、AI技術ではなく、精巧な手書きで他人の(実在しない)性的姿態を描写した場合の可罰性、当罰性をどのように考えるのかについて、議論が行われました。
第2パネル「日本と台湾における刑事立法分析をめぐる議論」では、許教授が、刑事立法分析における法益論の有効性を、近時の台湾の憲法法廷で有力となっている、アメリカ型の審査基準論との関連で論じられました。具体的には、刑事立法は重大な基本権侵害となるので、少なくとも中間審査基準、場合によっては厳格審査基準に服するとの認識から、これらの審査基準における加重された目的審査の基準として、法益論を用いるべきであるとされました。
第2パネル日本側報告者であ(り、本報告の執筆者であ)る仲道からは、現在の日本の刑事立法学の議論状況を概観した上で、許教授の問題提起をうけて、刑事立法の合憲性審査における刑法上の法益論の有効性を批判的に検討しました。結論として、刑法上の法益論は、手段審査で行われるべきことを目的審査の形に先取り的に変換しており、審査基準と審査結果の混交が見られることを指摘しました。
ディスカッションでは、日台の憲法審査制度の違いが刑事立法分析の理論枠組みに及ぼす影響や、尊属殺について違憲判断に至った日本と、法定刑の引下げで対応した台湾の違いをそれぞれの刑事立法分析枠組みからどのように位置づけるかといった質問が出され、議論が行われました。
共有された問題意識のもと、理論的に高度かつ日台の議論がかみあった報告とディスカッションが行われたシンポジウムであり、今後の日台刑法学の交流から多くの研究成果が生まれることを期待させるものでした。
最後に、台湾では授業がスタートしているにもかかわらず来日をご快諾いただいた謝先生、許先生、日本側報告者としてご登壇いただいた深町先生、本シンポジウムの実施にあたりお力添えをいただいた方々、またフロアで活発なご議論をいただいた参加者のみなさまに、心より御礼を申し上げます。
(文:仲道祐樹・比較法研究所員)