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【開催報告】レイチェル・サンダーズ教授講演会 Kachōga: Picturing Other-than-Human Being in Japanese Painting

【開催報告】レイチェル・サンダーズ教授講演会 Kachōga: Picturing Other-than-Human Being in Japanese Painting

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FRI 2026
Time
17:00~18:30
Posted
Mon, 02 Feb 2026

レイチェル・サンダーズ教授講演会

Kachōga: Picturing Other-than-Human Being in Japanese Painting


東アジア絵画の三大ジャンルの一つに分類される花鳥画は、アジアにおいては、職業画家による写実的な制作ゆえに軽視されてきた歴史を有し、西洋ではその洗練された意味論的役割が象徴の記号群へと近視眼的に還元されたため軽んじられてきた。現代において、私たちは、前近代の花鳥画に描かれた鳥や植物の名前を、いったいどれほど正確に識別できるだろうか? このような問いは、この公開セミナーの講師であるレイチェル・サンダーズ教授が、前職であるハーバード大学美術館で2020年2月14日~2021年6月6日にかけて開催したPainting Edo: Japanese Art from the Feinberg Collectionを通じて獲得したものである。同美術館開館以来の大規模展であったこの展覧会は、COVID-19の世界的流行によって、開館後たった3週間で閉じざるを得なかったという。同展の企画担当をしたサンダーズ教授は、閉じられた展示空間をなんとかして外部の鑑賞者に開くべく、展示のオンライン配信に取り組み、酒井抱一「十二か月花鳥図」を含む数多くの花鳥画が並ぶ展示室にて、植物学者らとともに作品解説し、その様子を世界に向けて発信した。その時、予想外のことが起こった。生物学的な観点から、描かれた植物や生物の種類が正確に特定されることで、そこには、絵画が本来有していた文化的コンテクストが立体的に立ち現れ、美術史家が予想した以上の豊かな意味を読みとくこととなった。配信は大きな反響を得、サンダーズ教授自身にも、上記のような新しいテーマが見えてきた。

地理人文主義者のジャレッド・ファーマーは、近著『エルダーフローラ』の中で、古代樹などの巨大植物が、古代の聖典のように、人類の時間と地質時代の架け橋となり得ることを強調している。人間は過去を振り返ることに長けているかもしれないが、ファーマーは、遠い未来への先見性とつながりを向上させるためにはまだ多くの努力が必要であり、着眼点のパターンを根本的に変えなければ、私たちは壊滅的な失敗を続けてしまうだろうと主張している。

そうであるにもかかわらず、私たちの多くは“植物看過(plant blindness)”の傾向、つまり日常生活の中で植物に気づかず、認識できない認知バイアスを抱えているのではないだろうか。美術史家は、絵画に描かれた動植物の名についての説明を求められた際、しばしばこの現象に直面する。ツバキ、ヒメジョオン、ヒタキといった固有名ではなく、「木」や「花」、あるいは「小鳥」といった単なる指標で終わらせてしまいがちだからである。私たちが、描かれたモチーフに不十分な言葉を添えると、その言葉はそれらの存在を完全に覆い隠し、生命力を弱めてしまう。それは世界と私たち自身の解釈を歪め、鈍らせる。十分な言語的注意なしには、私たちは絵画、文書、そして人間以外の生き物を完全に理解することができず、そのことは、私たち自身にとっての不利益となるだけでなく、はるかに多くの場合、彼ら、人間以外の生き物たちにとっての不利益を生じさせることとなるのだ。

サンダーズ先生がこのセミナーを通じて、「花鳥画」に対して、上記のような新たな光をあててくださったことは、これからの美術史研究の豊かな可能性を示すことでもあった。人間/非人間(Human/ Other-than-Human Being)に関する新たな方法論を示しつつ、作品をいかにして「読むか」という、美術史学において古典的方法論である図像学(図像解釈学)をいかに拡張・更新できるかという刺激に満ちた問題提起がなされた。

当日の会場は、本学の大学院生や教員に加え、コロンビア大学や東京大学の大学院生や教員も参加してくださった。セミナー後も、総勢20名を超える参加者間での質疑応答が時間を延長して活発に交わされた。

開催概要

  • 日時:2026年1月16日(金)17:00~18:30
  • 場所:早稲田大学戸山キャンパス36号館382教室

タイムスケジュール

  • 17:00 登壇者紹介(山本聡美)
  • 17:05-18:20 公開セミナー
    レイチェル・サンダーズ“Kachōga: Picturing Other-than-Human Being in Japanese Painting”
  • 18:20-19:00 質疑応答の後、閉会

 

主催:早稲田大学総合人文科学研究センター「角田柳作記念国際日本学研究所」