Global Japanese Studies早稲田大学 文学学術院 国際日本学

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開催報告:国際日本研究の足跡をたどる試み ー 人間F.ホーレーと「宝玲文庫」― 

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2023年1月16日(月)早稲田大学戸山キャンパス33号館3階第1会議室にて、講演会「国際日本研究の足跡をたどる試み - 人間F.ホーレーと「宝玲文庫」」が総合人文科学研究センター 角田柳作記念国際日本学研究所の主催、スーパーグローバル大学創成支援事業 早稲田大学国際日本学拠点共催のもとで開催された。
本講演会の主題となったフランク・ホーレーと「宝玲文庫」については、2017 年 1 月に「フランク・ホーレー、人物と業績に関する研究:遺産資料の再照明」と題し講演会が開催され、さらには2019 年 1 月にはシンポジウム「フランク・ホーレー研究の基盤と展望─遺品資料活用の未来像」がおこなわれている。今回のイベントはそれらの活動を直接引き継ぐものであり、6年にわたる活動の一つの到達点と言える内容となった。

講演会ではホーレー研究の第一人者である横山學氏(ノートルダム清心女子大学名誉教授・角田柳作記念国際日本学研究所招聘研究員)と、この間ともに研究を進めてきた藤原秀之氏(本学教育学部非常勤講師・角田柳作記念国際日本学研究所招聘研究員)が登壇し、さらに来日中のハルオ・シラネ氏(コロンビア大学教授)にコメントをいただいた。講演者からはホーレーの人物像とその蔵書について報告があり、シラネ氏からは、近代における日本研究の歴史とホーレーの役割について重要な指摘がなされた。講演会終了後には、参加者と意見交換を行う時間がもたれ、充実した内容となった。以下、会の内容について報告する。

冒頭、本学の李成市教授(文学学術院)から、フランク・ホーレー研究の現況と今後の方向性について紹介があり、本講演会が6年間の活動の総括として位置づけられる旨説明がなされた。その後2人の講演者からの発表があった。

1人目の講演者、横山學氏からは、「人間 F.ホーレーと日本研究」と題して、従来、「ブックコレクター」「日本文化研究者」「タイムス特派員」としてとらえられてきたホーレーについて「文献学者」という視点から見直すべきであるという趣旨の発表があった。このなかで横山氏は、ホーレーの「戦前の蔵書目録を見ると、多くはいわゆる研究のための専門書である。ホーレーは「良い物、良い状態の物、異本も総て」を集めた。原本に限らず、必要な書物は写真版で収集。満足がゆくまで揃わなければ、研究が始まらない。この完璧主義が禍し、研究は重ねるが完成に至らなかった」とし、その結果「収集した書物の上質さのみが注目されて「希覯本ブックコレクター」として名高いが、蔵書の構成や収集の目的には関心が向けられていない」と、その問題点を指摘した。さらにマッカーサーの信頼を得ることではじめてなしえた単独会見の様子などを含む重要人物との単独会見報告書「Back Ground Report 1947」を紹介、特派員ホーレーの活動に言及した。講演の後半では、「ホーレーの視点」として2つの角度からホーレーの人物像に迫った。1点目が「3冊の愛蔵書」、これは横山氏が所蔵するホーレーの愛蔵書3点について詳細に説明するものであった。2点目の「翻訳の姿勢」では、戦前の宮森麻太郎(英文学者)との論争を報じた当時の新聞記事、『外国人のための大日本語辞書』出版企画(のち中止)について、ホーレーの翻訳に対する匿名の批判に対する詳細な反駁文を紹介、さらに彼が残した数少ない著書である「MISCELLANEA JAPONICA」2点の具体的な内容について説明があった。最後に「わたしは将来(日本の)書誌学(Bibliography)を英語で書きたいと思っています。わたしがしたいと思うことは、日本研究にあたってCombinationの仕事でお手伝いしたい」というホーレーの言葉で発表を締めくくった。

2人目の講演者、藤原秀之氏は「「宝玲文庫」とは何だったのか―その全体像と復元の可能性について」と題して、いわゆる「宝玲文庫」について、広く知られているようで実際にはその全体像がつかめていない現状を指摘、ホーレーの遺品資料中の「蔵書目録」、没後の「売立目録」に収載された資料について、現在公開されている古典籍収蔵機関(大学図書館、資料館等)の目録で検索しうる「宝玲文庫」資料と照合することで、その所在を明らかにしようとする試みについて説明があった。これはネット上に公開されている書誌情報、デジタルアーカイブを積極的に活用したものであり、従来、紙媒体で行なわれてきた散逸資料の復元的研究との違いをあきらかにするものであった。講演の冒頭、「宝玲文庫」が一般的には「和漢の稀覯本のコレクションのイメージ」で語られることが多く、「文庫全体の把握がなされていない」点について指摘があり、そこからホーレー遺品資料中の「蔵書目録」と、現存するまとまったコレクションとしての「宝玲文庫」(ハワイ大学阪巻・宝玲文庫、天理図書館所蔵和紙関係文献)、没後の売立目録『ホーレー文庫蔵書展観入札目録』についての解説、とりわけ売立目録中の反町茂雄によるホーレーの収書活動について説明があった。さらに「蔵書目録」と「売立目録」の比較、「売立目録」収載資料の分類別点数などにより「宝玲文庫」の全体像が示された。講演の後半では、散逸した「宝玲文庫」の復元に向けた作業として、蔵書印を手掛かりに各地に散在する資料からの「宝玲文庫」資料捜索の具体的手順が示された。早稲田大学、天理大学、国立国会図書館、CiNiiBooks(国立情報学研究所)や古典籍総合目録データベース(国文学研究資料館)収載の各機関が所蔵する「宝玲文庫」資料を捜索し、「蔵書目録」や「売立目録」との一致を確認する作業は、地道ではあるが、確実に現存する「宝玲文庫」資料を特定する作業であった。最後に今後の展開として、各機関が所蔵する「宝玲文庫」資料の確認作業を進めること、巷間に散逸している「宝玲文庫」を収集することが重要だとし、そのうえで、古典籍利用者が「宝玲文庫」であることを意識し、「宝玲文庫」関連情報の収集管理体制をつくり、そこから「宝玲文庫」復元状況の継続的情報発信を行うことが必要だとの指摘がなされた。

2人の講演を受け、最後に、ハルオ・シラネ氏から「Toward Possible History of Global Japanese Studies」と題して、明治以降の海外研究者による日本研究の歴史と、そのなかでのホーレーの役割が述べられた。最初に、チェンバレン、アストン、ウェイリーなど戦前の日本研究は英国を中心に展開するが、戦後になるとアメリカにうつってゆくことを確認した。また日本人研究者による日本文化の海外への紹介については、鈴木大拙や姉崎正治らによる、宗教、とりわけ「禅」という視点からの情報発信が大きな影響を与えたことが指摘された。そうしたなかでホーレーは言語学、書誌学、本草学、琉球・沖縄といった側面から日本研究をおこなっており、宗教についての関心は少なかったようだとし、ジャーナリストという立場からの影響力、情報発信力は大きなものがあったと考えられ、ホーレーに関する研究が、国際日本学の歴史を知り、今後の展開を考えてゆくうえで重要な意味を持つと指摘した。

質疑応答では、ホーレーの収集活動における絵画資料の存在について質問があったが、絵画という視点からの積極的な収集活動は知られていないとの回答があった。
終了後、会場を移して講演者と来場者との間で懇談の場がもたれ、これまでの活動内容や今後の展開について、意見交換がなされた。

イベント概要
  • 日時:2023年1月16日(月)13:00-14:30(JST)
  • 会場:戸山キャンパス33号館3階 第1会議室
  • 使用言語:日本語
  • 対象:学生、教職員、一般
  • 参加費:無料
  • スケジュール
    13:00-13:05  司会・趣旨説明 李成市
    13:05-13:35  講演1「人間 F ・ホーレーと日本研究」 横山 學 ( ノートルダム清心女子大学名誉教授 )
    13:35-14:05  講演2「「宝玲文庫」とは何だったのかー その全体像と復元の可能性について」 藤原 秀之 (早稲田大学教育学部非常勤講師)
    14:05-14:30  コメント・質疑 ハルオ・シラネ ( コロンビア大学教授 )
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