現職:早稲田大学大学院日本語教育研究センター 非常勤講師
慶應義塾大学理工学部 非常勤講師
日研創設10周年は、私にとっての日本語教育の学びと研究の10周年でもある。科目等履修生として1期生と共に学んだのが正式な日本語教育の第一歩であり、修士の2年間は、我が子と同い年の同級生と机を並べて研究に励む第三の学生時代であった。修了後は、日本語センターで大先輩や若い同僚から学びながら、新米日本語教師としてスタートする機会に恵まれ、現在は念願の理工系の専門日本語教育に携わらせて頂いている。10年前には想像もできなかった充実した日々に改めて感謝したい。
もっともこの10年は、明確な目標を目指してまっしぐらといった道程ではなかった。ただ目前の課題に必死に取り組み、闇雲に進んできたように思われる。職場では、日本語教育のゆたかな知識や経験を持つ先輩や若い同僚の姿が眩しくてならなかった。一方、新米教師の私は学生の質問に赤くなったり青くなったりする日々を過ごしており、授業報告は懺悔録と化すこともしばしばであった。研究もまた手探り状態を続けている。
このように教育実践や研究で何度も壁に突き当たりながらも、ひとつの言葉に励まされてここまで来られたように思っている。「日本語教育では、あなたの人生経験の全てがキャリアとして役立ちますよ。自信を持って進みなさい!」という師の言葉である。ある日教室で、学生達が科学や技術について将来の希望を語るのを聞いていたとき、○十年前に私自身が抱いていた科学への思いがよみがえってきた。ずいぶん遠回りしたようでも、確かに道はつながっている。これからも初心を忘れず、半世紀の人生経験を生かしながら学生達と共に学びつづけたいと思う。