The Waseda International House of Literature (The Haruki Murakami Library)早稲田大学 国際文学館(村上春樹ライブラリー)

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異世界を創った担い手たち #5 「設計事務所と職人をつなぐ――リノベーションのエピソードを聞く(館内編)」

設計事務所と職人をつなぐ――リノベーションのエピソードを聞く(館内編)

5月のある日、国際文学館(村上春樹ライブラリー)の建設に携わった丹野 賢一さん(熊谷組 首都圏支店 第3工事部)と再会した。施工管理者の丹野さんとは竣工時の引き渡し以来なので、2ヵ月ぶりだ。この日に焼けた笑顔に触れると、あらためてお礼を伝えずにはいられなくなる。工事中にお邪魔するたび、いつだってスタッフの人数分のヘルメットをきちっと並べて、時間どおりに待っていてくださる方だった。熊谷組は、建設業の代表的企業の一社であるが、新型コロナウィルス蔓延による影響により、時間的に余裕がない中での工事となった。関係者のみぞ知る4号館リノベーションに関わるこぼれ話とは。

丹野 賢一さん(熊谷組 首都圏支店 第3工事部)

前回の記事に続け、今回は館内編をお届けしたい。前回の記事(外観編)はこちら

丹野 賢一さんは、メインエントランスから館内へと歩みを進める。国際文学館(村上春樹ライブラリー)のトンネルは、実は外部だけでは終わらず、エントランスから階段本棚に向かって、アーチ型のルーバーが続いている。

「ここはなかなか骨を折りましたよ」。丹野さんはとっておきのエピソードを話してくれた。「階段上部のアーチの板材には、実はステンレスの芯が入っています」。そう教えてもらって目を凝らしたが、まったく継ぎ目は見当たらない。どういうこと?と尋ねた。すると、茶目っ気たっぷりに「この角度から見てみてください」と促す。そのヒントをもとに確認すると、ギリギリ見えるか見えないかのところで、確かに板がくり抜かれ、何かが中に入っている様子がわかる。「芯材なしには強度が保てません。設計事務所の意匠をもとに、耐久性の観点を入れて形にするのが私たちの仕事なのです」と。小さなビスまで、木の色に合わせたものが選ばれている。隈研吾さんのデザインを、微に入り細に入り、具現化している。

「階段の踏板が薄いですよね。これで安全性や耐久性は大丈夫なのでしょうか」と質問をしてみる。「鋭いですね。いかにも薄い」と笑顔の丹野さん。なになに?どういうこと?「実は、ここの踏板の下には鉄骨が隠れており、それが土台となって、この薄い踏板を支えています」と答えた。続く説明によると、階段本棚の工程は大きく4つに分かれていたそうだ。まず、足場を組み、吹き抜け部分に書棚を設置する。次に、その足場を外し、階段下部の鉄骨を納める。その後、もう一度足場を組み、吹き抜け上部のアーチを設置する。最後に薄い踏板を組んでいく。何とも気が遠くなる作業である。この4ステップを知れば、階段本棚への愛着がますます強まることだろう。

デザイン性を保ちながら、耐久性や安全性を確保することは容易ではないはずなのだが、丹野さんは「現場の力はすばらしいですよ。人生かけてものづくりに携わる職人たちは、究極の専門職です」と胸を張った。「ぼくは何も作れないけれど」と続け笑いを誘うが、「丹野さんのような施工管理者も究極の専門職ですよ」と伝えたい。

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